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1.たとえそれが、、、③
しおりを挟む少しだけ躊躇い、思い切って上着を脱ぐ。
見られて恥ずかしいようなだらしのない体ではないが、それでも、鍛え上げられたラキティスたち騎士とは違い、ただただ生っひょろい体があるだけだ。
さすがに、今までにも肌の手入れやらはしてきたから、見るに耐えないとは言えない。
それでも、ラキティスに……そういう意味で意識する相手に見られるのは、かなり羞恥を伴う。
お互い不本意とはいえ、一度体を合わせているとしてもそれは変わらない。
それに、今は………
部屋に備え付けのソファに、ラキティスへと背を向け座る。
ハァ~ッ、と、背後から重苦しい溜め息が聞こえた。
「こんなものをつけられて……そこまでして、あの屋敷へ行く必要があったのか?」
心底呆れたとばかりな言葉に、キュッと唇を噛みしめる。
ラキティスへ向けた背中。無数の打たれた痕がある。
ジクジクとした熱を伴う痛みは続いていて、見なくても酷い有り様なのは分かっていた。
頬同様、やったのは父親であるあの人だ。
あの屋敷で育っている時からそう。こんなのは日常茶飯事で、母親が亡くなってから、あの人が僕に手を上げる頻度は増した。
レズモント宰相の侍従を辞することが決まり、あの屋敷からも出た時点で減ってはいたが、久しぶりに屋敷へ戻らないとならない事もあり戻ったらこれだ。
「仕方ないでしょう?母様……母親の命日だったんです」
「それでも……………………直接顔を合わせなくても、もっとやりようがあるだろうが!」
怒ったように言われるが、さすがにそれは難しいとラキティス自身も感じてるらしい、頭ごなしには言わない。
「無理です………あの人は当主で父親ですよ?僕は……半ば無理矢理離れたとはいえ、息子なのは変わらない。直に顔を伺い、挨拶はしなきゃならない」
僕を上手く使い、上にのし上がる。その為には宰相様に取り入っている必要があった。あの人の思惑は外れ、僕が侍従を辞し、宰相様の敵(こう言うと少し語弊有り)皇太子グレインバルド様側の魔道士長、ファンガス様の侍従になったのが心底気に食わないらしい。
それに、宰相様自身からも何か圧をかけられたのか、不本意にも従わざるを得なくて、それもあの人の怒りの火に油を注いでいる。
虫の居所が悪かったのか、今日はいつにも増して癇癪が酷かったが……
「薬つけるから触るぞ?痛かったら言え」
「………、、」
ひんやりしたものが触れ、一瞬、肌がピクと震えた。
指先に付けられた薬の冷たさはすぐに消え、代わりにラキティスの手の熱を感じた肌が火照りだす。
羞恥と僅かな呆れに唇を噛んで俯く。
節操なし。
胸の内で自分自身を罵る。
ただ薬を塗ってもらい治療してもらっているだけ。
ラキティスには特別、何か思いがあるはずもない。
それなのに……
「一応、後でもう一回冷やしとけよ?痛み止めあるなら飲んでおけ」
飲みに行こうとしてあなたに拉致されたんですけど?とは思ったが、敢えて口にはしなかった。
さすがにそれを言えば、ただただ可愛くないやつだ。
強引ではあっても、結果的にラキティス以外の者にこれを知られる事はなくなったし、心配をかける事もない。
できれば、ラキティスにも知られたくはなかったが……
「…………して」
「うん?」
「どうして……僕が」
薬を塗り終えた指が離れていく。背中に、肌に感じていた熱が引いていき、ほんの少し寂しさを感じた時には、小さな問いかけの言葉が口から出ていた。
「怪我を負って帰ってくるのを知ってるのか、か?」
ラキティスの言葉には返せない。
実家に帰る事は一部の親しい者しか知らないはず。
その者たちの中に、ラキティスは含まれてない。含めなかった。
含められるはずがない………
僕の無言をどう思っているのか、背を向けたままでは、ラキティスの感情は伺えない。
「前にもあったんだろ?」
「え………………?」
前?
何の事だろうかと考えてから、思い当たったそれに合点がいき、思わず小さく自嘲した。
やっぱりね……ラキティス自身が僕を心配したわけじゃない。
「アヤに……聞いたんですか?」
「………………また、何かあるかもしれんから、見てやれってな」
返された想定の言葉に、胸の奥がツキリと痛む。
馬鹿だ。
そんなわけないのに、心の隅で僅か期待して……違ったからって、勝手にキズついてる。
「すみません……お手を煩わせて」
「別に……手間とは思って」
坦々としたラキティスの応えを遮るかのように、突然、部屋の扉が慌ただしく開かれた。
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