その声だけ、まっすぐ届いた

しっくん

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第一章:転校生は風変わり?

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四月の風は、まだ少しだけ冷たい。


教室のドアが静かに開いて、担任の先生がひとりの女の子を連れて入ってきた。

セミロングの髪を素直に下ろし、淡いグレーのカーディガンに包まれた彼女は、どこか眠たげな目をしていた。



「今日からこのクラスに転入してくる日向美結(ひなた みゆ)さんだ。転校は緊張するだろうけど、みんな仲良く

してあげてくれな」



「……日向美結です。よろしくお願いします」


静かで、淡々とした声だった。

お辞儀をしても、表情はほとんど変わらない。けれどなぜか、その雰囲気に教室中が一瞬しんとした。



「席は……桐ヶ谷の隣だな」


どっとざわめきが起きた。


「まじで?」「あの席って――」「やば、最前列の王子様の隣じゃん!」



ひそひそと囁かれる声の主は、もちろん“桐ヶ谷蒼(きりがや あおい)”。

学年でも一、二を争うほどの人気者。

爽やかな笑顔と人懐っこい性格で、男女問わず好かれている。



「よろしくね、日向さん。なんか話し方、落ち着いてていいね」


当の本人はそんな周囲の空気にも気づいていないように、にこっと笑った。

日向は一瞬きょとんとした後、少しだけ首をかしげて言った。



「……そう? よく“つかみどころがない”って言われるけど」


「そこがいいんじゃない?」


蒼のさらっとした返しに、クラスの何人かがどよめいた。

だけど日向は気にした様子もなく、ふわりと笑って席に着いた。


──この日から、“ちょっと変わった転校生”と“完璧な人気者”の、奇妙な距離感が始まった。








休み時間になっても、日向は誰とも喋ろうとせずにバッグから文庫本を取り出した。

机に突っ伏して寝ている生徒もいれば、スマホを見ながら笑っているグループもいる中で、彼女だけは本の中にす

っと入っていった。


それを、数列後ろの席から見つめていたのが――佐伯涼真(さえき りょうま)だった。


彼は無口で、あまり人と関わらないタイプ。けれど本が好きで、図書委員をしている。

誰よりも静かに、誰よりも真剣に、日向という少女を見ていた。


けれどその視線には、彼女はまだ気づいていない。


──彼女のまわりでは、少しずつ静かな感情が動き出していた。


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