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王宮最後の夜
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エレオノーラは、明日、ついに王宮をでて、リュシアンの屋敷に正式に移ることになった。
ほとんどの荷物を整頓したので、部屋はがらんとしている。
シルビオに渡された、古びた小さなトランクだけを持っていけばいい。
(ここに来てからいろいろあったな……)
アンナマリーに拾われてきた夜から、ここで過ごしたことを思い返していた。
アカデミーの入学試験も目前だし、お披露目の夜会もある。まだまだやらなければならないことはいっぱいだ。
今日、明日は引っ越しのため、学科も実技も授業がない。今日一日、国王陛下夫妻へのお礼の口上から始まって、王宮内の使用人棟などに顔を出し、挨拶をして回った。
最初は、遠巻きにしていた使用人や役人もだんだんと打ち解けて、親しく接してくれたのは、エレオノーラにとっては心のよりどころだった。
会えなかったが、フレデリックや護衛の騎士たちの詰め所にも行ってみた。団長さんに挨拶した後、妙にフレンドリーな騎士が親し気に話しかけてきたり、と、なかなか帰れず、結局夕方になってやっと部屋へ戻れたのだった。
入学試験が心配で、一応教本をパラパラめくってみたりする。
(まだ、合格するかわからないけれど、できる限りのことはしなければね)
すると、そこへアンナマリーがやってきた。
「……エレオノーラ、ちょっといい?」
昨日の一件もあり、少し身構えるエレオノーラ。
「どうされたんですか?」
「今日で、最後でしょう?もしよかったら、私の部屋でおしゃべりしない?」
「え?でも……」
今日はもう一度宝物庫へ行くはずだった。アンナマリーの事だからちゃっかり金庫のカギを用意しているだろうと思っていたのだが、何かあったのだろうか。
「あの、金庫は……」
と、言いかけた言葉にかぶせるように、アンナマリーは話す。
「そのことも話したいから、ちょっといらっしゃい」
半ば強引に連れて行かれたアンナマリーの部屋は、夕方だというのにお茶屋お菓子のセットが準備されていた。しかも、珍しいことに床に敷物が敷いてあり、かわいらしい淡い色合いのクッションが色とりどりに並べられていて、どうやら床でお茶会をする気らしい。
「アンナマリー様、これは……」
「私ね、同年代の友達っていないのよ。皆、私を腫物のように扱うし、気軽にお話できる人っていないの。一度、こうやって、お行儀も気にしないで、お話しするのに憧れていたの!」
それを聞いたエレオノーラの瞳は輝いた。
「わ、私も!すごく、嬉しい……」
エレオノーラはアンナマリーとは違い、外に出ることすら難しかった過去がある。同年代の友達をつくるという経験もなければ、発想すらなかった。
いささか浮ついた気持ちで、敷物の上に座る。金の縁取りに薄桃色の陶磁器、そこにはバラと蝶があしらわれていて、うっとりするようなかわいいデザインだ。
「素敵……」
カップを手に取り、うっとりとその装飾をエレオノーラが見つめていると、それを見つけたアンナマリーが言った。
「でしょう?!いつかこんな日が来たら使おうと思って大事にとっておいたの!喜んでくれてうれしいわ」
昨日とは、うってかわって明るいアンナマリーの様子に、ほっと安堵するエレオノーラ。
その時、アンナマリーの何かを狙っているように、目が鋭くなった。
「ところでね、ちょっと聞きたいんだけど……あなた、シルビオ・ヴェルティエとどういう関係?」
アンナマリーは興味津々といた風情で、目を輝かせてエレオノーラの答えを待っている。
「あ……あの……」
何と答えたものか、夫ではあるが離婚する予定で、なんだか縁があるけど、特に夫婦というわけでもない、何から話せばいいのかエレオノーラはすぐに答えることが出来ない。
「もう!じれったいわね!夫だって聞いたわよ、水臭いじゃない、私に言ってくれないなんて!それで?久しぶりに会ったのでしょう?どうだった?」
「どうって……何の感情もありません」
嘘だ、とレオノーラは心の中でつぶやいた。何の感情もないことはない、シルビオへの恋心や裏切られた時の恨み、怒り、捨て置かれた悲しみ、喜怒哀楽のすべてがシルビオの記憶について回る。とても一言で言い表わすことができるものではない。
「またまたぁ、そんなわけないでしょう?あんなに見目が麗しくて、優しい方だもの、何か、あるでしょ?」
どうやらアンナマリーは恋の話がしたくてエレオノーラを呼んだようだ。
「美しいのは見た目だけです。私は、裏切られて、今でも腹が立っていますよ」
「裏切られた?!どういうこと?だって、あなたを探してこの国まで来たのでしょう?なんて素敵なお話、お芝居になるくらいロマンチックじゃない」
「そんないいものじゃありません。まあ、ある意味、お芝居にはなるかも」
「なになに?教えて?教えて!」
少し楽しそうに、アンナマリーはエレオノーラを見つめた。
ほとんどの荷物を整頓したので、部屋はがらんとしている。
シルビオに渡された、古びた小さなトランクだけを持っていけばいい。
(ここに来てからいろいろあったな……)
アンナマリーに拾われてきた夜から、ここで過ごしたことを思い返していた。
アカデミーの入学試験も目前だし、お披露目の夜会もある。まだまだやらなければならないことはいっぱいだ。
今日、明日は引っ越しのため、学科も実技も授業がない。今日一日、国王陛下夫妻へのお礼の口上から始まって、王宮内の使用人棟などに顔を出し、挨拶をして回った。
最初は、遠巻きにしていた使用人や役人もだんだんと打ち解けて、親しく接してくれたのは、エレオノーラにとっては心のよりどころだった。
会えなかったが、フレデリックや護衛の騎士たちの詰め所にも行ってみた。団長さんに挨拶した後、妙にフレンドリーな騎士が親し気に話しかけてきたり、と、なかなか帰れず、結局夕方になってやっと部屋へ戻れたのだった。
入学試験が心配で、一応教本をパラパラめくってみたりする。
(まだ、合格するかわからないけれど、できる限りのことはしなければね)
すると、そこへアンナマリーがやってきた。
「……エレオノーラ、ちょっといい?」
昨日の一件もあり、少し身構えるエレオノーラ。
「どうされたんですか?」
「今日で、最後でしょう?もしよかったら、私の部屋でおしゃべりしない?」
「え?でも……」
今日はもう一度宝物庫へ行くはずだった。アンナマリーの事だからちゃっかり金庫のカギを用意しているだろうと思っていたのだが、何かあったのだろうか。
「あの、金庫は……」
と、言いかけた言葉にかぶせるように、アンナマリーは話す。
「そのことも話したいから、ちょっといらっしゃい」
半ば強引に連れて行かれたアンナマリーの部屋は、夕方だというのにお茶屋お菓子のセットが準備されていた。しかも、珍しいことに床に敷物が敷いてあり、かわいらしい淡い色合いのクッションが色とりどりに並べられていて、どうやら床でお茶会をする気らしい。
「アンナマリー様、これは……」
「私ね、同年代の友達っていないのよ。皆、私を腫物のように扱うし、気軽にお話できる人っていないの。一度、こうやって、お行儀も気にしないで、お話しするのに憧れていたの!」
それを聞いたエレオノーラの瞳は輝いた。
「わ、私も!すごく、嬉しい……」
エレオノーラはアンナマリーとは違い、外に出ることすら難しかった過去がある。同年代の友達をつくるという経験もなければ、発想すらなかった。
いささか浮ついた気持ちで、敷物の上に座る。金の縁取りに薄桃色の陶磁器、そこにはバラと蝶があしらわれていて、うっとりするようなかわいいデザインだ。
「素敵……」
カップを手に取り、うっとりとその装飾をエレオノーラが見つめていると、それを見つけたアンナマリーが言った。
「でしょう?!いつかこんな日が来たら使おうと思って大事にとっておいたの!喜んでくれてうれしいわ」
昨日とは、うってかわって明るいアンナマリーの様子に、ほっと安堵するエレオノーラ。
その時、アンナマリーの何かを狙っているように、目が鋭くなった。
「ところでね、ちょっと聞きたいんだけど……あなた、シルビオ・ヴェルティエとどういう関係?」
アンナマリーは興味津々といた風情で、目を輝かせてエレオノーラの答えを待っている。
「あ……あの……」
何と答えたものか、夫ではあるが離婚する予定で、なんだか縁があるけど、特に夫婦というわけでもない、何から話せばいいのかエレオノーラはすぐに答えることが出来ない。
「もう!じれったいわね!夫だって聞いたわよ、水臭いじゃない、私に言ってくれないなんて!それで?久しぶりに会ったのでしょう?どうだった?」
「どうって……何の感情もありません」
嘘だ、とレオノーラは心の中でつぶやいた。何の感情もないことはない、シルビオへの恋心や裏切られた時の恨み、怒り、捨て置かれた悲しみ、喜怒哀楽のすべてがシルビオの記憶について回る。とても一言で言い表わすことができるものではない。
「またまたぁ、そんなわけないでしょう?あんなに見目が麗しくて、優しい方だもの、何か、あるでしょ?」
どうやらアンナマリーは恋の話がしたくてエレオノーラを呼んだようだ。
「美しいのは見た目だけです。私は、裏切られて、今でも腹が立っていますよ」
「裏切られた?!どういうこと?だって、あなたを探してこの国まで来たのでしょう?なんて素敵なお話、お芝居になるくらいロマンチックじゃない」
「そんないいものじゃありません。まあ、ある意味、お芝居にはなるかも」
「なになに?教えて?教えて!」
少し楽しそうに、アンナマリーはエレオノーラを見つめた。
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