推しの2.5次元俳優に、顔を覚えられてしまったんですが?!

波崎 亨璃

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1.出会い

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 ――2.5次元にーてんごじげん

 それは、漫画・アニメ・ゲームといった“2次元”の作品を原作に、舞台俳優が衣装やメイク、演技でキャラクターを再現する“3次元”の舞台やミュージカルの総称だ。
 2次元と3次元の狭間にある、新しいエンターテインメント。
 キャラクターの髪型や衣装はもちろん、細かな仕草まで忠実に再現される。
 俳優はただ演じるのではなく、まるでキャラクターそのものとして舞台に存在する。
 さらに舞台では、プロジェクションマッピングなどの映像演出を使い、アニメ的な空間を三次元の舞台上に再現する。
 現実とフィクションが溶け合う、不思議な世界だ。

 ――と、日本2.5次元ミュージカル協会の説明では、そういうことらしい。

 特に有名なのが、乙女ゲームを原作としたミュージカル『七人の王子様』。
 知る人ぞ知る作品だったそれが、舞台化によって大ヒット。
 舞台公演だけでなく、ライブビューイング、配信、グッズ販売など、多方面にビジネスが広がり、今では一大ジャンルとして確立されているという。
 性別も年齢も関係ない。
 誰でも楽しめる、新しい舞台文化。

 ――そんな説明を、妹に延々と聞かされ続けていたら気がつけば俺の頭の中はすっかり2.5次元に染まっていた。


 事の始まりは妹の一言だった。

 それなりに楽しいと思える“普通”の毎日を送っていた。
 中学に入ると周りのやつらは部活動だの恋愛だの友情だの、何かしらの“青春”を見つけていく。
 そんな中で僕白石凪しらいしなぎは、学校が終われば一直線に家へ帰る帰宅部だった。
 友達も特別多いわけじゃない。
 放課後の予定はほぼゼロで気づけば唯一の趣味が勉強になりそうなほど、ぼっちを極めていた。
 このまま高校生になっても同じ生活を続けるんだろうな。
 そう思っていた頃だった。

 「そんな人生つまんないじゃん!」

 と突然、二歳年下の妹のゆきが凪に向かって言ったのは。

「お兄、乙女ゲームやってみない?」

 ゲーム好きの膤が差し出してきたのは、テレビに繋げて遊べるというゲーム機と一本のゲームソフト。
 そのタイトルが――

 『七人の王子様』

 略して“ナナプリ”というらしい。
 共学の学園を舞台に七人のイケメンと交流していく乙女ゲームらしい。
 正直、最初は興味なんてなかった。
 けれど膤の熱意は凄まじかった。
 どのキャラがどうで、どのルートがどうで、ここが尊くて、ここで泣けて語り出したら止まらない、止まらない。
 そのやり込み具合から本当にこのゲームが好きなんだと伝わってくる。
 で、結局、膤の熱意に負け凪はそのゲームに見事どっぷりハマった。
 絵もいい、声優も豪華、出てくるキャラはイケメンだらけ、なんならモブと呼ばれる人達にも魅力がある。
 そして何よりも普通に面白い。

「お兄、誰推し?」

 隣でゲーム画面を覗き込みながら、膤が聞いてくる。

「まだ始めたばかりだけど……今のところ、同じ図書委員で先輩の三輪譲みわゆずるくんかな」
「へぇ~。王子様系とは意外だね」
「生徒会書記の志木久湊しきひさみくんも良かったんだけどね。クールなのに花図鑑愛読してるところとか、少し天然なところとか。でも話進めてるうちに三輪くんに惹かれていた」

 そう言うと、膤はニヤリと楽しそうに笑う。

「……友達いわく、三輪くんは“沼”らしいよ」
「……沼、か」

 ゲームを始めてからというもの妹の膤と話す機会は驚くほど増えた。
 その光景に最初は両親もかなり驚いていた。

「会話選択ミスると、三輪くんヤンデレ化するから気をつけてね」
「三輪くんがヤンデレ……想像つかないんだけど」
「それ友達も言ってた。でも何回もヤンデレ化して大変だったらしい」
「そうなったらそうなったで受け入れるよ。で、膤は誰推し?」
「同じクラスで委員長の相楽樹李さがらじゅりくん!」
「それこそ王子様系じゃん」
「相楽くんは可愛い系王子様代表ですー」

 意味のない言い合いが始まるのもしばしば。
 勉強の合間にちょうどいい息抜きだし、悪くない時間だった。
 むしろ――ゲームの楽しさを教えてくれた妹には、感謝していた。
 そんなある日、いつものように机に向かい宿題や課題に取り掛かっているとバンッ!と俺の部屋の扉が、壊れるんじゃないかと思う勢いで開いた。
 そこに立っていたのは、超絶ハイテンションの妹だった。
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