10 / 13
10
しおりを挟む
「──ふざけんな! なんでわたしがこんな汚いところに入らなきゃなんないのよ!」
──日の光も射し込まない王宮地下牢。わけもわからないまま、ここに連れてこられたコリンヌは、貴族とも思えないような口調で口汚くののしる。
そのコリンヌの暴言に黙っていられなかったのか、看守が怒鳴り返した。
「黙れ、この大罪人が! おまえがセレーネ様にしたことを許されていたのは、婚姻した偽王子が王族であるとされていたからだ! それが偽りの身分であるならば、本来の罰を受けることになるのは当然だろう!」
「ちょっ、ちょっと待ってよ! 偽王子? 偽りの身分? マブロゥ様は王太子にはなれなかったけど、れっきとした王子様でしょ!?」
鉄格子にかじりつきながらコリンヌが叫ぶが、セレーネに同情的だった大多数に属する看守は鼻で笑った。
「妾妃が他人との子を陛下の子と偽って生まれたのがあの偽王子だ。容姿も気品も陛下とは似ても似つかぬと思ってはいたが、まさか平民との子とは、母子ともどもどこまで図々しいのだか。……もっとも、あの毒婦の悪運もここで尽きたようだがな」
「なっ、なんですって! 平民との子!? マブロゥ様が!?」
落としたマブロゥに王位継承権のなかったことでさえ許しがたかったコリンヌは、驚愕の事実に目を剥いた。
「それじゃ、まぎれもない平民じゃないの! わたしの今までの苦労はなんだったのよ!」
「……自業自得だろう。そもそもあの偽王子が婚約破棄騒ぎを起こした時点で、王妃様が止めていなければ処刑となっていたはずだったらしいぞ。一応あの時は王子という身分だったが、だがもしそうなっていたら、おまえも間違いなく処刑されていたはずだ」
「なっ、この世界のヒロインのわたしが処刑されるわけないわ!」
「……はあ? なにを言ってるんだ。頭がおかしいのか?」
いきなり意味不明のことを叫びだしたコリンヌに看守が顔をしかめる。するとその時、大声でわめくマブロゥを連れて騎士がやってきた。
「無礼者! わたしにこんなまねをして許されると思うな!」
「いいからさっさと歩け。……騒がしくてすまないな。陛下をたばかった大罪人を連れてきた」
「ああ、ご苦労。こちらもうるさかったから気にするな」
顔見知りらしい騎士と看守のやりとりの合間にコリンヌが驚愕に目を見開く。そして、夫であるマブロゥに噛みついた。
「あっ、あんた、平民ってどういうことよ! なんで貴族のわたしが平民なんかと結婚する羽目になってんの!? ふざけんな!!」
「こっ、コリンヌ!? なぜここにっ! おまえこそ胸も金もないくせに、よくもわたしと結婚しようと思ったものだ!」
「平民だと知ってたら、大した顔でもないあんたなんか攻略しなかったわよ、このチョロ男が! 安易にこんなの選ばずに、地位も容姿も優れてるレアンドレ様に絞っておけばよかった!!」
見苦しい夫婦喧嘩を目にして、看守と騎士は苦笑した。もっとも、今この二人を一緒にしたら、予想できることではあったのだが。
「こんなのとはなんだ! 貴様、レアンドレにも粉をかけていたのか! この浮気者が!!」
「うるさい! 地位しかとりえがなかったくせにえらそうにするな、クズ! 王子どころか平民なんてありえないわ! 離婚よ、離婚!」
「望むところだ! そうすれば、問題なくセレーネと結婚して、わたしは公爵になれるのだからな! わたしを陥れた貴様に目にもの見せてくれるわ!!」
「なんですって! 馬鹿な平民のくせにつけあがってるんじゃないわよ!」
怒りのためか真っ赤になって怒鳴りあっている二人に、看守と騎士はあきれ返った。
そもそも、男爵令嬢と平民のマブロゥとの婚姻がありえないなら、王家の血筋である公爵令嬢のセレーネとの結婚は、もっとありえないことになぜ気づかないのか不思議である。
マブロゥを牢に入れたあとも、みっともないののしり合いを二人が繰り広げていたところに、新しい客が訪れた。
「なんであたしがこんなとこに入るのよ! あたしを誰だと思ってんの!?」
「はいはい、国王陛下をたばかった大罪人ですね。あなたにはお似合いですよ」
騎士と一緒に妾妃を連行してきた副看守長がヒステリックに叫ぶ妾妃の言葉を笑って受け流した。
きいぃっと悔しそうに叫んだあと、妾妃が牢の中のコリンヌに気がついた。
「……あんたね!? あんたがヘタ打ったせいで、国母になるというあたしの計画がおじゃんじゃないの! たかが男爵令嬢のくせに、あたしの邪魔してんじゃないわよ!!」
妾妃が平民出身であることで、国母などまずありえないのだが、何度いろいろな者にそう説かれても、いまだに妾妃は理解していないようである。
そして一番ヘタを打ったのは、マブロゥが男爵家に婿入りする際に「せっかくマブロゥを王子にねじ込んだのに、あたしの計画が台無しじゃないの!」と失言した妾妃である。
「はあっ!? こっちこそいい迷惑よ! 王子どころか平民の、顔もあんたに似て不細工なこんな男なんかと結婚なんてしたくなかったわよ!!」
「なっ、なんですって!! 言うにことかいて、この女狐が!!」
「ぶっ、不細工だと!? コリンヌ、貴様!!」
……カオスである。
いずれも傲岸不遜な性格であるからして、こうなるともはや手が着けられない。
副看守長は同情的な目で看守を見ると、ため息混じりに言った。
「もう一名人員を配置する。それまで我慢してくれ」
「……お気遣い感謝します」
看守の経験上、もちろん今までにも騒ぎ立てる罪人はいたがこの比ではなかった。
一人でも十分やかましい者が三人も集まると、看守にとっては苦行でしかないだろう。果たして二名でも耐えられるかどうか。
看守は礼を述べると、少し遠い目になるのだった。
──日の光も射し込まない王宮地下牢。わけもわからないまま、ここに連れてこられたコリンヌは、貴族とも思えないような口調で口汚くののしる。
そのコリンヌの暴言に黙っていられなかったのか、看守が怒鳴り返した。
「黙れ、この大罪人が! おまえがセレーネ様にしたことを許されていたのは、婚姻した偽王子が王族であるとされていたからだ! それが偽りの身分であるならば、本来の罰を受けることになるのは当然だろう!」
「ちょっ、ちょっと待ってよ! 偽王子? 偽りの身分? マブロゥ様は王太子にはなれなかったけど、れっきとした王子様でしょ!?」
鉄格子にかじりつきながらコリンヌが叫ぶが、セレーネに同情的だった大多数に属する看守は鼻で笑った。
「妾妃が他人との子を陛下の子と偽って生まれたのがあの偽王子だ。容姿も気品も陛下とは似ても似つかぬと思ってはいたが、まさか平民との子とは、母子ともどもどこまで図々しいのだか。……もっとも、あの毒婦の悪運もここで尽きたようだがな」
「なっ、なんですって! 平民との子!? マブロゥ様が!?」
落としたマブロゥに王位継承権のなかったことでさえ許しがたかったコリンヌは、驚愕の事実に目を剥いた。
「それじゃ、まぎれもない平民じゃないの! わたしの今までの苦労はなんだったのよ!」
「……自業自得だろう。そもそもあの偽王子が婚約破棄騒ぎを起こした時点で、王妃様が止めていなければ処刑となっていたはずだったらしいぞ。一応あの時は王子という身分だったが、だがもしそうなっていたら、おまえも間違いなく処刑されていたはずだ」
「なっ、この世界のヒロインのわたしが処刑されるわけないわ!」
「……はあ? なにを言ってるんだ。頭がおかしいのか?」
いきなり意味不明のことを叫びだしたコリンヌに看守が顔をしかめる。するとその時、大声でわめくマブロゥを連れて騎士がやってきた。
「無礼者! わたしにこんなまねをして許されると思うな!」
「いいからさっさと歩け。……騒がしくてすまないな。陛下をたばかった大罪人を連れてきた」
「ああ、ご苦労。こちらもうるさかったから気にするな」
顔見知りらしい騎士と看守のやりとりの合間にコリンヌが驚愕に目を見開く。そして、夫であるマブロゥに噛みついた。
「あっ、あんた、平民ってどういうことよ! なんで貴族のわたしが平民なんかと結婚する羽目になってんの!? ふざけんな!!」
「こっ、コリンヌ!? なぜここにっ! おまえこそ胸も金もないくせに、よくもわたしと結婚しようと思ったものだ!」
「平民だと知ってたら、大した顔でもないあんたなんか攻略しなかったわよ、このチョロ男が! 安易にこんなの選ばずに、地位も容姿も優れてるレアンドレ様に絞っておけばよかった!!」
見苦しい夫婦喧嘩を目にして、看守と騎士は苦笑した。もっとも、今この二人を一緒にしたら、予想できることではあったのだが。
「こんなのとはなんだ! 貴様、レアンドレにも粉をかけていたのか! この浮気者が!!」
「うるさい! 地位しかとりえがなかったくせにえらそうにするな、クズ! 王子どころか平民なんてありえないわ! 離婚よ、離婚!」
「望むところだ! そうすれば、問題なくセレーネと結婚して、わたしは公爵になれるのだからな! わたしを陥れた貴様に目にもの見せてくれるわ!!」
「なんですって! 馬鹿な平民のくせにつけあがってるんじゃないわよ!」
怒りのためか真っ赤になって怒鳴りあっている二人に、看守と騎士はあきれ返った。
そもそも、男爵令嬢と平民のマブロゥとの婚姻がありえないなら、王家の血筋である公爵令嬢のセレーネとの結婚は、もっとありえないことになぜ気づかないのか不思議である。
マブロゥを牢に入れたあとも、みっともないののしり合いを二人が繰り広げていたところに、新しい客が訪れた。
「なんであたしがこんなとこに入るのよ! あたしを誰だと思ってんの!?」
「はいはい、国王陛下をたばかった大罪人ですね。あなたにはお似合いですよ」
騎士と一緒に妾妃を連行してきた副看守長がヒステリックに叫ぶ妾妃の言葉を笑って受け流した。
きいぃっと悔しそうに叫んだあと、妾妃が牢の中のコリンヌに気がついた。
「……あんたね!? あんたがヘタ打ったせいで、国母になるというあたしの計画がおじゃんじゃないの! たかが男爵令嬢のくせに、あたしの邪魔してんじゃないわよ!!」
妾妃が平民出身であることで、国母などまずありえないのだが、何度いろいろな者にそう説かれても、いまだに妾妃は理解していないようである。
そして一番ヘタを打ったのは、マブロゥが男爵家に婿入りする際に「せっかくマブロゥを王子にねじ込んだのに、あたしの計画が台無しじゃないの!」と失言した妾妃である。
「はあっ!? こっちこそいい迷惑よ! 王子どころか平民の、顔もあんたに似て不細工なこんな男なんかと結婚なんてしたくなかったわよ!!」
「なっ、なんですって!! 言うにことかいて、この女狐が!!」
「ぶっ、不細工だと!? コリンヌ、貴様!!」
……カオスである。
いずれも傲岸不遜な性格であるからして、こうなるともはや手が着けられない。
副看守長は同情的な目で看守を見ると、ため息混じりに言った。
「もう一名人員を配置する。それまで我慢してくれ」
「……お気遣い感謝します」
看守の経験上、もちろん今までにも騒ぎ立てる罪人はいたがこの比ではなかった。
一人でも十分やかましい者が三人も集まると、看守にとっては苦行でしかないだろう。果たして二名でも耐えられるかどうか。
看守は礼を述べると、少し遠い目になるのだった。
131
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」
公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。
死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」
目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。
「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」
隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。
そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……?
「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」
資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。
とある婚約破棄の事情
あかし瑞穂
恋愛
「そんな卑怯な女を王妃にする訳にはいかない。お前との婚約はこの場で破棄する!」
平民の女子生徒に嫌がらせをしたとして、婚約者のディラン王子から婚約破棄されたディーナ=ラインハルト伯爵令嬢。ここまでは、よくある婚約破棄だけど……?
悪役令嬢婚約破棄のちょっとした裏事情。
*小説家になろうでも公開しています。
婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!
みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。
幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、
いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。
そして――年末の舞踏会の夜。
「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」
エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、
王国の均衡は揺らぎ始める。
誇りを捨てず、誠実を貫く娘。
政の闇に挑む父。
陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。
そして――再び立ち上がる若き王女。
――沈黙は逃げではなく、力の証。
公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。
――荘厳で静謐な政略ロマンス。
(本作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載中です)
婚約破棄ですか....相手が悪かったですね?
神々廻
恋愛
婚約者から婚約破棄を言われてしまいました。私は婚約者の事が好きでは無かったので良いのですが.....
少し遊んで下さいませ♪相手が悪かったですね?
田舎娘をバカにした令嬢の末路
冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。
それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。
――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。
田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる