成り上がり覚醒者は依頼が絶えない〜魔王から得た力で自分を虐げてきた人類を救っていく〜

酒井 曳野

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第3章 水の国『メルクーア』〜水が創り出す魔物の大海〜

第109話

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◇◇◇


 その後、エリスとニーナの大国間協定に関する授業は続いた。メルクーアに入ってからも何度か休憩を挟み、途中の町で宿泊や道中で野営も繰り返す。


 イグニスからサージェスを超えてメルクーア本島へ向かう為の船着場に到着するのに約4日かかった。


「わあー!!私、船って乗り物初めて乗る!」


 船を見たエリスは終始テンションが高い。レインもドキドキしているが冷静を装う。
 エリスと一緒に、はしゃぎ過ぎるとアメリアにすごい目で見られてしまう。


 全員が馬車を降りて荷物をまとめた。レインの収納スキルにある程度は入れてあるが、国を代表する攻略隊が手ぶらで赴くのも良くないという事で自分の着替えくらいは自分で持つという風になっていた。


 そしてアメリアと兵士がどの船に乗ればいいのかを受付で確認しているところだった。


「はぁーい!イグニス攻略隊の皆さーん!こっちでーす!!」


 船着場に女性の大きな声が響く。レインたちはその声を方向を向いた。
 
 そこにはメルクーアの兵士数人と白に近い青い髪をなびかせた女性が手を振っていた。


「……あの人……めちゃくちゃ強いな」


 レインはその女性の魔力を見た。髪と同じ蒼白の魔力が立ち昇っている。多分あれでも抑え込んでいるんだと思う。
 

 理由は立ち昇り方が不自然だからだ。レイン自身も戦闘中以外は魔力を抑え込んでいるからよく分かる。


 あの女性もそうしている。相手に変な威圧感を与えないためだ。それでもあの女性は抑え込めていない。


 レインたちが自分の存在に気付いた事を察した女性は手を振りながらレインへと近付く。


「こんにちは!あなたがレインだよね?魔力が凄いからすぐ分かったよ!よく来てくれましたー!」

 そう言って女性はレインへ抱きついた。ここでレインのもはや特技といってもいい硬直が起こる。

 自分が何をされているのかを理解するのに数十秒かかった。


 レインは頭が真っ白になり硬直したが、周囲の人間は様々な動きをした。


「なぁ?!あなた!いきなり何をしてるんですか!!」


 ニーナは剣を抜こうとしてリグドに止められていて、阿頼耶はただ黙って女性の背後に回り込もうとしてステラに止められていた。


 エリスは船に夢中でクレアと少し離れた所に兵士や覚醒者たちといたから気付いていない。


「あれ?レインくん?もしもーし?」


 女性はレインの首に腕を回したまま少しだけ離れて声をかける。それでようやくレインは我に返った。


「……………………え?!あ、ああ…離れてもらえる?」


「もしかして経験ないの?神覚者で『決闘』も優勝しちゃうくらいなんだから求められるんじゃないの?」


「…………何の話ですか?」


「え?そりゃ……」


 その女性が言い切る前だった。ニーナの太刀がその女性の腕に向かって振るわれた。必死でニーナを止めていたリグドは蹴散らされていた。
 

「貴様!何者か知らないが、我が国の神覚者になんたる無礼を!覚悟しなさい!!」


 ニーナは本気で怒っていた。怒っている理由に若干私情が入り込んでいない事もないが、概ねレインを守るためだった。


 でもダンジョンで見た速度より全然遅い。威嚇のための抜刀だと思う。それでも普通の覚醒者には相当な速度で見えるはずだから警戒しないわけがない。


 しかし……ニーナの太刀が届く前に突如地面から出現した氷の壁がそれを防いだ。ニーナの太刀は氷に包まれて全く動かせなくなっていた。
 


「……まあまあ落ち着いて下さい!」


 そう言って女性はレインから離れた。指をパチンと鳴らすと氷の壁も粉々になって消えた。


「メルクーアでは挨拶の時にハグする風習があるんですよ。攻略隊の皆さんは人数が多いのでとりあえず1番強い神覚者のレインくんにしようって」
 

 彼女が言う経験というのはハグのことだったようだ。


「へ、へぇ……そんな風習が」


 この返事がレインの精一杯だった。しかしニーナは納得がいかないようだ。


「そちらの風習がどうとかは関係ありません。我々の国はそうした事はしません。覚醒者ならば名前とランクを名乗りなさい!」


「そんなに怒らないで下さい。……あなたもレインくんとしたいんですか?」


「えッ?!そ、そそそんな事はありません!!い、いいから名乗りなさい!」


 何をそんなに動揺しているのだろうか。レインにはその質問は出来ない。


「とりあえず自己紹介するね!私はオルガ・イスベルグ、『凍結の神覚者』です。今回はダンジョン『海魔城』攻略に来ていただき感謝致します」


 やはり女性……オルガは神覚者だった。そして挨拶は普通に出来る人だった。というか神覚者が自ら迎えに来たのは驚きだった。


「し、神覚者?!わざわざ神覚者が迎えに来たんですか?」


 流石のニーナもオルガが神覚者であるとは気付かなかったようだ。

 相当有名な神覚者や覚醒者でない限りは自己紹介されないと分からないんだろう。


 そもそも神覚者って国の重要な秘密みたいなものだから人数くらいは公開していてもそれ以上の事は教えていないんだろう。


 レインは当然だが、オルガの事を知らない。というか『決闘』で会った人以外は知らない。


「いや……本当は貴族たちが気色悪い横断幕を持って来ようとしてたけど、そんな奴らが私たちの代表なんて思われるのも心外じゃないですかぁ?
 なんであの貴族たちが待機していた部屋の扉を氷漬けにして閉じ込めて勝手に私が来ましたー!」


「「…………………………」」


 その場の全員が絶句した。やはりそんな騒動になるとエリスも戻ってくる。


「お兄ちゃん?……どうしたの?」


 剣を抜いたニーナに謎の攻防を続ける阿頼耶とステラ、四つん這いで蹲うずくまるリグド見れば誰だって気になる。


「あー……えーと……」


 なんて言おうかとレインが悩んだ時だった。オルガがエリスの前まで移動して視線を合わせるようにしゃがんだ。


 その行動には流石のレインも警戒したが、その必要ないとすぐに判断できた。


「何この子!かっわいい!!!容姿完璧じゃないの!!」


 この人とは仲良くやれそうだ。

 
「エ、エリス……です」


 しかしエリスは初対面のグイグイ来る人は苦手だからレインに寄り添う。


「エリスちゃんね、私はオルガ!お兄さんと同じ神覚者です!私も兄がいるから同じ妹属性だよ!よろしく!!」


 属性?

 オルガが勢いよく手を出した。握手しようって事だろう。


「よ、よろ……しく」


 エリスは恐る恐る手を出した。手が伸び切る前にオルガが手を掴んで握手する。


「ひゃッ!つ、冷たい!」


「あーごめんね!神覚者になってからかなりの冷え性なんだぁ。
 お風呂でも相当な温度にしないとすぐに水になっちゃうんだよ。困るよね!レインくんは神覚者になってから体質とか変わった?」


「いや別に……変わってないな」


「へぇーそうなんだぁ。じゃあ私とお兄ちゃんが特別なのかなぁ」


「お兄ちゃん?」


 今のオルガの「兄と同じ」という言葉が引っかかった。
 

「そうだよ。私たちは双子なんだけど2人とも同じタイミングで神覚者になったの。2人とも同じ氷のスキルを得たんだぁ。
 お兄ちゃんは『ルイーヴァ』で待ってるよ。だからここで話しててもあれだから行こうか!」


「双子で神覚者?!やっぱり覚醒って家族関係とかもあるのか?」


 レインは真っ先に思いついた質問を投げかけた。


「うーん……長くなっちゃうし船で教えてあげるよ。さっ準備して!」


 そう言ってオルガは一際大きな船を指差した。あれがレインたちの為に用意した客船といわれる人を乗せる事を目的とした船だった。

 


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