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しおりを挟む「何してんの、君」
「何って……かわいい子がいたから」
言いたくないけれど、仕方ない。
「この子、俺の妹やから」
「……え? あ! あのときの!」
驚く相澤を放置して、僕は妹に声をかけた。
「今日な、瀬戸……友達も一緒なんやけど。ええかな」
「うん、ええよ」
瀬戸を示して許可を取ると、相澤が挙手をした。
「俺も行きたい」
大した害はないかもしれないが、妹にはあまり近付けたくなかったので。
「却下」
駄々をこねる同級生は放置して、僕は瀬戸と妹に挟まれて校門を出た。
一昨日降った雪が、道路の端にまだ残っている。ざらめのように固くなった雪を見るともなしに見ていると、横で妹が口を開いた。
「えっと、瀬戸さん……? 初めまして。白雪七緒です」
「うん……初めまして」
瀬戸はまず妹を見て、比較するように僕を見た。そうして、似てる、と小さく呟く。
「そうか?」
「何か顔っていうより、雰囲気? がすごく似てる」
年が近いこともあってか、小さい頃はよく双子みたいだと言われていたらしいが、今はさすがにそんなことはないと思う。雰囲気までは、自分では分からないが。
「瀬戸さんは、兄弟いてはるの?」
妹の問いに、瀬戸が答える。
「兄と弟が、ひとりずつ」
そういえば、あまり家族の話は聞いたことがなかったかもしれない。
「どんな? 瀬戸と似てる?」
好奇心から尋ねると、んー、と渋い顔。
「……顔は、割と似てるって言われる」
「へえ」
それやったら、美形兄弟やんか。並んだら迫力がありそうだ。
「何歳違い?」
「上が大学二年で、下が中一」
「大学生か……」
瀬戸を少し大人にした感じだろうか。何気なく想像してみると、何だかめちゃくちゃもてそうだった。
「興味あんの?」
「え? まあ、うん」
「ふうん」
特に深く考えずに頷くと、どこか冷めた返事が返る。
「……?」
兄弟の話は、したくないんやろか。
僕は様子を探るように、下から彼の目を覗き込んだ。
すると間を置かずに、すっと視線が逸らされる。
……何でやねん。
突っ込みかけたところで、妹が話を替えた。
「あ、そうや。兄さん」
「ん?」
「さっき、校門で声かけてきてたひと、兄さんの友達やった?」
「友達……」
どないしよ、肯定したくないこの気持ち。
「……そおや」
歯切れ悪く頷くと、妹が首を傾げた。
「んー……。急に話しかけられたのもあって、わたし、態度悪かったかも。後で謝っといてな」
「別に、気にせんでええよ」
相澤がそんなこと、気にしているはずもない。
話しているうちに、いくつかの店舗が集まったショッピングセンターの前まで来ていた。中に入り、エスカレーターで二階に上がる。
「兄さん、ここ見ていい?」
目線で同意すると、彼女はショップ内へと入っていった。
「瀬戸、とりあえず入ろ」
瀬戸と一緒に、妹の後を追う。女子の服オンリーの店にいるのは、何となく気まずい。瀬戸がいてくれて本当によかった。胸を撫で下ろし、感謝の気持ちで瀬戸の方を振り返ると。
「ん、ん?」
予測した場所に瀬戸の姿はなかった。
「瀬戸さん、これは?」
「いんじゃない。色はこっちのがいいかも」
ごく普通に妹の横に立ち、ごく自然に並んで服選びを手伝っている。お、恐ろしい子……!
「兄さん、兄さん」
妹に呼ばれ、てくてくとそちらへ近づいていく。二人の前で足を止めると、妹がにこっと笑った。
「瀬戸さん、センスいい」
「そんなことないよ」
美形には美的感覚が初期設定されてるんだろうか、そんなことをぼんやり思った。
外側から見る瀬戸と妹は、まるで恋人同士のように見えた。仲よく服を吟味している様子は、デート中だと言われてもさほど違和感がない。瀬戸には好きな人がいるようだから、実際二人が付き合うことはないのだろうけど。
雰囲気的に、俺、邪魔かもしれへん……。
少し疎外感にも似た寂しさを感じて、僕は瀬戸の腕を引いた。
「白雪。どうかした?」
「……ごめん、ちょっとだけ妹任してもええかな」
「いいけど?」
「少し本屋行ってくるわ」
何だかもやっとした気持ちで、僕は一時的にその場を離れた。
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