Are you my……?

広瀬 晶

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「僕は父の友人のこどもで、今の両親や兄とは血の繋がりはないけれど。それは、大した問題じゃないと思ってる」
 家族というものが何なのか、言葉で言い表すことは難しい。それでも、血縁だけではないということは確かで。血の繋がり以外のもので繋がることができて初めて、人は家族になれるのではないかと思う。
「僕がそれを知ったとき、僕の生みの親は既に亡くなっていたそうなのだけれど。もし生きていたとしても、僕の家族は父と母と兄だけ。そういうふうにしか思えない」
 その気持ちに嘘はなかった。
「それでも、ただ知りたかった。僕の本当の両親はどんなひとなのか。だから、僕は訊いたんだ。父と、母に」
 ちょうど、今の彼のように。
「訊いた後のことは、あまり考えてなかったけどね」
 僕が笑うと、彼も少し笑った。
「知って、どうでしたか」
「え?」
「自分の知らない自分を知って。どう、思われましたか?」
 同じ、闇の中にいると思った。今までひとりとひとりだったのが、急に「二人」になった。僕らは二人で、同じ種類の闇の中にいた。
「そうか、って思ったよ」
「そうか……?」
「そうか、そうだったんだ、って」
 僕はひどく、落ち着いていた。生みの親について知ることは、欠けているピースを埋めるような作業だと思っていたのに。そうではなかった。
「僕にはちゃんと家族がいたから。だから、知りたいという気持ちが収まっただけで済んだんだと思います。家族と上手く行っていなかったら、また違う感情が起こってきたのかもしれないけど」
 家族が目下のこどもに与えるべきものを、僕は確かに彼らから受け取っていたので、それを他に求める必要がなかった。知るだけでよかった。おそらく彼も同じだろう。
「……そういうものですか」
「たぶんね」
 もし兄が彼の父親なら、早く会わせてあげたかった。知ることで、落ち着いて前に進めるようにしてあげたかった。その気持ちは、言葉にしなくともきっと彼には伝わったはずだ。彼との関係が
、昨日とは少しだけ違うものにシフトしたことが感覚で解った。
「引き続き、連絡はしてみるから」
「よろしくお願いします」
「じゃあ、お風呂行ってきます」
「はい」
 何だろう、この感じ。
 出所の分からない温かさを背中に感じながら、僕はリビングを後にした。自室に着替えを取りに行き、浴室へと向かう。追い焚きはまだ必要なさそうだ。温かな湯に身を沈めて、息を吐く。
 久々に昔のことを話した。しかも、会って間もない自称息子に。本来なら、会って一週間も経たない相手にすべき話ではない。ただ彼とは、初日から秘密の話ばかりしてきたので、それほどおかしなことだという気もしない。
──始まりが、最大級におかしかったからな。 
 思い出して笑うと、水面が揺れた。

 ぼんやりしていたせいで、長風呂になってしまった。足裏から感じるフローリングの冷たさが心地いい。リビングのドアを開くと、佐藤君が振り向いた。
「顔、赤いですね」
「うん……。少し長く入りすぎたかも」
 頷いた拍子に、水滴が床に落ちる。彼は立ち上がり、僕に言った。
「髪、ちゃんと乾かさないと」
 ついでにタオル越しにぽんぽんと髪を撫でられる。何だかマッサージみたいで気持ちいい。反射的に目を細めれば、頭上で微かに笑う気配がした。
「そんな顔しないでください」
「そんな、って?」
 彼は僕の問いには答えずに、おやすみなさい、と告げて部屋を出ていった。
 残された僕はリビングの窓に映る自分の顔に目を向けてみたが、特に変わったところは見つからなかった。ただ、湯上がりということを差し引いても少しだけ体が熱っぽいような、そんな感覚がした。


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