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1、お金の価値は『メイク』で決まる!?
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2XXX年、日本政府は現行の決済制度から現金の使用を廃止したのち、「メイドインジャパン」な新通貨制度の導入を開始した。
お金の価値を決めるのは、あなた個人の「努力」次第。
その判定材料は、あくまで「美」に関することなんだけど。
◇ ◇
「レジよレジよ。今回の私の顔は、な~ん円?」
行きつけのコンビニのAIレジにて「決済」のたびに言わないといけないこのセリフ、いまだに気恥ずかしくて、口に出すのにはいつも相当な勇気がいる。
しかし、恥ずかしいからと声のボリュームを下げて言うと、「音声認証ができませんでした。もう一度お願いします」などとAIに却下されて、けっきょく二回も恥ずかしい思いをすることになるのだ。(経験者は語る)
ピロピロリン♪
『お客様ご本人の音声認証ができました』と、AIレジが発声した。
よかった。
あとに並んでいる数人の客のことを考えずに、大きめの声で言ってよかった。
これはAIレジを通る者なら、避けては通れない道なのだ。
続けて次の指示が出る。
『レジの画面の指定枠におさまるように、お客様のお顔を映してください』
案内に従って、私は専用機械の画面をのぞきこんだ。
その画面には、今日もフルメイクでバッチリ仕上がった自分(女・20代前半)の顔全体が映し出されている。
今日は肌ツヤもいい。テカりも油取り紙でおさえ済み。
まだ若いけど、コンシーラーで気になるクスミやクマは完璧にカバーできているし、今回はかなり期待ができそうだ。
『お客様のお顔の判定を始めます。そのまま動かずにお待ちください』
そう、2XXX年現在の日本において、支払い時の通貨の価値を決めるのは、自分自身の「メイクの出来栄え」である。
『ただいま、判定中です』
AIレジがそう言ってから十数秒の間は、つい緊張して息を止めてしまう。
……ピロピロリン♪
『判定が完了しました』
「どれどれ?」
長いつけまつ毛をしばたたかせて、私はググっとAIレジの画面をのぞきこんだ。
『今回のお客様のお顔は、3.5美円(びえん)です』
「う~ん、思ってたよりも低めだなあ」
「1~5」の段階で4美円はいくと思っていただけにショックだった。
私は軽く肩を落としつつ、腕に巻いた薄型スマホの電子マネーのアプリを開いた。
『今回の購入金額は旧日本円で、1,832円です。
よって、 1,832円 ÷ 3.5美円= 523.428……以下略。
小数点第1位の切り上げにより、お支払い金額は、524円となります。』
AIレジの画面に表示された金額の下に、『この金額で決済する: はい / いいえ』の選択肢も表示されている。
私は「はい」のボタンを押して、読み取り機にスマホをかざした。
ピロンポロン♪
『お支払いが完了しました。ご利用ありがとうございました』
AIレジの横にあるカウンターに移動すると、私は持参したエコバッグを広げた。
「4美円めざして、もう半年は経つのになあ」
無意識につぶやいて、セルフでひたすら商品を詰め込んでいく私。
(第2章へ)
お金の価値を決めるのは、あなた個人の「努力」次第。
その判定材料は、あくまで「美」に関することなんだけど。
◇ ◇
「レジよレジよ。今回の私の顔は、な~ん円?」
行きつけのコンビニのAIレジにて「決済」のたびに言わないといけないこのセリフ、いまだに気恥ずかしくて、口に出すのにはいつも相当な勇気がいる。
しかし、恥ずかしいからと声のボリュームを下げて言うと、「音声認証ができませんでした。もう一度お願いします」などとAIに却下されて、けっきょく二回も恥ずかしい思いをすることになるのだ。(経験者は語る)
ピロピロリン♪
『お客様ご本人の音声認証ができました』と、AIレジが発声した。
よかった。
あとに並んでいる数人の客のことを考えずに、大きめの声で言ってよかった。
これはAIレジを通る者なら、避けては通れない道なのだ。
続けて次の指示が出る。
『レジの画面の指定枠におさまるように、お客様のお顔を映してください』
案内に従って、私は専用機械の画面をのぞきこんだ。
その画面には、今日もフルメイクでバッチリ仕上がった自分(女・20代前半)の顔全体が映し出されている。
今日は肌ツヤもいい。テカりも油取り紙でおさえ済み。
まだ若いけど、コンシーラーで気になるクスミやクマは完璧にカバーできているし、今回はかなり期待ができそうだ。
『お客様のお顔の判定を始めます。そのまま動かずにお待ちください』
そう、2XXX年現在の日本において、支払い時の通貨の価値を決めるのは、自分自身の「メイクの出来栄え」である。
『ただいま、判定中です』
AIレジがそう言ってから十数秒の間は、つい緊張して息を止めてしまう。
……ピロピロリン♪
『判定が完了しました』
「どれどれ?」
長いつけまつ毛をしばたたかせて、私はググっとAIレジの画面をのぞきこんだ。
『今回のお客様のお顔は、3.5美円(びえん)です』
「う~ん、思ってたよりも低めだなあ」
「1~5」の段階で4美円はいくと思っていただけにショックだった。
私は軽く肩を落としつつ、腕に巻いた薄型スマホの電子マネーのアプリを開いた。
『今回の購入金額は旧日本円で、1,832円です。
よって、 1,832円 ÷ 3.5美円= 523.428……以下略。
小数点第1位の切り上げにより、お支払い金額は、524円となります。』
AIレジの画面に表示された金額の下に、『この金額で決済する: はい / いいえ』の選択肢も表示されている。
私は「はい」のボタンを押して、読み取り機にスマホをかざした。
ピロンポロン♪
『お支払いが完了しました。ご利用ありがとうございました』
AIレジの横にあるカウンターに移動すると、私は持参したエコバッグを広げた。
「4美円めざして、もう半年は経つのになあ」
無意識につぶやいて、セルフでひたすら商品を詰め込んでいく私。
(第2章へ)
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