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夜会の帰り
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屋敷へ向かう馬車の中でシルビオの隣に座りたがるのをなんとか押しとどめてようやく出発することが出来た。
「この夜会に来るなど聞いていないぞ。叔父上はご存じなのか?」
シルビオは不機嫌を隠そうともしない。
「いいじゃない、お兄様がいらっしゃるところに私も一緒に行ったって」
さも当然と言わんばかりに答え、余裕の微笑みだ。
「年頃なのだから、誤解をされるようなことは慎め」
小さいころからの付き合いでつい、兄のような小言を言ってしまう。
誤解されたらシルビオだけでなく、女性の方が困るだろう。
「いいの!だって、婚約者じゃない」
彼女の勘違いに、シルビオは大きなため息をついた。
「婚約などした覚えはない」
「小さい頃にお約束したじゃない」
彼女はその約束をたてに、いつもシルビオにわがままを言って困らせていた。
「親同士が話しただけだろう、俺は承諾していないどころか、聞いてもいない」
エレオノーラとの時間を邪魔され、不機嫌を隠し切れないシルビオ。
「私は、お兄様と結婚するつもりでずっといたの、お金のために結婚した奥様ももういらっしゃ
らないのなら、何の問題もないでしょう?」
“お金のため”といたいところを突かれるが、負けずにシルビオも言い返す。
「俺はすでに公爵位をついでいる。お前は、フレンセン侯爵家を継がなければならないんだろう?それなら、だれか婿に入ってくれる男を探すべきだ」
いつまでもシルビオを追いかけずとも、年頃の貴族の子息などいくらでもいるはずだ。
「お兄様が継いでくれたらいいのよ、隣国で公爵でも爵位は与えられるはずよ」
確かに、爵位は問題ないが、シルビオ自身はまったく継ぐつもりはない。
「……俺にはすでに妻がいる」
「行方不明なんでしょう?遺産のおまけ令嬢なんていないも同然じゃない」
ユリアはわざとシルビオが嫌がるよう“遺産のおまけ令嬢”といって、シルビオの心を揺さぶるのだ。
「それでも、俺は離婚する気はない。他をあたってくれ」
「お兄様つれない」
甘ったるい声を出しながら、いつの間にか隣に陣取りしなだれかかるのは、ユリア・フレンセン。フレンセン侯爵家の分家筋の娘だ。シルビオにとっては従妹にあたる。
シルビオが滞在している叔父、フレンセン侯爵には子供がおらず、分家にいるユリアを養女にして侯爵家を継がせようとしているらしい。ユリアが幼い頃には、シルビオも婚約者候補にあがったことがあったが、ローゼンダールの公爵家の跡取りということもあり、すぐに消えた話だった。しかし、ユリアにとってシルビオはお気に入りで、シルビオが留学していた当時も、フレンセン侯爵家によく遊びにきていた。
「俺のことはもういい、嫁き遅れないようにしろよ」
「お兄様が結婚してくれれば嫁き遅れないもの」
自分は当然シルビオと結婚するものだと思い込んでいるようだ。
「しないといっているだろう」
シルビオは昔からはっきり断っているのだが、この従妹にはまったく通じない。
小さいころから、この従妹にまとわりつかれるのがどうにも苦手で逃げ回っていた。蝶よ花よと育てられ、わがまま放題している彼女がかかわると、ろくなことはない。
しかし、シルビオの性格上、困っていたり、弱ったふりをすれば無下にできないというのもユリアはよくわかっていた。それに付け込んで、さんざんシルビオを振り回しているのだ。
今回だってそうだ、シルビオが夜会に行くことをどこかで聞きつけ、勝手にやってきたのだ。そして、一人では帰れない、一緒にいてくれないと心細い、などとシルビオをつき合わせる。シルビオも、ユリアに何かあっては叔父夫妻に申し訳が立たないこともあり、突き放すこともできない。
「そういえば、あの方、一体どなた?」
「誰のことだ」
「テラスでご一緒だった方よ」
「さあ、知らないな」
「うそ、お兄様の上着かけていたじゃない」
「震えていたから貸しただけだ」
「もう、お兄様ってば、お優しいのね」
(そんなわけないじゃない!誰なのか、突き止めないと!)
「……」
不機嫌なシルビオはそれ以降一言も話さない。
(あの時、ユリアが呼ばなければエレオノーラと一緒にいられただろうか)
シルビオは、最後のエレオノーラの心細そうな表情がちらついて仕方なかった。
(別れ際、何か言えたらよかったが……)
エレオノーラの存在がユリアに知られたら、何をするかわかったものじゃない。小さい頃から、シルビオに近づく女性に嫌がらせをするのだ。少々苛烈な性格のユリアは、シルビオの“妻”に何をするかわかったものじゃない。
(できる限り隠し通さなければ)
ただでさえ、不安定なエレオノーラとの関係をそっと守りたいシルビオは、エレオノーラに声を掛けずユリアから守ったつもりだった。
しかも、シルビオにとっては今さらだ。ヴェルティエ家の借金でシルビオが苦しんでいた時、何も助けなかったどころか、親戚でもないとまで言い放ったことがあった。助けてもらえると考えていたシルビオ自身も甘いところがあったとはいえ、日ごろあんなに猫なで声で甘えてきた彼女が豹変したのには驚いた。
権力があり、見目の良いシルビオを連れ歩いて、自慢していたというのに、お金が無くなった途端手のひらを返したように寄り付かなくなった、
(ユリアは俺を支配して優越感に浸りたいだけだ)
「この夜会に来るなど聞いていないぞ。叔父上はご存じなのか?」
シルビオは不機嫌を隠そうともしない。
「いいじゃない、お兄様がいらっしゃるところに私も一緒に行ったって」
さも当然と言わんばかりに答え、余裕の微笑みだ。
「年頃なのだから、誤解をされるようなことは慎め」
小さいころからの付き合いでつい、兄のような小言を言ってしまう。
誤解されたらシルビオだけでなく、女性の方が困るだろう。
「いいの!だって、婚約者じゃない」
彼女の勘違いに、シルビオは大きなため息をついた。
「婚約などした覚えはない」
「小さい頃にお約束したじゃない」
彼女はその約束をたてに、いつもシルビオにわがままを言って困らせていた。
「親同士が話しただけだろう、俺は承諾していないどころか、聞いてもいない」
エレオノーラとの時間を邪魔され、不機嫌を隠し切れないシルビオ。
「私は、お兄様と結婚するつもりでずっといたの、お金のために結婚した奥様ももういらっしゃ
らないのなら、何の問題もないでしょう?」
“お金のため”といたいところを突かれるが、負けずにシルビオも言い返す。
「俺はすでに公爵位をついでいる。お前は、フレンセン侯爵家を継がなければならないんだろう?それなら、だれか婿に入ってくれる男を探すべきだ」
いつまでもシルビオを追いかけずとも、年頃の貴族の子息などいくらでもいるはずだ。
「お兄様が継いでくれたらいいのよ、隣国で公爵でも爵位は与えられるはずよ」
確かに、爵位は問題ないが、シルビオ自身はまったく継ぐつもりはない。
「……俺にはすでに妻がいる」
「行方不明なんでしょう?遺産のおまけ令嬢なんていないも同然じゃない」
ユリアはわざとシルビオが嫌がるよう“遺産のおまけ令嬢”といって、シルビオの心を揺さぶるのだ。
「それでも、俺は離婚する気はない。他をあたってくれ」
「お兄様つれない」
甘ったるい声を出しながら、いつの間にか隣に陣取りしなだれかかるのは、ユリア・フレンセン。フレンセン侯爵家の分家筋の娘だ。シルビオにとっては従妹にあたる。
シルビオが滞在している叔父、フレンセン侯爵には子供がおらず、分家にいるユリアを養女にして侯爵家を継がせようとしているらしい。ユリアが幼い頃には、シルビオも婚約者候補にあがったことがあったが、ローゼンダールの公爵家の跡取りということもあり、すぐに消えた話だった。しかし、ユリアにとってシルビオはお気に入りで、シルビオが留学していた当時も、フレンセン侯爵家によく遊びにきていた。
「俺のことはもういい、嫁き遅れないようにしろよ」
「お兄様が結婚してくれれば嫁き遅れないもの」
自分は当然シルビオと結婚するものだと思い込んでいるようだ。
「しないといっているだろう」
シルビオは昔からはっきり断っているのだが、この従妹にはまったく通じない。
小さいころから、この従妹にまとわりつかれるのがどうにも苦手で逃げ回っていた。蝶よ花よと育てられ、わがまま放題している彼女がかかわると、ろくなことはない。
しかし、シルビオの性格上、困っていたり、弱ったふりをすれば無下にできないというのもユリアはよくわかっていた。それに付け込んで、さんざんシルビオを振り回しているのだ。
今回だってそうだ、シルビオが夜会に行くことをどこかで聞きつけ、勝手にやってきたのだ。そして、一人では帰れない、一緒にいてくれないと心細い、などとシルビオをつき合わせる。シルビオも、ユリアに何かあっては叔父夫妻に申し訳が立たないこともあり、突き放すこともできない。
「そういえば、あの方、一体どなた?」
「誰のことだ」
「テラスでご一緒だった方よ」
「さあ、知らないな」
「うそ、お兄様の上着かけていたじゃない」
「震えていたから貸しただけだ」
「もう、お兄様ってば、お優しいのね」
(そんなわけないじゃない!誰なのか、突き止めないと!)
「……」
不機嫌なシルビオはそれ以降一言も話さない。
(あの時、ユリアが呼ばなければエレオノーラと一緒にいられただろうか)
シルビオは、最後のエレオノーラの心細そうな表情がちらついて仕方なかった。
(別れ際、何か言えたらよかったが……)
エレオノーラの存在がユリアに知られたら、何をするかわかったものじゃない。小さい頃から、シルビオに近づく女性に嫌がらせをするのだ。少々苛烈な性格のユリアは、シルビオの“妻”に何をするかわかったものじゃない。
(できる限り隠し通さなければ)
ただでさえ、不安定なエレオノーラとの関係をそっと守りたいシルビオは、エレオノーラに声を掛けずユリアから守ったつもりだった。
しかも、シルビオにとっては今さらだ。ヴェルティエ家の借金でシルビオが苦しんでいた時、何も助けなかったどころか、親戚でもないとまで言い放ったことがあった。助けてもらえると考えていたシルビオ自身も甘いところがあったとはいえ、日ごろあんなに猫なで声で甘えてきた彼女が豹変したのには驚いた。
権力があり、見目の良いシルビオを連れ歩いて、自慢していたというのに、お金が無くなった途端手のひらを返したように寄り付かなくなった、
(ユリアは俺を支配して優越感に浸りたいだけだ)
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