Wヒロインの乙女ゲームの元ライバルキャラに転生したけれど、ヤンデレにタゲられました。

舘野寧依

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女神選抜試験

第37話 女神

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 土曜の総括の日になった。
 今日は大神官の他に、魔術師や神官達も勢ぞろいしている。
 そのことで、なんだか嫌な予感がして、クリスはハーヴェイを見た。
 ハーヴェイはそれに頷き返してくれる。
 マリーも周囲の雰囲気が異様なのを感じ取っているのか、クリスの傍で彼女を不安そうに見つめていた。
 そんな緊迫する空気の中で、大神官が口を開いた。

「突然ですが、女神選抜試験は中止ということになりました」

「え……」

 信じられないことを聞いた気がして、クリスとマリーは目を瞠った。

「いきなりどういうことですの? 楽園やティルナノーグはどうなるのです」

 ここで育成が中止となると、それぞれの世界を放置することになるのでは、とクリスは懸念した。

「それは問題ありません。女神が誕生すれば、どちらも魔物がいなくなり、発展もします」
「え……」

 女神が誕生? 選抜試験の途中なのに?

 クリスとマリーが大神官の顔を凝視すると、彼は頷いて言った。

「今回の水の魔術師ルーカスへの暴力行為とティルナノーグの状況、魔術師達との信頼関係の構築をかんがみて、マリーは女神候補として不適格と神殿側に判断されました」
「え……」

 思ってもいなかったことを聞いて、クリスは目を瞠った。

「そんな! それじゃ、わたしどうなるんですか!?」

 マリーが大神官に取り縋ろうとするが、その前に彼女は透明な壁にそれを阻まれた。

「マリー・コートネイ。あなたはこの神殿から追放されます。もちろんこの街からもです」

 大神官の言葉に、マリーは絶句する。代わりにクリスが口を開いた。

「大神官様、それではあまりにも厳しすぎますわ。どうにかなりませんか」
「──クリスティアナ、あなたもマリーに困らされていたと魔術師達から報告を受けています。あなたがマリーをそのように庇うのは美徳ではありますが、彼女にとってよいことではありません」
「……申し訳ございません。差し出口をききました」

 大神官の言うことはもっともだったので、クリスはその口を閉じた。

「話を戻しますが、マリーは前世の記憶を持ち、しかしそれが男性のものだと聞きました。そしてその執着は主にクリスティアナに向けられていたと報告されています。これは間違いはないですか」
「……はい」

 大神官の確認に、クリスとマリー、そして魔術師達が頷く。

「万物を愛する女神の中身が男性では都合が悪い。……しかし、今からまたマリーの前世の記憶を失わせるのは、楽園とティルナノーグの発展具合に益々差が出てしまうでしょう」

 それは確かに、とクリスは心の中で頷いた。

「そこで早急ではありますが、クリスティアナを女神にせば話は上手くまとまると皆の意見が一致したのです」
「わ、わたくしが女神ですか?」

 大神官の突然の重大な発言にクリスの声が震える。

「はい。あなたにならきっとこの重責も耐えられるでしょう。我々もあなたのためなら手間を惜しみません」

 クライドがそう言うと、ハーヴェイや他の魔術師達も頷く。

「そなたが不安に思うのも分かる。だが、女神はそなたをおいて他にはいない。そう皆に思わせるそなたが女神に一番ふさわしい」
「……ハーヴェイ様……」

 ハーヴェイに手を差し出され、クリスはその手を取った。
 マリーは口封じと足止めの魔法をかけられているのか、動かないままだ。
 ハーヴェイは大神官の前に来ると、クリスの手を彼に差し出した。
 ハーヴェイからクリスを引き継いだ大神官は、女神の玉座に彼女を座らせた。
 その途端に、クリスの体からカッと光が溢れだす。

「あ……」

 まばゆい光の中で、代々の女神の叡智と力がクリスに引き継がれていく。
 やがてその光が収まると、男性達が新たな女神となったクリスに膝を折った。

「我々は女神クリスティアナ様に終生忠誠を誓います」

 大神官の言葉にクリスは鷹揚に頷くと、視線をマリーに移した。

「クリス! わたしを男性にして! そして、あなたの傍に置いて!」

 一身にクリスにそう訴えるマリーはとても健気に見える。……しかし可哀想だが、それにほだされる訳にはいかないのだ。

「ごめんなさい、それは無理よ」

 クリスの傍にはハーヴェイだけと、もう彼女の心は決まっている。

「あなたの気持ちには応えられないわ。……これからは前世を忘れ、普通の女の子として暮らしなさい」

 クリスがマリーに手をかざすと、そこから暖かい光が溢れ、マリーを包み込んだ。
 これでマリーは幸せな生を歩めるはずだ。

「……クリス……」

 クリスはマリーに微笑むと、彼女を自宅へと転移させた。
 マリーの突然の帰宅に、彼女の両親は驚くだろうが、きっと喜んで受け入れることだろう。

「それではクリスティアナ様は女神様の衣装にお着替えをお願いいたします」
「はい。……いえ、ええ」

 候補から女神に変わったので、大神官や魔術師達にも平素の口調で話さねばならない。
 いきなりのことで慣れないが、少しずつクリスもそれに馴染んでいかなければならないのだ。
 そしてクリスは女性神官に手を取られて支度部屋に連れて行かれた。



「まあっ、とてもよくお似合いで……それにとてもお美しくて……。さすが女神様ですわ」

 白を基調に金糸と銀糸で刺繍された豪奢なドレスに着替えたクリスに、女性神官達は、ほおっと息を付いてしきりに彼女を褒めそやしていた。

「ありがとう」

 確かにとても美しく仕上げて貰ったので、クリスもにっこりと微笑んだ。
 ──そしてこれから国民達への披露があるのだ。
 クリスはそれを思い、女神らしく、毅然とした態度で顔を上げた。
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