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第四章:対決
第28話 決断
トゥルティエールから攻撃を受けているとの報を受けて、カルラートはいったんガルディアからハーメイの王城へ引き上げてきた。
「戦況はどうなっている?」
カルラートが宰相のオルグレンに尋ねると、すぐに答えは返ってきた。
「国境沿いのシエルス砦はガルディアの協力もあって、どうにか持ちこたえました」
「……そうか」
トゥルティエールもまさかガルディアが出てくるとは思ってもいなかったのだろう。
侵略者が慌てふためく様を想像して、カルラートは皮肉な笑みを浮かべた。
「陛下、まだ安心するのは早いですぞ。国境付近の被害は甚大です。それに、またいつトゥルティエールが攻め込んでこないとも限りません」
大国に攻め込まれているというのに余裕を見せるカルラートをオルグレンが諫めにかかる。それにカルラートは鷹揚に頷いた。
「……分かっている。トゥルティエールの進撃を止められたのも、ガルディアの力があってこそだ」
ここをなんとかして停戦状態にもっていくのが上策だろうが、こちらからして見れば、花嫁を奪われた上での侵略行為なのだ。
カルラートはかの国に対して下手に出るつもりなど毛頭なかった。
そんなことをすれば、トゥルティエール国王ルドガーは更につけあがるだろう。
──あの王はいったいどういうつもりなのだ。
一度しか会ったことのないルドガーを思い起こし、端正な顔立ちの王にカルラートは憎しみを募らす。
もしかしたらかの王とアイシャの間になにかあったのかもしれない。
そう考えると、カルラートはいてもたってもいられなくなる。
無理矢理己から奪っていき、正妃にまで据えたのだから、当然のようにあの王は愛しいアイシャを毎夜抱いているのだろう。
それでも飽き足らず、今度はこのハーメイの領土まで侵略してきた。
カルラートを牽制するための脅し行為とも受け取れなくもなかったが、さすがにこれは行き過ぎだろう。
もしかしたら、トゥルティエール王ルドガーの目的はもっと別の所にあるのかもしれない。
──だとしたらかの王の目的はなんだ。
アイシャを奪ってなお、このハーメイから奪いたいもの。それは──
「……わたしか?」
ふいに、カルラートの口から拍子抜けしたような声が漏れた。
正確にはアイシャと婚礼の誓約を交わしたカルラートの命だろう。
アイシャが誓約を理由に、ルドガーにカルラートの妻だと主張しているとしたら、かの王が彼を疎ましく思うのも理解できるような気がした。……とてつもなく、為政者としては自分勝手だが。
もしこの考えが間違いでないとしたら、ルドガーはカルラートの命を絶つまでは、ハーメイ攻略をやめないだろう。
それに、ガルディアの協力がいつまであるかも定かではない。
ハーメイはガルディアとトゥルティエールという大国に挟まれているというだけのただの小国である。故に、トゥルティエールのような大国とは国力の差が歴然としていた。
それを考えると、なんとしてもこの戦いは短期で終わらせる必要があった。
カルラートはふと思いつき、トゥルティエール宛に「トゥルティエールが欲しいのは実はハーメイの領土ではなく、我が命か」という書簡を送ってみた。
ほどなくしてトゥルティエールから書簡が返ってきたが、それには「そうだ」という実に素っ気ない返事が書かれていた。
それは実に明快な答えで、カルラートは思わず大声で笑ってしまった。
「へ、陛下!?」
敵方の書簡を見て突然笑いだしたカルラートに、オルグレンが目をむいた。どうやら、大国との戦で気でも触れたかと思ったらしい。
「そうか。それならば王としてだけでなく、アイシャを愛する一個人として、あの王に挑まねばなるまいな」
「……陛下?」
ひとしきり笑った後、そう宣言したカルラートの真意を測りかねたオルグレンが訝しげに彼を見つめた。
「もう一度、ガルディアに出かける。アイシャもその時に取り戻すつもりだ」
その言葉で、カルラートの真意を悟ったオルグレンが真っ青になって叫んだ。
「それは……っ、いくらガルディアの協力を受けているとはいえ、無茶でございます! 陛下になにかあったらこの国はどうなるのですか!?」
「わたしになにかあっても、民には手を出させない。その為にはガルディアの協力が必要不可欠だがな。……あの王は、わたしが生きている限りこの国を攻めるのをやめないだろう。だとしたらやることは一つだ」
カルラートは己の信念を胸に、もう一度ガルディアに渡ることを決めた。
それは、ただ一人だけの妃を愛する、王者としての決断だった。
オルグレンは息をのむと、次には仕方なさげに首を横に振り微笑んだ。
「──陛下はもうお決めになられたのですね」
「ああ、わたしは腹をくくったぞ。オルグレン、悪いが後のことは頼む」
「……かしこまりました。後はおまかせください」
オルグレンは胸の前で腕を掲げ臣下の礼を取る。
それを後に、カルラートは魔術師を連れてもう一度ガルディアへ飛んだ。
「戦況はどうなっている?」
カルラートが宰相のオルグレンに尋ねると、すぐに答えは返ってきた。
「国境沿いのシエルス砦はガルディアの協力もあって、どうにか持ちこたえました」
「……そうか」
トゥルティエールもまさかガルディアが出てくるとは思ってもいなかったのだろう。
侵略者が慌てふためく様を想像して、カルラートは皮肉な笑みを浮かべた。
「陛下、まだ安心するのは早いですぞ。国境付近の被害は甚大です。それに、またいつトゥルティエールが攻め込んでこないとも限りません」
大国に攻め込まれているというのに余裕を見せるカルラートをオルグレンが諫めにかかる。それにカルラートは鷹揚に頷いた。
「……分かっている。トゥルティエールの進撃を止められたのも、ガルディアの力があってこそだ」
ここをなんとかして停戦状態にもっていくのが上策だろうが、こちらからして見れば、花嫁を奪われた上での侵略行為なのだ。
カルラートはかの国に対して下手に出るつもりなど毛頭なかった。
そんなことをすれば、トゥルティエール国王ルドガーは更につけあがるだろう。
──あの王はいったいどういうつもりなのだ。
一度しか会ったことのないルドガーを思い起こし、端正な顔立ちの王にカルラートは憎しみを募らす。
もしかしたらかの王とアイシャの間になにかあったのかもしれない。
そう考えると、カルラートはいてもたってもいられなくなる。
無理矢理己から奪っていき、正妃にまで据えたのだから、当然のようにあの王は愛しいアイシャを毎夜抱いているのだろう。
それでも飽き足らず、今度はこのハーメイの領土まで侵略してきた。
カルラートを牽制するための脅し行為とも受け取れなくもなかったが、さすがにこれは行き過ぎだろう。
もしかしたら、トゥルティエール王ルドガーの目的はもっと別の所にあるのかもしれない。
──だとしたらかの王の目的はなんだ。
アイシャを奪ってなお、このハーメイから奪いたいもの。それは──
「……わたしか?」
ふいに、カルラートの口から拍子抜けしたような声が漏れた。
正確にはアイシャと婚礼の誓約を交わしたカルラートの命だろう。
アイシャが誓約を理由に、ルドガーにカルラートの妻だと主張しているとしたら、かの王が彼を疎ましく思うのも理解できるような気がした。……とてつもなく、為政者としては自分勝手だが。
もしこの考えが間違いでないとしたら、ルドガーはカルラートの命を絶つまでは、ハーメイ攻略をやめないだろう。
それに、ガルディアの協力がいつまであるかも定かではない。
ハーメイはガルディアとトゥルティエールという大国に挟まれているというだけのただの小国である。故に、トゥルティエールのような大国とは国力の差が歴然としていた。
それを考えると、なんとしてもこの戦いは短期で終わらせる必要があった。
カルラートはふと思いつき、トゥルティエール宛に「トゥルティエールが欲しいのは実はハーメイの領土ではなく、我が命か」という書簡を送ってみた。
ほどなくしてトゥルティエールから書簡が返ってきたが、それには「そうだ」という実に素っ気ない返事が書かれていた。
それは実に明快な答えで、カルラートは思わず大声で笑ってしまった。
「へ、陛下!?」
敵方の書簡を見て突然笑いだしたカルラートに、オルグレンが目をむいた。どうやら、大国との戦で気でも触れたかと思ったらしい。
「そうか。それならば王としてだけでなく、アイシャを愛する一個人として、あの王に挑まねばなるまいな」
「……陛下?」
ひとしきり笑った後、そう宣言したカルラートの真意を測りかねたオルグレンが訝しげに彼を見つめた。
「もう一度、ガルディアに出かける。アイシャもその時に取り戻すつもりだ」
その言葉で、カルラートの真意を悟ったオルグレンが真っ青になって叫んだ。
「それは……っ、いくらガルディアの協力を受けているとはいえ、無茶でございます! 陛下になにかあったらこの国はどうなるのですか!?」
「わたしになにかあっても、民には手を出させない。その為にはガルディアの協力が必要不可欠だがな。……あの王は、わたしが生きている限りこの国を攻めるのをやめないだろう。だとしたらやることは一つだ」
カルラートは己の信念を胸に、もう一度ガルディアに渡ることを決めた。
それは、ただ一人だけの妃を愛する、王者としての決断だった。
オルグレンは息をのむと、次には仕方なさげに首を横に振り微笑んだ。
「──陛下はもうお決めになられたのですね」
「ああ、わたしは腹をくくったぞ。オルグレン、悪いが後のことは頼む」
「……かしこまりました。後はおまかせください」
オルグレンは胸の前で腕を掲げ臣下の礼を取る。
それを後に、カルラートは魔術師を連れてもう一度ガルディアへ飛んだ。
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