化粧通貨

rara33

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3、『美円』(ビエン)がもたらしたモノ

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 日本市場への「美円」システム導入後、それまでは需要が激減して業績のさえなかった数多の化粧品会社は、「美円」の数値を上げるのに効果的な美容コスメを、競い合うように次々と宣伝し始めた。

 そもそも日本製の化粧道具には美肌や小顔効果をうたったものが多かったから、極めて便乗しやすかったとも言える。

 また、顔にも使える特殊な「抗菌スプレー」の登場により、マスク着用の義務感から解放された「意識高い系」な人々が新商品に食いつき、SNSでの口コミが盛んになった。

 こうして人気アイテムがネット通販で売り切れになると、客足の激減したデパートや化粧品専門店に人々が押し寄せるようになった。

 クリスマス等、四季折々の贈り物イベントでも不動の人気を確立したコスメの売り上げに付随して、アパレル関係をはじめとするファッション業界も活気を取り戻し、寂れていた居酒屋やレストランには、メイクやファッションで「顔面偏差値」を底上げされた男女がたくさん集うようになった。

 こうなると出会いの場も必然的に増えて、結婚する率も上がる。

 こうしてウエディング業界、ひいては子育てや教育関連業界へもお金が流れていく……という、「風が吹けば桶屋が儲かる」的に景気の好循環が一気に加速していったのだ。

 ちなみにこの「美円」制度は、私みたいなリモートワークを中心に細々と生計を立てている、中間層以下の生活扶助のために作られたもので、いわゆる富裕層には適用しない所も世相にウケた。

 美人ばかりが得をする制度に見えるけど、でも単に顔がいいだけじゃダメ。

 20代前半の私でも、今の美肌や顔のバランスをキープするのにかなりの費用と時間がかかっているのだから。

 ただ、どれだけ頑張っても、自己ベストは「3.5美円」止まり。

 そんな本作の主人公である私、大秤 願(おおばかり ねがい)の今の願いは、「4美円」を突破することだ。

(第4章へ)
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