恋詠花

舘野寧依

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第四章:対決

第27話 要請

「ハーメイの王が目通りを願っているだと……?」

 ガルディアの壮年の国王ユーリウスは近衛騎士からの報告を受け、瞳を見開いた。

「ハーメイの内情に詳しい魔術師によると、カルラート王本人だそうです。それから魔術師も一人同伴しております」
「なんと……」

 ハーメイは小国ゆえ、気軽に諸国に出かける王も度々たびたびいたという。カルラートもその手合いだろうか。
 いずれにせよ、王としては少々軽率と言わざるを得ない。

「……王と名乗って来たものを追い返すわけにはいかないだろう。謁見の間に通してくれ」
「かしこまりました」

 近衛騎士は腕を胸の前に掲げて礼をすると退室した。
 ユーリウスはそれを見届けてから、執務机の椅子に寄りかかる。

 カルラートがガルディアを訪れたのはだいたい想像がついた。
 トゥルティエールの王に奪われた花嫁を奪還したいというところだろう。
 正直なところを言うと、ユーリウスは面倒なことを持ち込んできたなと思い、気が重かった。

 それでも彼は仕方なく謁見の間まで足を運ぶと、既にそこには王妃のフィオナが玉座の傍にたたずんでいた。

「フィオナ、なぜここに」
「ハーメイの王がこちらに参られたと聞き及びまして。わたくしもぜひ同席させてくださいませ」

 王妃のフィオナは、トゥルティエールとハーメイの王二人の間で振り回される形となったアイシャ姫の身の上に深く同情していた。
 その上での今回のハーメイ国王の来訪は、彼女には見過ごすことができなかったのだろう。

「……そうか、許可する」
「ありがとうございます」

 ユーリウスの言葉にフィオナは微笑むと、彼が腰掛けた玉座の隣の王妃の席に座った。


 しばらくして、謁見の間にハーメイ国王カルラートと、彼について移動してきたらしい魔術師が通された。
 そこにいたのは優しげな容貌に強い意志を宿した瞳が印象的な青年だった。

「お初にお目にかかる。ハーメイ国王、カルラートです。そこにおるのは我が国の魔術師。突然の訪問、お許し願いたい」

 まだ二十歳と王としては年若いカルラートは年長の大国の王へ丁重に挨拶する。それにユーリウスは鷹揚に頷いた。

「うむ、カルラート殿、我はそのことについては気にしてはいないゆえ、気を楽にしていただきたい」

 それに対してカルラートは頷くと、すぐさま本題に入った。

「本日はトゥルティエールに奪われた我が花嫁のことで参った。我が国は小国故、花嫁奪還の為に是非とも貴国の協力を仰ぎたい」

 予想通りのカルラートの言葉に、ユーリウスは渋面じゅうめんを作った。

「……我もアイシャ姫のことは聞き及んでおる。かの姫君と貴国にはとても気の毒な出来事だと思う」
「……それでは」
「……しかし、それとこれとは別である。ガルディアはトゥルティエールと事を構えることを望んではおらん」

 大国同士がぶつかり合ったらどうなるのか。下手をしたらこの大陸自体が戦乱に巻き込まれる怖れがある。

「陛下、ですが婚礼の誓約を破ったのはトゥルティエールの方ですわ。今回の件では一方的にハーメイが被害を受けております。そんな馬鹿なことがあってよいものでしょうか。陛下は、今回のトゥルティエールの傲慢な行動を黙って見ておられるだけなのですか」
「……フィオナ」

 王妃の言うことはいちいちもっともだったが、他への影響を考えると大国であるガルディアが動くことは非常に難しい。
 ユーリウスは王として、人としてのあり方を切り捨てねばならないのかと、顔をしかめた。


 そこへ、近衛騎士が急遽書簡を持ち込んできた。
 正直、後にしろと思ったが、どうやら火急の知らせらしい。

 失礼する、とカルラートに断ってからユーリウスはその書簡の中身を確認すると、驚愕に瞳を見開いた。

「な……、なんと、これは!」
「……ユーリウス殿、どうかされましたか?」

 ユーリウスのただならぬ様子に、カルラートが眉を寄せた。

「……カルラート殿、今すぐハーメイに戻られて指揮を取りなされ。ハーメイの国境沿いは現在トゥルティエールの攻撃を受けておる」
「……馬鹿な!」

 花嫁を奪われ、さらには今現在領土まで脅かされているカルラートは、その事実が信じられないらしく、大きく叫んだ。

「……なんと、酷いことを……」

 フィオナがその中で頬を覆い、この信じられない事態を嘆いている。


 ──今のトゥルティエール国王、ルドガーは狂気に取り憑かれている。

 そこにいる者全員がそう感じずにはいられなかった。


 この火急の事態にとりあえず、国に一度戻ることを決めたカルラートはその旨をユーリウスに告げた。

「……カルラート殿、先程まで我はこの国を動かさないつもりであった。……だが、事態はもっと深刻だったようだ。とりあえず我が国も貴国に協力して、トゥルティエール国境沿いの兵を足止めしよう」
「それはありがたい。わたしはこれで一度戻りますが、また要請を願うかもしれない。そのときはよろしく頼みます」
「うむ」

 ユーリウスは正直気が進まなかったが、こんなことになってしまっては仕方がないと既に諦めていた。

 図らずして、ガルディアはハーメイ王の望み通り、トゥルティエールの暴走を止めるため、かの国に協力をすることになってしまった。

 はたしてそれがガルディアにとって良かったのか悪かったのかはまだユーリウスには分からない。
 ただ、この不測の事態に見舞われたハーメイ国王カルラートの身には深く同情したのは確かだった。
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