Are you my……?

広瀬 晶

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 駅の少し手前で、四谷さんと別れることにした。僕の自宅はここから徒歩圏内だが、四谷さんは電車で二駅ほど先だった。
「今日は付き合わせて悪かったな」
 いえ、と首を横に振る。
「喜んでいただけるといいですね」
「……ああ」
 三十前の男と三十半ばの男が二人で微笑み合っている様は、端から見たら気持ち悪い光景だったかもしれないが、僕は笑って四谷さんの幸福を祈った。
 そのとき、こちらへまっすぐ近付いてくるひとの姿があった。
 艶のある黒髪がさらりと揺れ、気の強そうな瞳が覗く。ダークな色合いの服装や細長い手足から、全体的にシャープな印象を受ける。僕の知り合いではない。
 もしかして、と思うと同時に、パシッと乾いた音がその場に響いた。
「……若葉」
 四谷さんが、自分に手を上げた相手の名前を呼ぶのを、僕は呆然と見つめていた。
「他のやつとは別れたって、言ったじゃないか」
「若葉、彼は違う」
「もういい、聞きたくない」
 どうやら若葉さんは、僕と四谷さんの関係を誤解しているようだった。四谷さんは僕の上司であり、飲み友達である。彼との間に恋愛感情が生まれたことは一度もない。
 どう説明すべきか考えていると、修羅場の中心に。
「村上さん?」
「さとーくん……」
 僕の想い人が現れた。

 どうやら彼のことが好きらしいと自覚してから彼と会うのはこれが初めてだ。痛いくらいにきゅうっと、胸の奥が締めつけられるのを感じる。
 固まる僕に、佐藤君が微笑んだ。
「こんなところで会うなんて、思いませんでした」
「う、うん……」
 きらきらと効果音がつきそうな眩しさだったが、手離しで再会を喜んでいる場合ではない。
「ああ、すみません。お邪魔してしまって」
 人当たりのよい笑みを浮かべ、佐藤君は僕以外の二人に頭を下げた。四谷さんは僕に、もしかして、と目で問うてくる。
「彼は僕の同居人です。佐藤君、こちらは僕の上司の四谷さん」
 簡単に双方に紹介すると、四谷さん、そしてその少し後ろで佇む若葉さんに目をやって、佐藤君が言った。
「同居人……ですか?」
 だと思うのだが。僕が口を開く前に、佐藤君が僕の耳元でささやいた。
「話を、合わせてください。今だけ」
 彼の言葉よりも彼との距離の近さが気になって仕方なかったが、大人しく頷く。
「恋人です、って紹介してくれないんですか?」
 突拍子もない言葉に一瞬声を上げそうになる。だが彼が目で「合わせて」とサインを送ってきたため、僕は曖昧に相槌を打った。
「ああ……、そう、だね」
 意図を掴み切れずにいる僕ではなく、四谷さんの方を向いて彼は言った。
「違ってたらすみません。お二人も、……同じなんじゃないかなって思ったので」
 同じ。その言葉で、はたと気づく。
 どうやら彼は、この二人が恋人どうしだということに気がついているらしい。ひょっとすると、僕が四谷さんの相手だと誤解されているところから見ていたのかもしれない。だとすると、恋人として紹介、というのはこの場を収めるための助け船だ。
 四谷さんの返事を待たずに、僕は言った。
「あの、改めて紹介します。僕の、同居人兼恋人の、佐藤君です」
 街中だということもあり、どうしても声は小さくなる。関係を偽ることに罪悪感はあったが、状況が状況なのでやむを得ない。
「四谷さん、そちらは……?」
 一刻も早い修羅場回避のために問いかけると。
「俺の恋人」
 端的な答えが返ってきてほっとする。上手く伝わっていないだけで、四谷さんはちゃんと若葉さんのことを想っている。昔はどうだったか知らないが、今は若葉さん以外のひとのことは眼中にない。端から見ていて、少し羨ましくなるくらいに。
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