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第5章 再会せぬままの想いと未来
第2話:誓いの先に
しおりを挟む「……話して。私は、聞く覚悟があるわ」
アスタナの声は、焚き火のように穏やかで、けれど芯が強かった。
レオンは彼女の目を見て、手にした文書をそっと見せた。
王都発――和平協定案草稿。
署名欄には、ヴァレンティア帝国の代表、そしてアルトリアの証人として空白が残されていた。
「本国は、俺をまだ“使える駒”として見ているらしい。
和平の象徴にすることで、俺の罪を帳消しにしようと考えている。
名誉と引き換えに、責任を背負えという意味だ」
「それは……あなたの命が、ようやく報われるということじゃないの?」
「そう思ってもいいかもしれない。
でも――それは、“お前を巻き込まなければ”の話だ」
レオンの声は低く、苦く沈んでいた。
彼はようやく手にした平穏を、自ら手放さねばならない葛藤の中にいた。
アスタナは文書に目を通し、それからレオンをまっすぐ見つめた。
「……私は、あなたと逃げるために城を出たわけじゃない」
「……え?」
「“誰かの罪から目をそらす”ためじゃなく、“誰かと未来を選ぶ”ために、あなたの手を取ったの。
だから、もしあなたが何かを変えようとしてるなら――私はあなたの隣で、それを選びたい」
レオンの胸の奥に、何かが強く波打った。
(彼女は、いまだに“王女”の誇りを捨てていない。
でもそれは、誰かを導くためじゃない。
隣に立つ者として、同じ歩幅で進むための誇りなんだ)
「……アスタナ。
この道を選べば、また命を狙われるかもしれない。
この村を出た瞬間、再び“追われる者”になる」
「知ってる。でも今は、ひとりじゃない。
あなたが隣にいてくれるなら、私は――前に進める」
彼女の瞳には、迷いがなかった。
もう、逃げるためではない。
過去を終わらせ、未来に手を伸ばすために、再び歩き出す。
レオンは手を伸ばし、彼女の手を包み込む。
「俺も、選びたい。
“罪を裁かれるため”じゃなく、“赦しを証明するため”に、この命を使いたい」
その言葉は、かつてスパイだった男の口から出たものとは思えないほど、まっすぐだった。
そしてその夜。
ふたりは再び、荷をまとめた。
目指すは王都――
だが、以前のように“逃げて戻る”のではない。
今度は、“ふたりで向かう”。
過去を背負い、未来を選びに。
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