きつねのお宿

おとぼけ姉さん

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〜豊臣秀長〜

いらっしゃい

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荒かった息が急に楽になってきた
だんだんに息が整い、
目が開けられるようになった。

目を開けて見回すと私は
見た事もない豪華な御殿にいた。

「あれ…ここは? ここはどこ?

それにしても、どえりゃあ美しい御殿だわ」

病だったはずの身体がなぜか軽い
私は働かない頭で呆けながら
切なく降る雨の庭を見ていた。

「ここはきつねのお宿。
うぐいすの谷にあるきつねのお宿でござりんすよ」

後ろから声をかけられて
振り向くと女がいた
先程見た美しい幻と瓜二つ
だが、幻ではない実在している。

ちゃんと影があるし
なめらかな足捌きで動いているし、
呼吸の度に胸がほのかに上下する
光を受けて頬が艶やかに光る

そして
かんざしで彩られた頭には
飾りなのかもしれないが
なんとも可愛らしい
きつねの耳が生えている

「お前さんは…?」


「わっちは しのだ つきね。
この宿の主。
このうぐいすの谷にあるきつねのお宿の
女主人をしてるでありんす」

つきねさんという女人はそういうが
私は郡山城で死にかけていたはずで
まだ説明に納得いかず
私はまた質問を投げかけた

「ここは?」

「ここはあの世とこの世の境、
わっちは深く悩んでいそうな御方を
この宿にお招きするのが
趣味でありんす」

あの世とこの世の境と言われて
ようやく事態を飲み込めて来た。
ここは現世ではない
つまり私は死んだのだ

「ああ、でも、
今日は寒いでありんすね。

あったかいお茶でも
お手伝いに持ってこさせるでござりんす

待ってておくんなんし」
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