Are you my……?

広瀬 晶

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 村上さん、と若葉さんが僕の方を向いて言った。
「お見苦しいところをお見せしてしまって、すみませんでした。あなたに、失礼な発言も……」
「いいえ。気になさらないでください。こちらこそ、無断で恋人をお借りしてしまってすみませんでした」
「彼は、恋人では……」
「若葉」
 続きを遮るように、四谷さんが口を挟む。
「この後、時間あるか?」
「……うん」
「ちゃんと、話がしたい。うちに来て」
 若葉さん相手に発せられた四谷さんの声には、まるで甘い毒が溶けているようで。何だか、聞いてはいけない声を聞いてしまったような気がした。
「村上。この件の詫びと礼は、週明けに」
「分かりました」
「じゃあ、またな」
「はい。さようなら」
 手短に別れの挨拶を交わし、二人に手を振る。並んで歩く二人の後ろ姿を、そっと見送っていると、佐藤君がとんとんと僕の肩を叩いた。
「俺達も、帰りませんか?」
 うちに戻ることを、帰る、と彼は言った。行く、ではなくて、帰る。その言葉に、頬が綻ぶ。
「うん。そうしようか」
 バスを使ってもよかったが、秋の澄んだ空気を感じながら、彼と僕は歩いて帰宅することにした。
「……佐藤君」
「何ですか?」
「さっき、ありがとう。恋人のふり、してくれて」
 佐藤君がいてくれなかったら、若葉さんの誤解は解けなかったかもしれない。
「それは別にいいんですけど。むしろ、ああいった方法しか思いつかなくてすみませんでした」
「いや、たぶんああするしかなかったと思うし。助かりました」
 その嘘が少し嬉しかった、ということは秘密にしておく。
「……じゃあ、お礼、もらってもいいですか?」
「お礼?」
「だめ、ですか」
「いいよ。何がいい?」
「キス」
「え……?」
 キス、してもいいですか。そう言って彼は微笑んだ。
──キス?
何も考えられず、全身の機能が停止しそうになったとき。
「冗談ですよ」
 彼が、まるでやんちゃな子犬みたいにいたずらっぽく笑った。
「冗談……」
 彼が僕にキスなどするはずがないのに、真に受けてしまった自分がひどく恥ずかしかった。
「大人をからかわないでください」
 僕は小声で言い返して歩みを早めた。
「すみません。つい」
 つい、じゃない。まったく。
「怒ってますか」
「……怒ってません」
 怒ってはいないが、自分だけ動揺させられていることが何だか悔しくて、寂しかった。
「お詫びに、夕食は村上さんの好きなものを作りますから」
 元、自称息子に、僕だけが今も振り回されている。
 
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