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第五章:一時の別れ
第49話 依頼
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「ハルカの面倒を見ておけ」
ハルカを滅茶苦茶にしてから、カレヴィはハルカ付きの侍女に命じた。
あの部分の裂傷も見られたので、放っておくわけにはいかない。
カレヴィは彼女の様子が心配になって見に行きたい気持ちでいっぱいだったが、彼女をこんな目に遭わせた当の本人がいるのもおかしな話だろう。
とにかく激情にかられてハルカを滅茶苦茶にしたのはまずかった。
ようやく冷静になって、自分のしたことにカレヴィは青くなる思いだった。
ハルカは泣いて何度もやめてと懇願していた。もう少しで彼女を壊すかもしれなかったと思うと、カレヴィは嫉妬の固まりであった自分に寒々としたものを感じずにはいられなかった。
「ハルカ様の治療のため、ティカ様をお呼びいたしました」
ティカは忙しいらしく、既に夜になっていたが、親友の一大事に駆けつけたらしい。
「──そうか」
親友のハルカを酷い目に遭わせたことで、てっきり怒鳴り込んでくるかと思ったがそれはなく、カレヴィは拍子抜けした。
それとも顔も見たくないほどに彼に怒っているのだろうか。
それからしばらくして、侍女長のゼシリアは、ティカがハルカを自分の邸宅に連れていったことを伝えてきた。
「なんだと……!?」
それでは明日向こうの世界に帰るハルカに挨拶できないではないかとカレヴィは気色ばむ。
顔色を変えた国王に、それでも侍女の鑑のゼシリアは事実だけを伝えてきた。
「ティカ様から伝言です。『カレヴィ王、わたしはハルカをこんな目に遭わせたあなたを許せません。よって、明日の挨拶はハルカにさせずにこのまま一時的にお別れです。……もっとも、それが本当に一時的なものかは分かりませんが』」
カレヴィの出方によっては、永久にハルカに会わせないとティカは脅しているのだ。
カレヴィが慌ててティカの屋敷に書簡を送れば、「ハルカは疲れていますから、また今度にしてください」とけんもほろろに突き返された。
そして、カレヴィはその夜は眠れぬままに過ごし朝となった。
……ティカの宣言通り、ハルカは戻ってはこなかった。
焦ってガルディアに問い合わせたところ、ティカもハルカと共に向こうで行動しているらしい。どうやら一緒に観光でもしているようだった。
こうなったら、異世界に渡れる人間はこちらには一人しかいないことになる。
そう、ティカの師匠だったカイル・イノーセンだ。
カレヴィは国家権力を使って、そのカイル・イノーセンに接触を試みた。
「……自業自得じゃないか。ティカが怒るのも無理はない。今のうちにそのハルカとやらに詫び状でも書いておくのだな」
とても一国の王にきく台詞ではないのだが、ほんの例外を除いて、どこの国の王族にも彼はこんな言葉遣いだ。
この尊大な態度は彼の出自と、能力の高さからガルディアを含む各国から目こぼしを許されている。
「い、いや、それでは遅いのだ。俺は今すぐハルカに謝りたい」
「……それでハルカという娘の魔力を探って、俺に異世界への出口を作れと言うのだな」
はあーっと本当に気が重そうにカイルが大きく息を吐く。
「恐らくティカは俺がカレヴィ王に協力することにいい顔はしまい。それで俺になんの利益があるんだ?」
確かにカレヴィに協力した結果、カイル・イノーセンまでとばっちりを受ける可能性は大いに考えられた。
「……それならば、ザクトアリアが管轄しているルイエ豆の一部の農園の権利を二年間譲り渡すというのはどうだ? その期間は莫大な利益を得られるぞ」
「こちらにとってはいい条件だが、それでそちらの元老院に睨まれることはないのか?」
「それなら大丈夫だ。我が国にとってはどうという事もない金額だ」
すると、カイルがこれだから金持ちは、と嫌そうに端正な顔をしかめてきた。
それで、少々不安になったカレヴィはカイルに尋ねた。
「どうなんだ。受けるのか、受けないのか」
「──受ける。まあ、後でティカに小言をもらうかもしれないが、せっかくの大口の仕事だからな」
説得は難しいかと思われたが案外あっさりカイルに受けてもらえたので、カレヴィは一安心した。
「安心するのはまだ早いぞ。帰りはティカに戻してもらうんだな。どうせ、ティカがハルカという娘についているかぎりそうなるだろうが」
そう聞いて、カレヴィは思わず頭を抱えたくなってしまった。
ティカに向こうで会った場合、ろくに話も聞かずにこちらへ帰されることも考えられたからだ。
……しかし、ハルカに謝るにはこうするしかない。
カレヴィは決意すると、カイルの前に見事な意匠の金の腕輪を置いた。
「ハルカのものだ。これでハルカの魔力をたどってほしい」
「……魔力はほんの微少だな。まあ、たどれなくはないが」
「そうか。それならハルカ愛用の腕カバーを出す必要はないか」
美麗な金細工を出されてからのその落差にカイルは驚いたようであったが、回復してから冷たく言った。
「……そういうものがあるなら、さっさと出してくれ。なにもこんな時に体裁を気にする必要はあるまい」
そう言われて、カレヴィは渋々野暮ったい黒の腕カバーを出してきた。
「ああ、これなら充分魔力もたどれる。……しかしハルカという娘は名を捨てて実をとる性格なんだな」
するとカレヴィのハルカ自慢が始まった。
「そうだ。ハルカは贅沢をよしとせず、自分のことよりも我が国の民のことを心配していた優しい娘だ。笑うと愛嬌があって、とても可愛らしくてな……」
「それは今は関係ないだろう」
陶酔して言うカレヴィに、カイルが退いたように止める。
「それではあちらの世界の座標を開く」
「ああ」
カイルが呪文を唱えると、みるみる見知らぬ風景が現れていく。
「……今ティカは少し離れている場所にいるようだ。カレヴィ王、謝罪するなら今のうちだぞ」
「分かった、感謝する」
そして、なぜかカレヴィはハルカへの座標よりいくらかずれた場所に移動させられたが、それはどうしてか後ほど判明する。
ハルカを滅茶苦茶にしてから、カレヴィはハルカ付きの侍女に命じた。
あの部分の裂傷も見られたので、放っておくわけにはいかない。
カレヴィは彼女の様子が心配になって見に行きたい気持ちでいっぱいだったが、彼女をこんな目に遭わせた当の本人がいるのもおかしな話だろう。
とにかく激情にかられてハルカを滅茶苦茶にしたのはまずかった。
ようやく冷静になって、自分のしたことにカレヴィは青くなる思いだった。
ハルカは泣いて何度もやめてと懇願していた。もう少しで彼女を壊すかもしれなかったと思うと、カレヴィは嫉妬の固まりであった自分に寒々としたものを感じずにはいられなかった。
「ハルカ様の治療のため、ティカ様をお呼びいたしました」
ティカは忙しいらしく、既に夜になっていたが、親友の一大事に駆けつけたらしい。
「──そうか」
親友のハルカを酷い目に遭わせたことで、てっきり怒鳴り込んでくるかと思ったがそれはなく、カレヴィは拍子抜けした。
それとも顔も見たくないほどに彼に怒っているのだろうか。
それからしばらくして、侍女長のゼシリアは、ティカがハルカを自分の邸宅に連れていったことを伝えてきた。
「なんだと……!?」
それでは明日向こうの世界に帰るハルカに挨拶できないではないかとカレヴィは気色ばむ。
顔色を変えた国王に、それでも侍女の鑑のゼシリアは事実だけを伝えてきた。
「ティカ様から伝言です。『カレヴィ王、わたしはハルカをこんな目に遭わせたあなたを許せません。よって、明日の挨拶はハルカにさせずにこのまま一時的にお別れです。……もっとも、それが本当に一時的なものかは分かりませんが』」
カレヴィの出方によっては、永久にハルカに会わせないとティカは脅しているのだ。
カレヴィが慌ててティカの屋敷に書簡を送れば、「ハルカは疲れていますから、また今度にしてください」とけんもほろろに突き返された。
そして、カレヴィはその夜は眠れぬままに過ごし朝となった。
……ティカの宣言通り、ハルカは戻ってはこなかった。
焦ってガルディアに問い合わせたところ、ティカもハルカと共に向こうで行動しているらしい。どうやら一緒に観光でもしているようだった。
こうなったら、異世界に渡れる人間はこちらには一人しかいないことになる。
そう、ティカの師匠だったカイル・イノーセンだ。
カレヴィは国家権力を使って、そのカイル・イノーセンに接触を試みた。
「……自業自得じゃないか。ティカが怒るのも無理はない。今のうちにそのハルカとやらに詫び状でも書いておくのだな」
とても一国の王にきく台詞ではないのだが、ほんの例外を除いて、どこの国の王族にも彼はこんな言葉遣いだ。
この尊大な態度は彼の出自と、能力の高さからガルディアを含む各国から目こぼしを許されている。
「い、いや、それでは遅いのだ。俺は今すぐハルカに謝りたい」
「……それでハルカという娘の魔力を探って、俺に異世界への出口を作れと言うのだな」
はあーっと本当に気が重そうにカイルが大きく息を吐く。
「恐らくティカは俺がカレヴィ王に協力することにいい顔はしまい。それで俺になんの利益があるんだ?」
確かにカレヴィに協力した結果、カイル・イノーセンまでとばっちりを受ける可能性は大いに考えられた。
「……それならば、ザクトアリアが管轄しているルイエ豆の一部の農園の権利を二年間譲り渡すというのはどうだ? その期間は莫大な利益を得られるぞ」
「こちらにとってはいい条件だが、それでそちらの元老院に睨まれることはないのか?」
「それなら大丈夫だ。我が国にとってはどうという事もない金額だ」
すると、カイルがこれだから金持ちは、と嫌そうに端正な顔をしかめてきた。
それで、少々不安になったカレヴィはカイルに尋ねた。
「どうなんだ。受けるのか、受けないのか」
「──受ける。まあ、後でティカに小言をもらうかもしれないが、せっかくの大口の仕事だからな」
説得は難しいかと思われたが案外あっさりカイルに受けてもらえたので、カレヴィは一安心した。
「安心するのはまだ早いぞ。帰りはティカに戻してもらうんだな。どうせ、ティカがハルカという娘についているかぎりそうなるだろうが」
そう聞いて、カレヴィは思わず頭を抱えたくなってしまった。
ティカに向こうで会った場合、ろくに話も聞かずにこちらへ帰されることも考えられたからだ。
……しかし、ハルカに謝るにはこうするしかない。
カレヴィは決意すると、カイルの前に見事な意匠の金の腕輪を置いた。
「ハルカのものだ。これでハルカの魔力をたどってほしい」
「……魔力はほんの微少だな。まあ、たどれなくはないが」
「そうか。それならハルカ愛用の腕カバーを出す必要はないか」
美麗な金細工を出されてからのその落差にカイルは驚いたようであったが、回復してから冷たく言った。
「……そういうものがあるなら、さっさと出してくれ。なにもこんな時に体裁を気にする必要はあるまい」
そう言われて、カレヴィは渋々野暮ったい黒の腕カバーを出してきた。
「ああ、これなら充分魔力もたどれる。……しかしハルカという娘は名を捨てて実をとる性格なんだな」
するとカレヴィのハルカ自慢が始まった。
「そうだ。ハルカは贅沢をよしとせず、自分のことよりも我が国の民のことを心配していた優しい娘だ。笑うと愛嬌があって、とても可愛らしくてな……」
「それは今は関係ないだろう」
陶酔して言うカレヴィに、カイルが退いたように止める。
「それではあちらの世界の座標を開く」
「ああ」
カイルが呪文を唱えると、みるみる見知らぬ風景が現れていく。
「……今ティカは少し離れている場所にいるようだ。カレヴィ王、謝罪するなら今のうちだぞ」
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