11 / 13
2.手に入るであろうものを捨て去ることになったとしても……⑥
しおりを挟む「どうぞ、お座り下さい」
招かれた城の貴賓室は豪奢だが、華美ではなく品の良い調度品で飾られている。
すごい。初めて入った……
元々貴族とはいえ下級も下級な家柄で、奉公しなければ食い繋ぐ事も難しい身だったのだ。国や他国の要人が出入りするこんな特区には入る事さえ許されていなかったし、宰相様の侍従に取り立てられてからは機会はあっても、他国のお偉方に取り入るより、自国で這い上がる事に躍起になっていた事もありまったく興味がなかったのが事実。
座る事を勧められたソファは見るからに座り心地が良さそうだ。
他国の使者の部屋のソファに、侍従の身で軽々しく座れるものじゃない。
しかも、ナヴィラスはまだ立ったままだ。
僕の困惑と躊躇いを知らず、再度、ナヴィラスに勧められた。
「今、お茶を淹れます」
「あ、の!それ、より、お話というのは」
「クレイドルの花実の茶は香り高いですね。サラタータではこれほどまでの品質にはならない。やはり、気候のせいでしょうか」
使者の部屋へ招かれるのも恐れ多い事なのに、この上、お茶までなんてとんでもない!
多少、強引にも思ったが会話を遮ったのに、相手はまったく意に介せず話を続ける。
僕の中で、ナヴィラスに対する警戒心が増す。
「ナヴィラス様……ぼ、、私は、お茶をいただきに来たのでは……」
「まずは落ち着き、座って飲みつつ話しましょう。立ったまま話すなど無作法です」
ふんわりと笑んだまま告げられる。
再度、口を開きかけ諦めて閉じた。
恐らく、ナヴィラスは僕の言う事は聞くつもりがない。
このまま居ても、何も進まないのは分かりきった事で、やや、緊張しつつ勧められるままに渋々ソファへと座る。
「どうぞ」
差し出され、目の前のカップから、ふわりと甘く柔らかな香りが漂うが手を出す気にはならない。
話を目で促すが、当の本人は優雅にカップに口をつけ、ゆったりとお茶を飲んでる始末だ。
「あ、の、、」
「サラタータをご存知ですか?」
「え……?」
突如の言葉に、咄嗟に何も出ない。
少し伏し目がち、柔らかな笑みを浮かべたまま、カップに口付けるナヴィラスからは真意が伺えない。
「サラタータは女神の炎の魔導を象と冠す国……」
「その通りですよ。強きが統治し、弱きは淘汰される。女神の魔道に他の魔道を戴く国より強く拘りと誇りを持っている。それが、サラタータです」
カップを離し、ゆったりとした仕種でこちらを見据え、ナヴィラスが優雅に脚を組む。
眼鏡の奥から見る瞳を認めて、瞬間、ざわりと背が泡立つのを感じた。
口許にはやんわりと笑みを浮かべている。
でも……
目が、笑ってない……………
無意識にコクリと喉が鳴る。
「あな、たは……僕に何を」
「思ったより聡いようだ、助かります。あなたには頼みがあります」
「た、、、のみ?」
緊張で口の中がカラカラに乾いていく。
「ええ。あなたにしかできない。と言うより、あなたには何がどうあってもやってもらわねばならない」
「それ、が……ラキティス様、、、に関するという話ですか?」
ラキティスの名を出した瞬間、ナヴィラスの瞳が一瞬、僕を不快なものを見る光を浮かべて消える。
すぐに柔和な表情に戻り、ニッコリと微笑みかけられるが、警戒が振り切れた今は、ナヴィラスに対して内心穏やかでは居られない。
勿体つけるように組んだ脚を組み替え、ナヴィラスが口を開いた。
「サラタータとラキティス公子の為、あなたには………………………ーーーーーーーーーーーーーー死んでいただきたい」
0
あなたにおすすめの小説
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
お兄ちゃんができた!!
くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。
お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。
「悠くんはえらい子だね。」
「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」
「ふふ、かわいいね。」
律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡
「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」
ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる