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第六章:離れて過ごして
第61話 離れがたい気持ち
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「……報告が遅れたが、元老院に妃はハルカしか娶らないと宣言しておいたぞ」
香草茶をゆっくりと味わうように飲んでいるハルカに、カレヴィはおもむろにそう告げた。
ハルカはその途端、その場で動きを止めている。そしてじっとカレヴィを見つめると、彼女は微笑んだ。
「ありがとう……」
そんなハルカが愛しくて、カレヴィは彼女を抱きしめたい気持ちでいっぱいだったが、彼女の病気のことを考えると、それも出来ずやきもきした。
しかし、その原因はまごうことなき自分なので、カレヴィはひたすら我慢するしかなかった。
そんなカレヴィに、ハルカが明るい調子で言った。
「それなら、わたしは少しでも早く良くならないとね」
「はるか、こういうことは焦っちゃ駄目だよ。本当に長期戦で臨むつもりでいなきゃ」
医療方面にも造詣が深いティカがハルカをたしなめる。
そのティカが言うのだから、あの時、カレヴィが激情のままにしてしまったことの根は相当深いのだろう。
本当にいくらでもやりようがあったというのに、安易にハルカを傷つけることを選んでしまった自分をカレヴィは殴ってやりたかった。
そんなことを考えるカレヴィをハルカが不安そうにちらりとを窺ってくる。
カレヴィはそんなハルカを少しでも安心させるように力強く言った。
「ハルカは本当にこのことで気に病むな。いわば、これはすべて俺の自業自得だ。先程言った通り、俺はおまえが俺を受け入れないままでも妃として迎えるつもりでいるから、ハルカは気を楽にしていろ」
もし、五、六年と子が作れなくても、愛するハルカのためならかまわないとカレヴィは考えていた。
最悪、子を作れないままなら、王位をシルヴィに譲ってもいいとカレヴィは考えていた。
「うん……」
少しばかり困ったような顔でハルカが頷く。
どうせ、ハルカのことだからカレヴィに申し訳ないとでも考えているのだろう。
その彼女の気持ちをほぐしたいとカレヴィは思ったが、残念ながらもうザクトアリアに帰らなければならない時間だった。
「……それでは、俺はこれでザクトアリアに帰る。そろそろ戻らないとマウリスも煩いしな」
「え、もう?」
心底残念そうなハルカに、カレヴィは喜びを覚える。……しかし、ハルカはなにか言いたそうにした後、結局は黙り込んでしまった。
「ハルカ、そう気を落とすな。──また来る」
「うん」
そう言ったカレヴィにハルカはいじらしく涙ぐんで頷いた。
それを見て、カレヴィは彼女をまた抱きしめたくなったが、なんとか堪えた。
「じゃあ、わたし門まで行くね」
ハルカはカレヴィを見送るためにカレヴィと一緒に転移門のところまで来た。ティカは気を遣ったらしく、そこまで付いてはこなかった。
「それではな、ハルカ。……愛している」
「うん、わたしも──」
そこで涙ぐんだハルカは、カレヴィの服の端を掴んだ。
思わず、カレヴィはハルカをザクトアリアに連れ帰ってしまいたい、と思った。
「ハルカ、離せ。おまえにそんなことをされると、俺は自分の気持ちを抑えきれない」
呻くように言うと、ハルカははっとしたようだった。
「あっ、ごめんね!」
はるかが慌ててカレヴィの服を離す。
それで、ハルカを連れ去ってしまいたい衝動をなんとか収めると、カレヴィは息をつく。
ハルカはさっきのことで落ち込んでいるらしく俯いている。
カレヴィはそんなハルカを慰めたくて、彼女の髪をそっと撫でた。
心配した拒絶反応は出ず、ハルカがはっと顔を上げカレヴィを見た。
カレヴィは愛しさのままにハルカの髪を手櫛で梳く。ハルカはカレヴィにされるがままになっていた。
「俺も少しは我慢しなければな。愛しいおまえを手に入れるためだ。俺は出来るだけ自重するようにするぞ」
それは苦しいが、ハルカの受けた苦しみよりはずっと小さなものだろう。
「……うん。本当にごめんね、カレヴィ」
「謝るな。おまえは悪くないんだから、ティカ殿の言う通り心を穏やかにして過ごすことだけ考えておけ。分かったな、ハルカ」
カレヴィは命令口調でハルカの反対意見を封じる。
「うん、分かった。そうする」
ハルカが神妙な顔で頷いて言うと、カレヴィはよし、と頷いて、くしゃりと彼女の頭を撫でた。
ハルカの拒絶反応もいつもこのように出ないと嬉しいのだがなとカレヴィは顔に出さずに思った。
髪を撫でられているハルカは嬉しそうに頬を染めて、可愛らしくカレヴィを見る。カレヴィも出来る限りの優しい表情でハルカに微笑んだ。
すると、はるかは胸を押さえながら泣きそうな表情でカレヴィを上目遣いに見た。
「そんな可愛らしい顔で見るな。これでは戻りたくなくなってしまう」
ハルカのこの表情は、反則だ。本当にいつまでも一緒にいたくなってしまう。
カレヴィは溜息をつくと、名残惜しかったが、ハルカの髪に触れていた手を離した。
するとますますハルカの表情が泣きそうに歪む。
「そんな顔をするな。また会いに来る」
「うん。待ってる」
ハルカは胸の前で指を組み合わせて、涙を浮かべながら何度も頷いた。
「泣くな。……ティカ殿、ハルカを頼む」
「分かりました」
そっと二人に近づいていたティカがハルカの肩をそっと抱きながら頷いた。
ハルカはなにかを決意したように頷くと、取り出したハンカチで涙を拭いた。
──カランカラン。
ハルカが自ら転移門の呼び鈴を鳴らすと、向こう側の景色が映る。
「じゃあね、カレヴィ」
泣き笑いしながらそう言うハルカにカレヴィは愛しさを募らせながらも頷いた。
「──ああ。それではな。ハルカ、養生するんだぞ」
「うん」
ハルカが頷いたことで、カレヴィは少しだけ安心する。
そしてハルカに微笑むと、今度こそカレヴィはあちらの世界へ向かっていった。
カレヴィが振り返ったときには、空間は完全に閉じられ、門の周辺には静けさだけが広がっていた。
香草茶をゆっくりと味わうように飲んでいるハルカに、カレヴィはおもむろにそう告げた。
ハルカはその途端、その場で動きを止めている。そしてじっとカレヴィを見つめると、彼女は微笑んだ。
「ありがとう……」
そんなハルカが愛しくて、カレヴィは彼女を抱きしめたい気持ちでいっぱいだったが、彼女の病気のことを考えると、それも出来ずやきもきした。
しかし、その原因はまごうことなき自分なので、カレヴィはひたすら我慢するしかなかった。
そんなカレヴィに、ハルカが明るい調子で言った。
「それなら、わたしは少しでも早く良くならないとね」
「はるか、こういうことは焦っちゃ駄目だよ。本当に長期戦で臨むつもりでいなきゃ」
医療方面にも造詣が深いティカがハルカをたしなめる。
そのティカが言うのだから、あの時、カレヴィが激情のままにしてしまったことの根は相当深いのだろう。
本当にいくらでもやりようがあったというのに、安易にハルカを傷つけることを選んでしまった自分をカレヴィは殴ってやりたかった。
そんなことを考えるカレヴィをハルカが不安そうにちらりとを窺ってくる。
カレヴィはそんなハルカを少しでも安心させるように力強く言った。
「ハルカは本当にこのことで気に病むな。いわば、これはすべて俺の自業自得だ。先程言った通り、俺はおまえが俺を受け入れないままでも妃として迎えるつもりでいるから、ハルカは気を楽にしていろ」
もし、五、六年と子が作れなくても、愛するハルカのためならかまわないとカレヴィは考えていた。
最悪、子を作れないままなら、王位をシルヴィに譲ってもいいとカレヴィは考えていた。
「うん……」
少しばかり困ったような顔でハルカが頷く。
どうせ、ハルカのことだからカレヴィに申し訳ないとでも考えているのだろう。
その彼女の気持ちをほぐしたいとカレヴィは思ったが、残念ながらもうザクトアリアに帰らなければならない時間だった。
「……それでは、俺はこれでザクトアリアに帰る。そろそろ戻らないとマウリスも煩いしな」
「え、もう?」
心底残念そうなハルカに、カレヴィは喜びを覚える。……しかし、ハルカはなにか言いたそうにした後、結局は黙り込んでしまった。
「ハルカ、そう気を落とすな。──また来る」
「うん」
そう言ったカレヴィにハルカはいじらしく涙ぐんで頷いた。
それを見て、カレヴィは彼女をまた抱きしめたくなったが、なんとか堪えた。
「じゃあ、わたし門まで行くね」
ハルカはカレヴィを見送るためにカレヴィと一緒に転移門のところまで来た。ティカは気を遣ったらしく、そこまで付いてはこなかった。
「それではな、ハルカ。……愛している」
「うん、わたしも──」
そこで涙ぐんだハルカは、カレヴィの服の端を掴んだ。
思わず、カレヴィはハルカをザクトアリアに連れ帰ってしまいたい、と思った。
「ハルカ、離せ。おまえにそんなことをされると、俺は自分の気持ちを抑えきれない」
呻くように言うと、ハルカははっとしたようだった。
「あっ、ごめんね!」
はるかが慌ててカレヴィの服を離す。
それで、ハルカを連れ去ってしまいたい衝動をなんとか収めると、カレヴィは息をつく。
ハルカはさっきのことで落ち込んでいるらしく俯いている。
カレヴィはそんなハルカを慰めたくて、彼女の髪をそっと撫でた。
心配した拒絶反応は出ず、ハルカがはっと顔を上げカレヴィを見た。
カレヴィは愛しさのままにハルカの髪を手櫛で梳く。ハルカはカレヴィにされるがままになっていた。
「俺も少しは我慢しなければな。愛しいおまえを手に入れるためだ。俺は出来るだけ自重するようにするぞ」
それは苦しいが、ハルカの受けた苦しみよりはずっと小さなものだろう。
「……うん。本当にごめんね、カレヴィ」
「謝るな。おまえは悪くないんだから、ティカ殿の言う通り心を穏やかにして過ごすことだけ考えておけ。分かったな、ハルカ」
カレヴィは命令口調でハルカの反対意見を封じる。
「うん、分かった。そうする」
ハルカが神妙な顔で頷いて言うと、カレヴィはよし、と頷いて、くしゃりと彼女の頭を撫でた。
ハルカの拒絶反応もいつもこのように出ないと嬉しいのだがなとカレヴィは顔に出さずに思った。
髪を撫でられているハルカは嬉しそうに頬を染めて、可愛らしくカレヴィを見る。カレヴィも出来る限りの優しい表情でハルカに微笑んだ。
すると、はるかは胸を押さえながら泣きそうな表情でカレヴィを上目遣いに見た。
「そんな可愛らしい顔で見るな。これでは戻りたくなくなってしまう」
ハルカのこの表情は、反則だ。本当にいつまでも一緒にいたくなってしまう。
カレヴィは溜息をつくと、名残惜しかったが、ハルカの髪に触れていた手を離した。
するとますますハルカの表情が泣きそうに歪む。
「そんな顔をするな。また会いに来る」
「うん。待ってる」
ハルカは胸の前で指を組み合わせて、涙を浮かべながら何度も頷いた。
「泣くな。……ティカ殿、ハルカを頼む」
「分かりました」
そっと二人に近づいていたティカがハルカの肩をそっと抱きながら頷いた。
ハルカはなにかを決意したように頷くと、取り出したハンカチで涙を拭いた。
──カランカラン。
ハルカが自ら転移門の呼び鈴を鳴らすと、向こう側の景色が映る。
「じゃあね、カレヴィ」
泣き笑いしながらそう言うハルカにカレヴィは愛しさを募らせながらも頷いた。
「──ああ。それではな。ハルカ、養生するんだぞ」
「うん」
ハルカが頷いたことで、カレヴィは少しだけ安心する。
そしてハルカに微笑むと、今度こそカレヴィはあちらの世界へ向かっていった。
カレヴィが振り返ったときには、空間は完全に閉じられ、門の周辺には静けさだけが広がっていた。
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