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7(買い物)
しおりを挟むせーとーくん、と僕は瀬戸に声をかけた。
既に放課後。教室の中に、生徒は半数弱しか残っていない。小学生か、と瀬戸が軽く突っ込んだ。
「何?」
「この後暇?」
「んー、これ図書室に返したら、暇」
分厚い本をぽん、と頭上に乗せられる。意外と上手く乗るもんやな……。全然、落ちる気配がない。
僕は自分でそれを頭からどけると、じゃあ、と言葉を続けた。
「ちょっと、買い物に付き合わへん?」
「いいけど。何の?」
「服」
「服……?」
「俺のやなくて、妹の買い物なんやけど」
瀬戸は不思議そうな顔をして僕を見た。
妹の通う中学では、冬にスキー合宿がある。本当は一月に行われる予定だったのが、インフルエンザの流行により延期されていたらしい。
明日、と妹は昨夜僕に言った。
「服とか、バッグとか買うんやー」
「そうなんか」
「兄さんも一緒に来てくれるやろ?」
え、と僕は首を傾けた。
「行かへんよ」
え、と今度は妹が傾く。
「何で?」
「俺が行ってもしゃーないやろ。女子の服もバッグも、よお分からへんし」
「せやけど……」
「友達と行ったらええんと違う?」
そう提案すると、途端に瞳を潤ませる。
「用事あるから、無理やって。断られたんや……」
漆黒の双眸に、見る見るうちに水滴が溜まっていく。すぐさま、僕は前言を撤回する。
「分かった、行くから」
そのような経緯で、妹の買い物に付き合う運びとなったのだった。
ただ、と僕は瀬戸に言った。
「女子っぽい店に入ったりとか、服のアドバイスを求められたりとか、そういうの、やっぱ苦手で……」
僕は自分より高い位置にある瀬戸の目を見上げた。
「頼むから、一緒に来てくれへん?」
断られませんように、と祈る気持ちで瀬戸を見る。
「その顔……」
「顔?」
何やろ、と思い、小首を傾げる。
「何でもない。いいよ、付き合う」
「ほんま? ありがとお」
ほわーんとした気持ちでお礼を告げると、瀬戸は視線を逸らし、これ返してくる、と本を手に教室を出ていった。
瀬戸が本を返しに行くのを待って、連れ立って教室を出た。
「どこですんの、買い物」
「国道の方に出るんやないかな。……俺もあんまし分からん」
「連絡してみたら?」
瀬戸に言われ携帯を取り出すと、妹からラインでメッセージが届いていた。
「あー……何かもう学校の前にいるみたいやから。早よ行こ」
「分かった」
少し急いで昇降口を出ると、校門前に見慣れた紺色のコートが見えた。
「あれ……?」
妹が、誰かに話しかけられている。駆け寄り、その相手を認識した瞬間、僕は一気に疲労感を覚えた。
「兄さん」
「え? あ、姫」
「相澤、何しとんねん」
相澤だった。一番、関わらせたくない相手だった。
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