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第三章:愛されし姫君
第21話 二人の想い
アイシャに月のものが来た。
それを知ったカルラートは知らず失望を顔に出してしまった。
「ごめんなさい、カルラート」
アイシャがすまなそうに謝ってきたので、カルラートは慌てた。
これは子を成すことを焦っている自分が悪いだけだけで、決してアイシャが悪いわけではないのだ。
「いや、すまない。わたしの気が早かった。考えてみれば、そんなに早く子が出来る方が珍しいのだしな」
それどころか、親戚筋と婚姻を多くしている王族の者はなかなか子が出来ないのも別に珍しいことでもなかったのだ。
それをこんな短期間でアイシャに求める方がどうかしている、とカルラートは反省した。
いくらトゥルティエールからアイシャを戻せと言われようが、ずっとそれをはねのけていればいいだけなのだ。
かの国から突き上げがあまり酷いようなら、大陸一の大国ガルディアに相談するという手もある。
子は焦らなくてもそのうち出来るだろう。
要はアイシャが自分の傍にさえいればいいのだ。
そのためには彼女の周りの警護も固めなければならないだろう。
「カルラート?」
考え込むカルラートを不安そうにアイシャが見上げる。
それに気づいたカルラートは、彼女を安心させるように微笑みながら抱き寄せた。
「アイシャ、愛している」
そして愛の言葉の後に、その柔らかな唇に口づけた。
「どうしたら子が早く出来るのかしら……」
カルラートが執務に入ったのを見届けた後、アイシャは誰にともなく呟いた。
それを聞きつけたライサが少し驚いたように言った。
「まあ、アイシャ様、それはお気が早すぎますわ。そんなふうに焦られることはないのですよ」
「そうなの……? でも、カルラートは早く子が欲しいらしくて。わたし、それに応えたいの」
カルラートはきっと早く世継ぎが欲しいのだろうとアイシャは思った。けれど、ライサから返ってきたのは少し違う言葉だった。
「陛下はアイシャ様との御子を欲しておられるのですわ。アイシャ様、誠に陛下に愛されておいでですわね」
「そ、そうかしら……」
心底嬉しそうにライサに言われて、アイシャは少々恥ずかしくなり赤面する。
確かに嫁いだ当初より遥かに大事にされているのは分かっている。
そしてそれは、カルラートの言動からも感じられた。
ふと、アイシャは自分の腹に手をやる。
……カルラートとの子供。
子が出来れば、わたしはあの方を忘れて彼を愛することが出来るのかしら。
そうしたら、愛し愛されてどんなに幸せだろう。
アイシャはカルラートに愛されていても、未だに忘れられないルドガーの面影に度々苦しめられていた。
──子さえ出来れば。
アイシャもカルラートと同じように、王とその妃という肩書き以外の二人の絆が欲しかった。
それが二人の間の子だったのである。
「アイシャ様、お腹が痛みますか? でしたらお薬をお持ちしますが」
「ええ、お願い」
他のアイシャ付きの侍女に言われて、彼女は頷いた。
確かに少し月のものの痛みはある。
それが酷くなる前に、痛み止めは飲んで置くべきだろう。
そのアイシャの言葉で、気を利かせた侍女が居室に爽やかな香りの匂い袋を持ってきた。
アイシャはその香りに癒されながら、痛み止めの薬湯を飲む。
──少し、休もう。
悩むのも体には良くない。
月のものが終わったら、カルラートをきちんと受け入れられるように自分は健やかでいなければ。
アイシャはそう考えると、長椅子の肘掛けに体をもたれさせた。
「──くどい」
カルラートはその書簡を見て、忌々しそうに呟いた。
それは、アイシャを国に帰せという、トゥルティエールからの再度の書簡だった。
「……陛下、お返事はどういたしますか?」
ほとほと困ったように宰相のオルグレンが伺いをたててくる。
「今回は明後日にでも送る。戦が起こっている訳でもないのに、嫁した姫を返せと言う方がおかしいからな」
詭弁かもしれないが、カルラートはそう答えた。
彼としては、心はもう決まっているのだ。
──トゥルティエールにはアイシャは返さない。
彼女はもうハーメイのもの。……そして自分のものだ。
「……致し方ありませんな」
外交上はすぐにも返事は返すべきだろうが、オルグレンもカルラートに心情的に同意なのか、そう言っただけだった。
「アイシャの警護はどうなっている」
「新たに近衛と魔術師を一名ずつ増やしております」
トゥルティエールからの書簡を睨めつけながらのカルラートの言葉に、オルグレンがすぐさま答える。
それにカルラートは納得したように頷いた。
「そうか」
本当ならば、それぞれもう一名ずつ欲しいくらいだが、それをしてしまえばアイシャに異変を気づかれる怖れがある。
オルグレンも考えた末の結論なのだろう。
心許ないが仕方がないとカルラートは譲歩した。
それから彼は、付いていた侍女にアイシャが安らかに過ごせるように取りはからえと命じた。
それを受けた侍女は頷くと、彼に礼をして執務室を出て行く。
それに目をやりながらカルラートはアイシャのことを思う。
──愛しい、可憐で美しい自分の妃。
一生大事にして、どこへもやらない。
そのためには自分はどんなことでもしよう。
そう堅く決意すると、カルラートは手にしていたトゥルティエールからの書簡を脇にどかし、新たな執務へと再び入っていった。
それを知ったカルラートは知らず失望を顔に出してしまった。
「ごめんなさい、カルラート」
アイシャがすまなそうに謝ってきたので、カルラートは慌てた。
これは子を成すことを焦っている自分が悪いだけだけで、決してアイシャが悪いわけではないのだ。
「いや、すまない。わたしの気が早かった。考えてみれば、そんなに早く子が出来る方が珍しいのだしな」
それどころか、親戚筋と婚姻を多くしている王族の者はなかなか子が出来ないのも別に珍しいことでもなかったのだ。
それをこんな短期間でアイシャに求める方がどうかしている、とカルラートは反省した。
いくらトゥルティエールからアイシャを戻せと言われようが、ずっとそれをはねのけていればいいだけなのだ。
かの国から突き上げがあまり酷いようなら、大陸一の大国ガルディアに相談するという手もある。
子は焦らなくてもそのうち出来るだろう。
要はアイシャが自分の傍にさえいればいいのだ。
そのためには彼女の周りの警護も固めなければならないだろう。
「カルラート?」
考え込むカルラートを不安そうにアイシャが見上げる。
それに気づいたカルラートは、彼女を安心させるように微笑みながら抱き寄せた。
「アイシャ、愛している」
そして愛の言葉の後に、その柔らかな唇に口づけた。
「どうしたら子が早く出来るのかしら……」
カルラートが執務に入ったのを見届けた後、アイシャは誰にともなく呟いた。
それを聞きつけたライサが少し驚いたように言った。
「まあ、アイシャ様、それはお気が早すぎますわ。そんなふうに焦られることはないのですよ」
「そうなの……? でも、カルラートは早く子が欲しいらしくて。わたし、それに応えたいの」
カルラートはきっと早く世継ぎが欲しいのだろうとアイシャは思った。けれど、ライサから返ってきたのは少し違う言葉だった。
「陛下はアイシャ様との御子を欲しておられるのですわ。アイシャ様、誠に陛下に愛されておいでですわね」
「そ、そうかしら……」
心底嬉しそうにライサに言われて、アイシャは少々恥ずかしくなり赤面する。
確かに嫁いだ当初より遥かに大事にされているのは分かっている。
そしてそれは、カルラートの言動からも感じられた。
ふと、アイシャは自分の腹に手をやる。
……カルラートとの子供。
子が出来れば、わたしはあの方を忘れて彼を愛することが出来るのかしら。
そうしたら、愛し愛されてどんなに幸せだろう。
アイシャはカルラートに愛されていても、未だに忘れられないルドガーの面影に度々苦しめられていた。
──子さえ出来れば。
アイシャもカルラートと同じように、王とその妃という肩書き以外の二人の絆が欲しかった。
それが二人の間の子だったのである。
「アイシャ様、お腹が痛みますか? でしたらお薬をお持ちしますが」
「ええ、お願い」
他のアイシャ付きの侍女に言われて、彼女は頷いた。
確かに少し月のものの痛みはある。
それが酷くなる前に、痛み止めは飲んで置くべきだろう。
そのアイシャの言葉で、気を利かせた侍女が居室に爽やかな香りの匂い袋を持ってきた。
アイシャはその香りに癒されながら、痛み止めの薬湯を飲む。
──少し、休もう。
悩むのも体には良くない。
月のものが終わったら、カルラートをきちんと受け入れられるように自分は健やかでいなければ。
アイシャはそう考えると、長椅子の肘掛けに体をもたれさせた。
「──くどい」
カルラートはその書簡を見て、忌々しそうに呟いた。
それは、アイシャを国に帰せという、トゥルティエールからの再度の書簡だった。
「……陛下、お返事はどういたしますか?」
ほとほと困ったように宰相のオルグレンが伺いをたててくる。
「今回は明後日にでも送る。戦が起こっている訳でもないのに、嫁した姫を返せと言う方がおかしいからな」
詭弁かもしれないが、カルラートはそう答えた。
彼としては、心はもう決まっているのだ。
──トゥルティエールにはアイシャは返さない。
彼女はもうハーメイのもの。……そして自分のものだ。
「……致し方ありませんな」
外交上はすぐにも返事は返すべきだろうが、オルグレンもカルラートに心情的に同意なのか、そう言っただけだった。
「アイシャの警護はどうなっている」
「新たに近衛と魔術師を一名ずつ増やしております」
トゥルティエールからの書簡を睨めつけながらのカルラートの言葉に、オルグレンがすぐさま答える。
それにカルラートは納得したように頷いた。
「そうか」
本当ならば、それぞれもう一名ずつ欲しいくらいだが、それをしてしまえばアイシャに異変を気づかれる怖れがある。
オルグレンも考えた末の結論なのだろう。
心許ないが仕方がないとカルラートは譲歩した。
それから彼は、付いていた侍女にアイシャが安らかに過ごせるように取りはからえと命じた。
それを受けた侍女は頷くと、彼に礼をして執務室を出て行く。
それに目をやりながらカルラートはアイシャのことを思う。
──愛しい、可憐で美しい自分の妃。
一生大事にして、どこへもやらない。
そのためには自分はどんなことでもしよう。
そう堅く決意すると、カルラートは手にしていたトゥルティエールからの書簡を脇にどかし、新たな執務へと再び入っていった。
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