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第四章:対決
第35話 決闘
トゥルティエール国王ルドガーと、ハーメイ国王カルラートの決闘は、トゥルティエールの兵舎の鍛錬場で行うこととなった。
その場はガルディアの師団によって閉鎖され、いかにトゥルティエールの兵であろうとも近寄ることは出来なかった。
決闘の場に立ち会うのは、トゥルティエール側は宰相のディルスと、ルドガーの側近の魔術師であるライノス。
ハーメイ側はカルラートが単身乗り込んだので、ガルディア白百合騎士団団長のエリュウスが立ち会うこととなった。
そして、ガルディア国王代理の魔術師師団長ネイザンはあくまでも中立ということで、この決闘を取り仕切る次第だ。
決闘に際して動きやすい衣装に着替えたルドガーは目の前のカルラートを睨めつける。
対して、カルラートも負けじとそれを受け止めた。
それをアイシャが両手で胸を押さえながら悲痛な顔で見守る。
出来れば誰にも傷ついて欲しくはなかったが、それはもう不可能なことだと彼女は覚悟したようだった。
「それではお二方、剣を抜いてください」
ネイザンの指示によってルドガーとカルラートは腰に穿いた宝剣を抜き放った。
そして二人は、決闘の様式に従って、一度剣をカン、と軽く合わせる。──それが、決闘の準備が出来たことの合図だった。
「──それでは始め!」
ネイザンの指揮によって、ルドガーとカルラートはもう一度剣を打ち合わせるとそれぞれ間合いを取るべく後ろへ跳びすさった。
「──アイシャは渡さない!」
鋭い視線を送ってくるルドガーの言葉に対してカルラートもそれに応酬する。
「それはこちらの台詞だ!」
そして先にカルラートが飛び出した。
肩に掛けて切りかかってきたカルラートの剣をルドガーが下から素早く跳ね返す。
──思ったよりもやるな。
それが初めて剣を交えたルドガーとカルラートの正直な感想だった。
二人とも王という忙しい身ではあるが、それなりに剣の鍛錬をしているのが、それで双方に理解出来てしまったのである。
──これは、早めに決着をつけた方が良さそうだ。
そして、今度はルドガーが打って出た。
カルラートをそれなりの力量の持ち主と認め、素早い剣捌きで彼の急所を狙って剣を振るう。
それをカルラートは冷静に見極めて、剣で受け止めていた。
剣を打ち合う音が響く中、決闘者以外の皆がそれを息を詰めて見守っている。
アイシャは震えながら自らの口元を覆って、悲鳴を上げるのをどうにか堪えていた。
──いや、二人とも傷つかないで。
しかし、その願いが届くことは決してない。これはどちらかが、死ぬまで続く戦いなのだから。
傍目には二人の力量は五分。この決闘の膠着状態が長く続くことが予想された。
しかし、カルラートが踏み込んでくるルドガーをかわして、彼の左上腕を切り裂いた。
「……くっ!」
傷は思ったよりも深く、ルドガーは激痛に顔をしかめる。
それを目にしたアイシャが瞳を見開いて息を呑んだ。
ルドガーの腕からは血が滴り落ちて早く治療しなければ命にも関わるだろう。
しかし、ルドガーはここで諦める気などさらさらなかった。これを好機と見たらしいカルラートが剣を振り上げて来るのをなんとかかわし、相手の懐に入り込んだ。
「しま……っ」
しまった、とカルラートが思った時はもう遅かった。
ルドガーの剣がカルラートの胸に沈んでいく。
──もはや勝敗は決まった。
「勝者、ルドガー王!」
無情なまでの声で、ネイザンがこの決闘の勝者を告げる。
「カルラート!」
ゆっくりとその場に崩れ落ちるカルラートにアイシャは駆け寄った。
そして、ルドガーも蒼白な顔でその場に膝をつく。そこへライノスが素早く移動すると、主君の治療のために治癒魔法を使った。しかし、その深い傷はなかなか塞がらなかった。
「……アイシャ……」
かろうじて急所は外れたらしいカルラートが胸を貫かれたまま、血の気のない笑顔でアイシャの名を呼んだ。
アイシャは大きな瞳から涙を零すと、カルラートの手を取った。
「カルラート、わたしのせいでごめんなさい。ごめんなさい」
「……アイシャ、そなたが、汚れる。……わたし……から、離れろ」
そう言いながら、ごぼり、とカルラートが血を吐いた。
飛沫がアイシャを更に汚したが、彼女は気にしなかった。
その様子をネイザンとライノスの治癒魔法を受けながら、呆然とルドガーは見つめていた。
──やはり、アイシャが愛していたのはやつなのか。
決闘に勝ったとはいえ、なんとも言えない敗北感がルドガーの胸に広がる。
「──アイシャ、愛している……」
蒼白な顔でカルラートはアイシャに微笑むと、やがてゆっくりとその目を閉じた。
「……カル、ラート? カルラートッ、いや、いやーっ!」
アイシャは彼の死が信じられないかのように狂ったように首を振る。
「アイシャ様!」
ネイザンがアイシャの目の前に手のひらをかざすと、アイシャはぱたりとその場に倒れた。眠りの魔法を彼女に使ったのである。
「……さすがに女性には衝撃的過ぎでしたからね」
エリュウスも涙の痕が頬に残るアイシャを痛ましそうに見る。
「──しかし、これで晴れてアイシャ様があなたの正妃となることに決まりました。ガルディアも諸国にその証明の書簡を送ることになるでしょう」
「……そうか」
ガルディア国王代理のネイザンの言葉にも少し虚ろな様子で、まだ塞がったばかりで痛みの残る左腕を押さえながら、ルドガーはアイシャを見つめた。
──アイシャ。愛する者を殺したわたしをおまえはさぞ憎むのだろうな。
しかし、それでもこれで周辺諸国には彼女が正式にトゥルティエールの正妃となったことが認められる。
彼女に憎悪を向けられるかもしれないが、それでもなんとも思われていないよりはましかもしれないとルドガーは思った。
その場はガルディアの師団によって閉鎖され、いかにトゥルティエールの兵であろうとも近寄ることは出来なかった。
決闘の場に立ち会うのは、トゥルティエール側は宰相のディルスと、ルドガーの側近の魔術師であるライノス。
ハーメイ側はカルラートが単身乗り込んだので、ガルディア白百合騎士団団長のエリュウスが立ち会うこととなった。
そして、ガルディア国王代理の魔術師師団長ネイザンはあくまでも中立ということで、この決闘を取り仕切る次第だ。
決闘に際して動きやすい衣装に着替えたルドガーは目の前のカルラートを睨めつける。
対して、カルラートも負けじとそれを受け止めた。
それをアイシャが両手で胸を押さえながら悲痛な顔で見守る。
出来れば誰にも傷ついて欲しくはなかったが、それはもう不可能なことだと彼女は覚悟したようだった。
「それではお二方、剣を抜いてください」
ネイザンの指示によってルドガーとカルラートは腰に穿いた宝剣を抜き放った。
そして二人は、決闘の様式に従って、一度剣をカン、と軽く合わせる。──それが、決闘の準備が出来たことの合図だった。
「──それでは始め!」
ネイザンの指揮によって、ルドガーとカルラートはもう一度剣を打ち合わせるとそれぞれ間合いを取るべく後ろへ跳びすさった。
「──アイシャは渡さない!」
鋭い視線を送ってくるルドガーの言葉に対してカルラートもそれに応酬する。
「それはこちらの台詞だ!」
そして先にカルラートが飛び出した。
肩に掛けて切りかかってきたカルラートの剣をルドガーが下から素早く跳ね返す。
──思ったよりもやるな。
それが初めて剣を交えたルドガーとカルラートの正直な感想だった。
二人とも王という忙しい身ではあるが、それなりに剣の鍛錬をしているのが、それで双方に理解出来てしまったのである。
──これは、早めに決着をつけた方が良さそうだ。
そして、今度はルドガーが打って出た。
カルラートをそれなりの力量の持ち主と認め、素早い剣捌きで彼の急所を狙って剣を振るう。
それをカルラートは冷静に見極めて、剣で受け止めていた。
剣を打ち合う音が響く中、決闘者以外の皆がそれを息を詰めて見守っている。
アイシャは震えながら自らの口元を覆って、悲鳴を上げるのをどうにか堪えていた。
──いや、二人とも傷つかないで。
しかし、その願いが届くことは決してない。これはどちらかが、死ぬまで続く戦いなのだから。
傍目には二人の力量は五分。この決闘の膠着状態が長く続くことが予想された。
しかし、カルラートが踏み込んでくるルドガーをかわして、彼の左上腕を切り裂いた。
「……くっ!」
傷は思ったよりも深く、ルドガーは激痛に顔をしかめる。
それを目にしたアイシャが瞳を見開いて息を呑んだ。
ルドガーの腕からは血が滴り落ちて早く治療しなければ命にも関わるだろう。
しかし、ルドガーはここで諦める気などさらさらなかった。これを好機と見たらしいカルラートが剣を振り上げて来るのをなんとかかわし、相手の懐に入り込んだ。
「しま……っ」
しまった、とカルラートが思った時はもう遅かった。
ルドガーの剣がカルラートの胸に沈んでいく。
──もはや勝敗は決まった。
「勝者、ルドガー王!」
無情なまでの声で、ネイザンがこの決闘の勝者を告げる。
「カルラート!」
ゆっくりとその場に崩れ落ちるカルラートにアイシャは駆け寄った。
そして、ルドガーも蒼白な顔でその場に膝をつく。そこへライノスが素早く移動すると、主君の治療のために治癒魔法を使った。しかし、その深い傷はなかなか塞がらなかった。
「……アイシャ……」
かろうじて急所は外れたらしいカルラートが胸を貫かれたまま、血の気のない笑顔でアイシャの名を呼んだ。
アイシャは大きな瞳から涙を零すと、カルラートの手を取った。
「カルラート、わたしのせいでごめんなさい。ごめんなさい」
「……アイシャ、そなたが、汚れる。……わたし……から、離れろ」
そう言いながら、ごぼり、とカルラートが血を吐いた。
飛沫がアイシャを更に汚したが、彼女は気にしなかった。
その様子をネイザンとライノスの治癒魔法を受けながら、呆然とルドガーは見つめていた。
──やはり、アイシャが愛していたのはやつなのか。
決闘に勝ったとはいえ、なんとも言えない敗北感がルドガーの胸に広がる。
「──アイシャ、愛している……」
蒼白な顔でカルラートはアイシャに微笑むと、やがてゆっくりとその目を閉じた。
「……カル、ラート? カルラートッ、いや、いやーっ!」
アイシャは彼の死が信じられないかのように狂ったように首を振る。
「アイシャ様!」
ネイザンがアイシャの目の前に手のひらをかざすと、アイシャはぱたりとその場に倒れた。眠りの魔法を彼女に使ったのである。
「……さすがに女性には衝撃的過ぎでしたからね」
エリュウスも涙の痕が頬に残るアイシャを痛ましそうに見る。
「──しかし、これで晴れてアイシャ様があなたの正妃となることに決まりました。ガルディアも諸国にその証明の書簡を送ることになるでしょう」
「……そうか」
ガルディア国王代理のネイザンの言葉にも少し虚ろな様子で、まだ塞がったばかりで痛みの残る左腕を押さえながら、ルドガーはアイシャを見つめた。
──アイシャ。愛する者を殺したわたしをおまえはさぞ憎むのだろうな。
しかし、それでもこれで周辺諸国には彼女が正式にトゥルティエールの正妃となったことが認められる。
彼女に憎悪を向けられるかもしれないが、それでもなんとも思われていないよりはましかもしれないとルドガーは思った。
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