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プロローグ
第0話 始まり
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桂木月穂は悪魔につきまとわれている。
それもとびきり外面の良い悪魔に。
素晴らしい肩書きと人懐こい笑顔で悪魔は両親や友人を懐柔し、月穂を今にもものにしようと待ちかまえている。
「月穂、またあの人来てるよ」
窓際で校門の様子を窺いながら月穂の友人の畠山有美は言った。
「えーっ、またあ? いい加減しつこい」
月穂は大きな声を出して、思い切り顔をしかめた。
「なんでそう嫌そうな顔するかな。結構あの人いいじゃん。一流大学在籍でイケメンだし。それに月穂彼氏いないしちょうどいいじゃない」
「わたしにも選ぶ権利はある」
そう、やつには選ばれない理由があった。
月穂のその言葉に、有美は「高望み過ぎ」と返してきた。
しかし、それはとんでもない誤解だ。
やつは毎日のように月穂の靴箱に大量の手紙やプレゼントを入れてくる。
そして、月穂の靴や上履きを奪っていくのだ。
それ以外にも彼氏のような顔をして、月穂が帰宅したら母親と談笑していたり、今現在のように待ち伏せされていたりと、とにかく枚挙にいとまがない。
こういうのをヤンデレというのかもしれないと月穂は常々思う。
思い返してみれば、そんなヤンデレさんに好かれてしまったのが彼女の運のつきだったかもしれない。
「わたし、帰るわ」
「えっ、とうとうあの人と一緒に帰る気になったの?」
とたんに有美が色めき立つ。
それに月穂は曖昧な笑みを向け有美に挨拶すると、大きな鞄を持って教室を出た。
月穂が向かったのは女子トイレだった。
そこでバッグから取り出したのは、ウィッグと眼鏡。月穂はそれを装着すると、昇降口に行った。
そして自分の靴箱がないところで上履きをバッグから出した靴に履き替える。それから上履きをバックの中にしまい込んだ。
そして校門まで来ると、月穂は待ちかまえていたヤンデレさんと目が合わないように、しかし不自然に移らないように彼の目の前を通った。
──しかしである。
敵もさるものひっかくもの、すぐにヤンデレさんには月穂だとわかってしまったようであった。
「ちょっと待ってよ、月穂ちゃん」
「人違いです」
声色を変えて月穂は言うが、ヤンデレさんには通用しない。
「俺が君を間違うわけはないよ。君は月穂ちゃんだ」
いやに確信に満ちた声で告げられて、思わず月穂は取り繕うことも忘れて叫んだ。
「……っ、いい加減にしてよ、ストーカー! 警察に訴えるからね!」
そして横断歩道に飛び出すと、一目散にその場から駆け去ろうとした。
しかしその時、月穂は目の前にトラックがせまっているのに気がつかなかった。
「! 月穂ちゃんっ!」
ヤンデレさんがいやにせっぱ詰まった様子でいるのを不思議に思う間もなく、次の瞬間月穂の意識はブラックアウトした。
それもとびきり外面の良い悪魔に。
素晴らしい肩書きと人懐こい笑顔で悪魔は両親や友人を懐柔し、月穂を今にもものにしようと待ちかまえている。
「月穂、またあの人来てるよ」
窓際で校門の様子を窺いながら月穂の友人の畠山有美は言った。
「えーっ、またあ? いい加減しつこい」
月穂は大きな声を出して、思い切り顔をしかめた。
「なんでそう嫌そうな顔するかな。結構あの人いいじゃん。一流大学在籍でイケメンだし。それに月穂彼氏いないしちょうどいいじゃない」
「わたしにも選ぶ権利はある」
そう、やつには選ばれない理由があった。
月穂のその言葉に、有美は「高望み過ぎ」と返してきた。
しかし、それはとんでもない誤解だ。
やつは毎日のように月穂の靴箱に大量の手紙やプレゼントを入れてくる。
そして、月穂の靴や上履きを奪っていくのだ。
それ以外にも彼氏のような顔をして、月穂が帰宅したら母親と談笑していたり、今現在のように待ち伏せされていたりと、とにかく枚挙にいとまがない。
こういうのをヤンデレというのかもしれないと月穂は常々思う。
思い返してみれば、そんなヤンデレさんに好かれてしまったのが彼女の運のつきだったかもしれない。
「わたし、帰るわ」
「えっ、とうとうあの人と一緒に帰る気になったの?」
とたんに有美が色めき立つ。
それに月穂は曖昧な笑みを向け有美に挨拶すると、大きな鞄を持って教室を出た。
月穂が向かったのは女子トイレだった。
そこでバッグから取り出したのは、ウィッグと眼鏡。月穂はそれを装着すると、昇降口に行った。
そして自分の靴箱がないところで上履きをバッグから出した靴に履き替える。それから上履きをバックの中にしまい込んだ。
そして校門まで来ると、月穂は待ちかまえていたヤンデレさんと目が合わないように、しかし不自然に移らないように彼の目の前を通った。
──しかしである。
敵もさるものひっかくもの、すぐにヤンデレさんには月穂だとわかってしまったようであった。
「ちょっと待ってよ、月穂ちゃん」
「人違いです」
声色を変えて月穂は言うが、ヤンデレさんには通用しない。
「俺が君を間違うわけはないよ。君は月穂ちゃんだ」
いやに確信に満ちた声で告げられて、思わず月穂は取り繕うことも忘れて叫んだ。
「……っ、いい加減にしてよ、ストーカー! 警察に訴えるからね!」
そして横断歩道に飛び出すと、一目散にその場から駆け去ろうとした。
しかしその時、月穂は目の前にトラックがせまっているのに気がつかなかった。
「! 月穂ちゃんっ!」
ヤンデレさんがいやにせっぱ詰まった様子でいるのを不思議に思う間もなく、次の瞬間月穂の意識はブラックアウトした。
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