成り上がり覚醒者は依頼が絶えない〜魔王から得た力で自分を虐げてきた人類を救っていく〜

酒井 曳野

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第1章 炎の国『イグニス』〜今こそ覚醒の時〜

第72話

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「レインさんとは仲良くしたいです。ギルドとしても……こ、ここ、個人的にも……です。ずっと隣にいたいって……お、思ってます」


 "ひゃああああ!!!言ってしまった!!言ってしまいました!!"


 ニーナの心境は穏やかではなかった。今すぐにでもここから飛び出し気分だった。許されるなら窓を突き破って帰りたい。もちろんそんな事はしませんが。


「俺も同じ気持ちですよ」


「え?!?!そ、それって!!」


「俺もダンジョン攻略の時はニーナさんが居てくれた方が助かります。予定が合うんでしたらまた一緒にみんなと行きたいですね」


「………はぁーーーーー」


 レインには届かなかった。

「な、長いため息ですね」


「………ふふッ今はそれで良いです。……レインさん、1つお願いしてもいいですか?」


「何ですか?俺に出来ることであれば何でも言って下さい」


「今度……ご飯に連れていって下さい。レインさんのオススメの所に行きたいです。2人で行きましょう。前もって言って下されば予定をあけますので。書類のお礼ってことで!」


「分かりました。近いうちに必ず誘いますね」

 こうしてニーナの想いは伝わることはなかった。でも自分の気持ちに気付いたニーナの表情は晴れやかだった。


 対するレインはそうした感情にはやはり疎かった。これまで蔑みの視線や態度しか受けてこなかった弊害だった。自分に対して無償の愛を向けてくれる人はいなかった。

 究極的に言えば自分に好意的な人は対価を求めていると思っていた。アメリアたちや門番を務める兵士に給金を支払おうとするのもその為だった。


 レインのこれまでの生活をニーナは全てではないがある程度は知っていたし、予想もできている。

 だからこそレインには対価を求めた方が良いとニーナは判断した。対価を求めない行動はレインにとって余計な警戒を生むことになってしまうかもしれない。


 だから何かをしてあげたら食事や買い物などに一緒に来てもらう、そうした事を続ける作戦にニーナは今後出ることにした。それをレインが知るのはもっと先の話だ。



◇◇◇


 そして月日はあっという間に流れた。ニーナにもらった書類を記入して組合本部に提出した。

 『イグニス』から『エルセナ』を経由して『ハイレン』にたどり着くまで約5日ほどかかる。『エルセナ』をほぼ手続きなく素通り出来るからこそこの日程が可能だった。
 

『決闘』が開始されるまで残り10日ほどなので余裕で間に合う予定だ。ただレインも今回連れて行く阿頼耶も向こうの国でどうしたらいいかは全く分からない。

 
 そのため、宿を確保したり『決闘』の参加申請などをする要因としてシャーロットからメイドを2人、道中の護衛として覚醒者でない兵士6人を借りる事にした。


 馬車を3台用意して前後を挟むように移動する。兵士やメイドたちの方が一般常識といわれるものは当然備えている。なので向こうに着くまでの宿の確保も任せる事にした。
 
 レインや阿頼耶が出来るようになればいい話ではあるが、その辺りをマスターしようと思ったら何年かかるか分からない。なのでとりあえずは任せることにする。


「レイン様、この度、護衛隊隊長として任命されましたノスターと申します。道中は我々がお守り致します。どうぞよろしくお願い致します」


 兵士の1人が代表で挨拶する。隊長を任命したのもシャーロットだ。実力は折り紙付きだろう。安心して任せられる。


「こちらこそお願いします。それじゃあ行きましょうか」


「かしこまりました。全員!乗り込め!出発する!」


「「ハッ!!」」


 ノスターの声掛けで兵士たちは前後の馬車へと乗り込んで行く。


「……お兄ちゃん…気をつけてね?私……待ってるから」


 エリスやアメリア、ニーナにうるさいサミュエル、シャーロットもレインを送るために参上した。昨日からエリスはずっと不安そうだった。

 これから最低でも15日以上は離れ離れになる。こんな経験がないから不安になるのも無理はない。

 レインだってそれは同じだった。これがただのダンジョン攻略なら本気で嫌がっただろう。ただ今回は違う。エリスの病気を治すための遠征だ。


 レインはそっとエリスを抱き寄せた。ニーナとシャーロットが指を咥えているのが視界の端に見えた。お腹でも空いてんのか?


「お兄ちゃん?」


「絶対に帰ってくるよ。お兄ちゃんが戻ったら何がしたいかいっぱい考えておくんだぞ?」


「…………うん!待ってる!気をつけてね!私は大丈夫だから!お兄ちゃん、ここはみんな親切だね。私、今とても楽しいよ!」


 エリスもレインに強く抱きついた。その言葉が本心なのかレインを気遣ったのかは分からない。数秒後、身体を離した。


「行ってくる。アメリア、ステラ、クレア……エリスを頼むぞ?」


「「「はい!」」」


 アメリアたちの返事を確認したレインは他に集まった人たちにも会釈して馬車へと乗り込んでいく。必要な物は収納スキルに詰め込んだ。


 既に準備を終えた兵士が馬車の扉を開ける。その扉の横にはメイドが2人並んでいた。

 レインと阿頼耶が乗り込むとそれに続くようにメイドたちも前に座った。そしてすぐに馬車が進む感覚がする。


「お兄ちゃーん!!!頑張ってぇー!!」


 外からエリスの叫ぶ声が聞こえた。レインは馬車の窓を開けて身を乗り出す。


「エリス!!待ってろよ!絶対に治してみるから!!」


 馬車の速度が思ったより速くエリスに声は届いていないだろう。だがレインにはエリスが手を振り続けているのは見えている。

 その姿が見えなくなるまで、レインは馬車から身を乗り出し続けていた。


「必ず……治してみせるよ。この世界の綺麗な物……全てを見て回れるように、これ以上苦しい思いをしないように、俺が……俺が絶対に……」


 レインは決意を新たにし『ハイレン』へと向かう。
 
 
 
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