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「──王太子位、しかと拝命いたします」
国王の前に進み出たサヴェリオが、恭しく礼をとる。
「なっ、わたし以外が王太子だと……!? そんなことは許さない!」
サヴェリオに掴みかかろうとしたデニスが、近衛騎士にそれを阻まれ絨毯へと押しつけられた。無礼者、とデニスがわめき立てる。
「許さないもなにも、おまえは既に平民だ。恨むのならば、自分の愚かさを恨むのだな。……サヴェリオ殿、この者たちの処断は貴公に任せる」
「御意」
そこでようやく、デニスと取り巻きたちが我に返る。部屋の隅ですっかり忘れ去られているキャロルは、うめきながらもぞもぞと蠢いている。
「え、あ……っ、あれは違うのです、マヌエル公!」
「そうです! 僕達はキャロルに騙されていただけで!」
「メリッサ嬢を突き飛ばしたのは、殿下のご命令でしたし!」
「きっ、貴様ら……っ!」
必死に弁解する取り巻きたちに、デニスが憤慨する。
「──黙れ、この下衆どもが」
静かに、だが確実な怒りをともって、サヴェリオがデニスと取り巻きたちを見据えた。
「聞いていれば、貴様達の保身の言葉ばかり。メリッサへの謝罪の一言もないとは呆れ果てる」
「えっ、ああっ! メリッサ嬢には大変申し……」
「もう遅い」
指摘されて、はじめて謝罪を口にしようとした取り巻きたちの言葉をサヴェリオが遮る。
「わたしは先程貴様たちに、妻をあのような目に遭わせたことを後悔させてやると言ったな? その言葉どおり、一月ののち、貴様たちを処分してくれるわ!」
今や怒りを隠さずに、サヴェリオが宣言する。その激しさに、デニスと取り巻きたちが縮み上がった。
「な、なぜ、一月後……あ、ああっ!」
取り押さえられながらも疑問を口にしたデニスは、そこでようやく自分の身に科せられるであろう罰に気がつき戦慄した。
「ち、父上! 助けてください! わたしは死にたくない!」
天よりも高かったプライドの欠片もなく訴えるデニスを国王が静かに見やった。
「……わたしはこの件に関しては、サヴェリオ殿に一任しておる。おまえを許したとあっては、国内外にも示しがつかぬ。潔く諦めるのだな」
「はっ、母上!」
「……あなたのしたことは、どうあっても許されないことです。素直に罪を受け入れなさい」
母である王妃にさえ拒絶されて、デニスは愕然とする。
「そ、そんな、そんな……っ!」
「──この者たちを地下牢に連れて行け。多少手荒に扱ってもかまわん」
サヴェリオが容赦なく命ずると、近衛騎士たちは、放心するデニスとわめく取り巻きたち、身動きできないままうめくキャロルを引っ立てていった。
* * *
「──それにしても、盛大なお式でしたね」
ため息をついたメリッサを労るように、マーベリン王国、新国王サヴェリオが優しく微笑んだ。
「そうだね。さすがに戴冠式ともなると、立太式と規模が違うな」
「なんだか震えがきましたわ。わたし、あなたの隣で頑張るつもりでいますけれど、これはかなりの重責ですね……」
居並ぶ上位貴族達や各国の要人の前で、前国王から王冠を授けられたサヴェリオは、威風堂々と新国王として即位したことを宣言した。
まったく責任感のなかったデニス元王子などと比べるのもおかしいが、覚悟があって王位に就く方はやはり違うわ、と再びため息をつく。
すると、サヴェリオがメリッサの唇をそっと指で押さえた。
「メリー、溜息をつくと、幸せが逃げてしまうよ? これはわたし達の新たな門出なのだ。わたしはメリーと一緒なら、この重責も乗り越えられると信じている」
「そ、そ、そうですわね」
サヴェリオに得も言われぬほど甘く微笑まれ、思わずというようにメリッサが真っ赤になる。
それを愛しげに見つめていたサヴェリオは、やがて妃に手を差し出した。
「さあ、国民への初披露だ。これが王と王妃としての初仕事かな?」
少々おどけた口調のサヴェリオに、メリッサはくすりと微笑んだ。
──そして、差し出された手にそっと手を重ねた。
国を挙げての戴冠式からしばらくしたあと、サヴェリオ王は地下牢に収監されていた者たちに沙汰を下した。
──国家反逆罪にて、市中引き回しの上、公開処刑。
彼らが王都に連れて行かれた時には、民が石を投げるまでもなくボロボロの有様だったが、懐妊しているかもしれない王妃の子を流そうとしたクズ元王子とその一行、と国民にも知れ渡っていたので、なにも問題はなかった。
そしてその日、五人の平民が処分された。
〈了〉
国王の前に進み出たサヴェリオが、恭しく礼をとる。
「なっ、わたし以外が王太子だと……!? そんなことは許さない!」
サヴェリオに掴みかかろうとしたデニスが、近衛騎士にそれを阻まれ絨毯へと押しつけられた。無礼者、とデニスがわめき立てる。
「許さないもなにも、おまえは既に平民だ。恨むのならば、自分の愚かさを恨むのだな。……サヴェリオ殿、この者たちの処断は貴公に任せる」
「御意」
そこでようやく、デニスと取り巻きたちが我に返る。部屋の隅ですっかり忘れ去られているキャロルは、うめきながらもぞもぞと蠢いている。
「え、あ……っ、あれは違うのです、マヌエル公!」
「そうです! 僕達はキャロルに騙されていただけで!」
「メリッサ嬢を突き飛ばしたのは、殿下のご命令でしたし!」
「きっ、貴様ら……っ!」
必死に弁解する取り巻きたちに、デニスが憤慨する。
「──黙れ、この下衆どもが」
静かに、だが確実な怒りをともって、サヴェリオがデニスと取り巻きたちを見据えた。
「聞いていれば、貴様達の保身の言葉ばかり。メリッサへの謝罪の一言もないとは呆れ果てる」
「えっ、ああっ! メリッサ嬢には大変申し……」
「もう遅い」
指摘されて、はじめて謝罪を口にしようとした取り巻きたちの言葉をサヴェリオが遮る。
「わたしは先程貴様たちに、妻をあのような目に遭わせたことを後悔させてやると言ったな? その言葉どおり、一月ののち、貴様たちを処分してくれるわ!」
今や怒りを隠さずに、サヴェリオが宣言する。その激しさに、デニスと取り巻きたちが縮み上がった。
「な、なぜ、一月後……あ、ああっ!」
取り押さえられながらも疑問を口にしたデニスは、そこでようやく自分の身に科せられるであろう罰に気がつき戦慄した。
「ち、父上! 助けてください! わたしは死にたくない!」
天よりも高かったプライドの欠片もなく訴えるデニスを国王が静かに見やった。
「……わたしはこの件に関しては、サヴェリオ殿に一任しておる。おまえを許したとあっては、国内外にも示しがつかぬ。潔く諦めるのだな」
「はっ、母上!」
「……あなたのしたことは、どうあっても許されないことです。素直に罪を受け入れなさい」
母である王妃にさえ拒絶されて、デニスは愕然とする。
「そ、そんな、そんな……っ!」
「──この者たちを地下牢に連れて行け。多少手荒に扱ってもかまわん」
サヴェリオが容赦なく命ずると、近衛騎士たちは、放心するデニスとわめく取り巻きたち、身動きできないままうめくキャロルを引っ立てていった。
* * *
「──それにしても、盛大なお式でしたね」
ため息をついたメリッサを労るように、マーベリン王国、新国王サヴェリオが優しく微笑んだ。
「そうだね。さすがに戴冠式ともなると、立太式と規模が違うな」
「なんだか震えがきましたわ。わたし、あなたの隣で頑張るつもりでいますけれど、これはかなりの重責ですね……」
居並ぶ上位貴族達や各国の要人の前で、前国王から王冠を授けられたサヴェリオは、威風堂々と新国王として即位したことを宣言した。
まったく責任感のなかったデニス元王子などと比べるのもおかしいが、覚悟があって王位に就く方はやはり違うわ、と再びため息をつく。
すると、サヴェリオがメリッサの唇をそっと指で押さえた。
「メリー、溜息をつくと、幸せが逃げてしまうよ? これはわたし達の新たな門出なのだ。わたしはメリーと一緒なら、この重責も乗り越えられると信じている」
「そ、そ、そうですわね」
サヴェリオに得も言われぬほど甘く微笑まれ、思わずというようにメリッサが真っ赤になる。
それを愛しげに見つめていたサヴェリオは、やがて妃に手を差し出した。
「さあ、国民への初披露だ。これが王と王妃としての初仕事かな?」
少々おどけた口調のサヴェリオに、メリッサはくすりと微笑んだ。
──そして、差し出された手にそっと手を重ねた。
国を挙げての戴冠式からしばらくしたあと、サヴェリオ王は地下牢に収監されていた者たちに沙汰を下した。
──国家反逆罪にて、市中引き回しの上、公開処刑。
彼らが王都に連れて行かれた時には、民が石を投げるまでもなくボロボロの有様だったが、懐妊しているかもしれない王妃の子を流そうとしたクズ元王子とその一行、と国民にも知れ渡っていたので、なにも問題はなかった。
そしてその日、五人の平民が処分された。
〈了〉
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