10 / 22
第一章
010 名前のない役職
翌日、セバスチャンに呼び出された。
「カルマ様、本日は少々、お時間よろしいでしょうか」
「嫌って言ったら?」
「強制でございます」
「でしょうね」
連れて行かれたのは、城の奥の執務室。
レオニスが、机に書類を広げていた。
「……なんか、仕事感すごい部屋だな」
「仕事だからな」
「俺、無職なんだけど」
「今から決める」
軽く言われた。
決めるって何を。
「カルマ、お前はこの城で正式な“役職”を持て
「いや待って。俺、文字も読めないけど?」
「問題ない」
「問題しかないからね、それ」
レオニスは、書類を一枚取り出す。
「職務内容は、これだ」
見せられた紙には、こう書いてあった。
――辺境伯専属補佐。
「……は?」
「俺の側に常駐し、魔力の安定に関与する役目だ」
「それ、ほぼ俺の存在そのものじゃん」
「正しい」
否定しないな、この人。
「補佐ってなると給料はーーー」
「必要なものは全て支給する」
「……それ給料じゃない」
「城から出る必要はない」
「それ、監禁と何が違うと」
「安心と安定だ」
言い換えただけだった。
俺は頭を抱える。
「ねえ、セバスチャン、これ普通なのか?」
「極めて異例でございます」
「だよね!?」
「ですが辺境伯様にとっては、最も合理的です」
合理的って言葉で済ませていいのか。
「……俺、拒否権ある?」
レオニスは、少しだけ考えてから言った。
「ある」
「ほんとに?」
「だが」
間を置いて。
「拒否すれば俺は、お前を個人として囲う」
「それ何が違うの」
「建前がなくなる」
むしろ悪化してない?
俺は、しばらく黙った。
役職があれば、ここにいる理由が“言語化”される。
でも。
なくても、この人は俺を離さない。
「……じゃあ」
俺は観念して言った。
「その専属補佐ってやつ、やる」
レオニスの目が、わずかに細くなる。
「後悔はしないな」
「もう後悔してる」
「なら、適性はある」
意味不明な理屈だった。
セバスチャンが、深く頭を下げる。
「本日よりカルマ様は、辺境伯様の正式な側近でございます」
――側近。
それ、響きだけ聞くと格好いい。
でも実態は。
――この城から逃げる理由を失っただけ。
俺はレオニスを見る。
「ねえ、これってさ」
「何だ」
「俺がここにいるのは、“仕事”になったってことでいい?」
レオニスは少しだけ微笑んで言った。
「いいや」
そして、静かに。
「お前がここにいるのは俺が、そう望んでいるからだ」
その言葉で、理解する。
役職なんてただの飾り。
俺の本当の役目は――この人の孤独を逃げないで受け止めることだと。
「カルマ様、本日は少々、お時間よろしいでしょうか」
「嫌って言ったら?」
「強制でございます」
「でしょうね」
連れて行かれたのは、城の奥の執務室。
レオニスが、机に書類を広げていた。
「……なんか、仕事感すごい部屋だな」
「仕事だからな」
「俺、無職なんだけど」
「今から決める」
軽く言われた。
決めるって何を。
「カルマ、お前はこの城で正式な“役職”を持て
「いや待って。俺、文字も読めないけど?」
「問題ない」
「問題しかないからね、それ」
レオニスは、書類を一枚取り出す。
「職務内容は、これだ」
見せられた紙には、こう書いてあった。
――辺境伯専属補佐。
「……は?」
「俺の側に常駐し、魔力の安定に関与する役目だ」
「それ、ほぼ俺の存在そのものじゃん」
「正しい」
否定しないな、この人。
「補佐ってなると給料はーーー」
「必要なものは全て支給する」
「……それ給料じゃない」
「城から出る必要はない」
「それ、監禁と何が違うと」
「安心と安定だ」
言い換えただけだった。
俺は頭を抱える。
「ねえ、セバスチャン、これ普通なのか?」
「極めて異例でございます」
「だよね!?」
「ですが辺境伯様にとっては、最も合理的です」
合理的って言葉で済ませていいのか。
「……俺、拒否権ある?」
レオニスは、少しだけ考えてから言った。
「ある」
「ほんとに?」
「だが」
間を置いて。
「拒否すれば俺は、お前を個人として囲う」
「それ何が違うの」
「建前がなくなる」
むしろ悪化してない?
俺は、しばらく黙った。
役職があれば、ここにいる理由が“言語化”される。
でも。
なくても、この人は俺を離さない。
「……じゃあ」
俺は観念して言った。
「その専属補佐ってやつ、やる」
レオニスの目が、わずかに細くなる。
「後悔はしないな」
「もう後悔してる」
「なら、適性はある」
意味不明な理屈だった。
セバスチャンが、深く頭を下げる。
「本日よりカルマ様は、辺境伯様の正式な側近でございます」
――側近。
それ、響きだけ聞くと格好いい。
でも実態は。
――この城から逃げる理由を失っただけ。
俺はレオニスを見る。
「ねえ、これってさ」
「何だ」
「俺がここにいるのは、“仕事”になったってことでいい?」
レオニスは少しだけ微笑んで言った。
「いいや」
そして、静かに。
「お前がここにいるのは俺が、そう望んでいるからだ」
その言葉で、理解する。
役職なんてただの飾り。
俺の本当の役目は――この人の孤独を逃げないで受け止めることだと。
あなたにおすすめの小説
氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された
楽矢
BL
【完結/番外編準備中】
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。
何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。
記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。
----------
※注)
かっこいい攻はいません。
タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意!
貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。
ハッピーエンドです。
激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします!
全16話 完結済み
他サイトにも同作品を投稿しています。
様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。
初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!
----------
追記:読んでくださった皆さま、本当にどうもありがとうございました!!
完結しましたが回収しきれていないエピソードが私の中でいくつかあるので笑、後日番外編をアップしたいなと現在準備中です。
詳しい更新日まだ未定ですが、もしよろしかったらゼヒまた覗いてやってくださいねー!
イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます
ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。
しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。
——このままじゃ、王太子に処刑される。
前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。
中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。
囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。
ところが動くほど状況は悪化していく。
レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、
カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、
隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。
しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。
周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり——
自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。
誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う——
ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。
異世界オークションで売られた俺、落札したのは昔助けた狼でした
うんとこどっこいしょ
BL
異世界の闇オークションで商品として目覚めた青年・アキラ。
獣人族たちに値踏みされ、競りにかけられる恐怖の中、彼を千枚の金貨で落札したのは、銀灰色の髪を持つ狼の獣人・ロウだった。
怯えるアキラに、ロウは思いがけない言葉を告げる。
「やっと会えた。お前は俺の命の恩人だ」
戸惑うアキラの脳裏に蘇るのは、かつて雨の日に助けた一匹の子狼との記憶。
獣人世界を舞台に、命の恩人であるアキラと、一途に想い続けた狼獣人が紡ぐ、執着と溺愛の異世界BLロマンス。
第一章 完結
第二章 完結
第三章 完結