喪女と野獣

舘野寧依

文字の大きさ
49 / 104
第五章:一時の別れ

第49話 依頼

しおりを挟む
「ハルカの面倒を見ておけ」

 ハルカを滅茶苦茶にしてから、カレヴィはハルカ付きの侍女に命じた。
 あの部分の裂傷も見られたので、放っておくわけにはいかない。
 カレヴィは彼女の様子が心配になって見に行きたい気持ちでいっぱいだったが、彼女をこんな目に遭わせた当の本人がいるのもおかしな話だろう。
 とにかく激情にかられてハルカを滅茶苦茶にしたのはまずかった。
 ようやく冷静になって、自分のしたことにカレヴィは青くなる思いだった。
 ハルカは泣いて何度もやめてと懇願していた。もう少しで彼女を壊すかもしれなかったと思うと、カレヴィは嫉妬の固まりであった自分に寒々としたものを感じずにはいられなかった。

「ハルカ様の治療のため、ティカ様をお呼びいたしました」

 ティカは忙しいらしく、既に夜になっていたが、親友の一大事に駆けつけたらしい。

「──そうか」

 親友のハルカを酷い目に遭わせたことで、てっきり怒鳴り込んでくるかと思ったがそれはなく、カレヴィは拍子抜けした。
 それとも顔も見たくないほどに彼に怒っているのだろうか。
 それからしばらくして、侍女長のゼシリアは、ティカがハルカを自分の邸宅に連れていったことを伝えてきた。

「なんだと……!?」

 それでは明日向こうの世界に帰るハルカに挨拶できないではないかとカレヴィは気色ばむ。
 顔色を変えた国王に、それでも侍女の鑑のゼシリアは事実だけを伝えてきた。

「ティカ様から伝言です。『カレヴィ王、わたしはハルカをこんな目に遭わせたあなたを許せません。よって、明日の挨拶はハルカにさせずにこのまま一時的にお別れです。……もっとも、それが本当に一時的なものかは分かりませんが』」

 カレヴィの出方によっては、永久にハルカに会わせないとティカは脅しているのだ。
 カレヴィが慌ててティカの屋敷に書簡を送れば、「ハルカは疲れていますから、また今度にしてください」とけんもほろろに突き返された。
 そして、カレヴィはその夜は眠れぬままに過ごし朝となった。
 ……ティカの宣言通り、ハルカは戻ってはこなかった。
 焦ってガルディアに問い合わせたところ、ティカもハルカと共に向こうで行動しているらしい。どうやら一緒に観光でもしているようだった。
 こうなったら、異世界に渡れる人間はこちらには一人しかいないことになる。
 そう、ティカの師匠だったカイル・イノーセンだ。
 カレヴィは国家権力を使って、そのカイル・イノーセンに接触を試みた。

「……自業自得じゃないか。ティカが怒るのも無理はない。今のうちにそのハルカとやらに詫び状でも書いておくのだな」

 とても一国の王にきく台詞ではないのだが、ほんの例外を除いて、どこの国の王族にも彼はこんな言葉遣いだ。
 この尊大な態度は彼の出自と、能力の高さからガルディアを含む各国から目こぼしを許されている。

「い、いや、それでは遅いのだ。俺は今すぐハルカに謝りたい」
「……それでハルカという娘の魔力を探って、俺に異世界への出口を作れと言うのだな」

 はあーっと本当に気が重そうにカイルが大きく息を吐く。

「恐らくティカは俺がカレヴィ王に協力することにいい顔はしまい。それで俺になんの利益があるんだ?」

 確かにカレヴィに協力した結果、カイル・イノーセンまでとばっちりを受ける可能性は大いに考えられた。

「……それならば、ザクトアリアが管轄しているルイエコーヒー豆の一部の農園の権利を二年間譲り渡すというのはどうだ? その期間は莫大な利益を得られるぞ」
「こちらにとってはいい条件だが、それでそちらの元老院に睨まれることはないのか?」
「それなら大丈夫だ。我が国にとってはどうという事もない金額だ」

 すると、カイルがこれだから金持ちは、と嫌そうに端正な顔をしかめてきた。
 それで、少々不安になったカレヴィはカイルに尋ねた。

「どうなんだ。受けるのか、受けないのか」
「──受ける。まあ、後でティカに小言をもらうかもしれないが、せっかくの大口の仕事だからな」

 説得は難しいかと思われたが案外あっさりカイルに受けてもらえたので、カレヴィは一安心した。

「安心するのはまだ早いぞ。帰りはティカに戻してもらうんだな。どうせ、ティカがハルカという娘についているかぎりそうなるだろうが」

 そう聞いて、カレヴィは思わず頭を抱えたくなってしまった。
 ティカに向こうで会った場合、ろくに話も聞かずにこちらへ帰されることも考えられたからだ。
 ……しかし、ハルカに謝るにはこうするしかない。
 カレヴィは決意すると、カイルの前に見事な意匠の金の腕輪を置いた。

「ハルカのものだ。これでハルカの魔力をたどってほしい」
「……魔力はほんの微少だな。まあ、たどれなくはないが」
「そうか。それならハルカ愛用の腕カバーを出す必要はないか」

 美麗な金細工を出されてからのその落差にカイルは驚いたようであったが、回復してから冷たく言った。

「……そういうものがあるなら、さっさと出してくれ。なにもこんな時に体裁を気にする必要はあるまい」

 そう言われて、カレヴィは渋々野暮ったい黒の腕カバーを出してきた。

「ああ、これなら充分魔力もたどれる。……しかしハルカという娘は名を捨てて実をとる性格なんだな」

 するとカレヴィのハルカ自慢が始まった。

「そうだ。ハルカは贅沢をよしとせず、自分のことよりも我が国の民のことを心配していた優しい娘だ。笑うと愛嬌があって、とても可愛らしくてな……」
「それは今は関係ないだろう」

 陶酔して言うカレヴィに、カイルが退いたように止める。

「それではあちらの世界の座標を開く」
「ああ」

 カイルが呪文を唱えると、みるみる見知らぬ風景が現れていく。

「……今ティカは少し離れている場所にいるようだ。カレヴィ王、謝罪するなら今のうちだぞ」
「分かった、感謝する」

 そして、なぜかカレヴィはハルカへの座標よりいくらかずれた場所に移動させられたが、それはどうしてか後ほど判明する。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...