I don't like you.

広瀬 晶

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    涙が止まってから、僕は四谷とたくさん話をした。高校のときのこと。卒業してからのこと。再会してからのこと。話せば話すほど、自分には四谷しかいなかったのだという気がしてくる。
 四谷もまた、自分のことを少しずつ話してくれた。僕が彼を避け出した頃に、彼のお母さんが体調を崩していたこと。三年の後半休みがちになったり、卒業式に出られなかったのは、そういった理由からだったと。
「若葉に避けられてるのは知ってたけど、いろいろあって、余裕がなかった」
「今は、大丈夫なの……?」
「ああ。普通に元気にしてる」
    よかった。僕はにこりと微笑んだ。
「そういえば、大学は宮城と同じとこだったんだよね?」
    ふと思い出したことを話すと、全くぴんと来ていないような顔をされた。
「覚えてないかな。高校のとき、同じ学年にいたやつなんだけど」
「さあ……。つか、今でも連絡取ってるくらいそいつと仲いいわけ?」
「連絡は取ってなかったけど。この前偶然会って、一緒に飲んだから。いろんな話が聞けておもしろかった」
    四谷が、唐突に口を閉ざす。少し前までの自分であれば、考えもしなかっただろうことが頭をよぎる。
「違ったらごめん。嫉妬、してくれてる……?」
    その問いには答えずに、彼は。
「俺以外の男と、二人きりで飲むな」
    そう言って、僕の頭を軽く叩いた。素直に、嫉妬したって言ってくれたらいいのに。僕も大概だが、四谷だって素直じゃない。
「僕は、したけど。……嫉妬」
    眉をしかめて、僕は言った。
「大学のとき、派手に遊んでたって聞いたから」
    冗談めかして口にしたが、気になっていたのは本当だ。今後二度と噂に振り回されたりしないように、彼の口から聞いておきたかった。
「確かに、遊んでた」
「そう……」
「好きとか、よく分からなかったし」
    相手に言われるがままに付き合って、飽きたら別れる。そうした付き合いを、意味もなく繰り返して。
「分からないから、一時的なことで構わないと思ってた」
    噂通りじゃないか、と僕は思った。
「……最低」
「まあ、そうだな」
「僕も、飽きたら捨てられるの」
    それはない、と四谷は言った。
「若葉は、特別だから」
    特別。きらきらした響きをなぞるように、僕はそれを舌の上で転がした。
「初めて、嫌われたくないと思った。何年経っても忘れられなかった」
    この男は。また泣かせる気だろうか。
    崩れ始めた表情を隠すように、僕は彼に抱きついた。自分とは違う、彼の匂いにほっとする。ほっとするように、なってしまっていた。

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