暗殺任務失敗したのが組織にバレて、処女なのにハニトラさせられることになりました。密かに思ってた先輩がHの指導役とか聞いてません!

甘酒ぬぬ

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第1章 指導編 初日

1-2 私が、先輩? 先輩が私?

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「……なんですかその加齢臭漂うしょうもないダジャレは」

 リヤーナは空気を読まずにつっこんだ。真面目な話をしている最中に「殺す」と「転がす」を掛けるのはお粗末が過ぎる。

「ボスがそう言ってたんだ! 文句なら直接ボスに言え!」

 顔を赤くしたフォウは飛びのくようにリヤーナから離れ、おぼつかない手つきで煙草を取り出した。火をつけるの三度失敗し、やっとついたかと思えば煙を吸い込みすぎてゴホゴホとむせる。

「そんなに動揺しなくても。お水持って来ましょうか」

 さすがに申し訳なくなったリヤーナは席を立つ。

「いい、大丈夫だ。ありがとう」

 フォウはいがらっぽい咳をしながら手振りでリヤーナを制止した。

「挽回のためにお前に課せられたのは、バクラム伯の篭絡だ。架空の経歴カバーストーリーを作るため、任務開始まではひと月の猶予がある。その間、俺が指導役としてつくことになった」

 改めて任務内容を告げると、フォウはゆっくりと煙を吸い込んだ。煙草の先端がかすかに爆ぜて赤く発光する。

(篭絡する、だけ?)

 先の任務で失態を演じた罰だ、と聞かされていたリヤーナは肩透かしを食らった気分になる。僻地へきちに送られ、寝る間もないほど過酷な任務をさせられるのだと思っていた。

(でも色仕掛けなんてどうやってやるの? さっきの動画みたいなこと? あんなことを私がやるの? 私が?)

 見知らぬ男の上に全裸でまたがる自分の姿を想像してしまい、リヤーナは急速に血がのぼるのがわかった。ずきずきと頭が痛む。

「……先輩、その、質問というか、相談なんですが」

 リヤーナは左手でこめかみを押さえ、右手を控えめに挙げた。

「なんだ?」
「本当は死ぬほど言いたくないんですけど、このままだと任務にとてつもなく支障があるのでお伝えするんですが……」

 続く言葉をなかなか発することができず、リヤーナは手のひらを擦り合わせたり組んだりしてしまう。

 ちらりとフォウの方を窺うと、人差し指で軽く煙草を叩き、灰皿に灰を落としてた。
 なんてことない動きなのに、つぶさに見入ってしまう。全体的に節の目立たない女性的でしなやかな指だが、手首は骨っぽくしっかりとしている。

「リィ?」

 フォウが顔を上げ、促すように名前を呼んだ。

「あっ、ごめんなさい……えっと、私……その手の経験が、あまりなくて……いや、あまりっていうか、ほとんどっていうか、全然っていうか……」
「知ってる」

 フォウは事もなさげに紫煙を細長く吐き出した。

「なんで知ってるんですか!?」

 リヤーナは自分の身体を掻き抱く。
 恥を忍んで伝えたことが一蹴されたうえに、すでに筒抜けだった。軽い怒りすら覚える。

「別にお前のプライベートを覗き見たわけじゃねえよ。お前みたいな間の抜けたやつに男作ってる余裕なんてないだろ」

 ほぼ100%フォウの言った通りであるため、リヤーナに反論の余地はなかった。しかし事実とはいえ腹は立つ。

「じゃあ、とても仕事のできる先輩にはいくらでも女を作ってる余裕があるんですね」

 可愛げのない自分に嫌気が差しつつ、リヤーナは嫌味をぶつけた。

 なんとか生き残ってはいるもののうだつの上がらない自分とは違い、フォウは組織内でも指折りの暗殺者だ。変装を得意とし、老若男女問わず姿を変えられるため標的を問わない。

「トゲのある言い方すんなって」
「否定しないんですね」
「上から慣らせって言われてるんだから仕方ないだろ。暗殺者がハニトラに引っかかったら目も当てられない」

 フォウは前髪を掻きあげ、視線を逸らした。

 言外に意味するところを感じ取ってしまい、リヤーナは胸のあたりがもやもやとする。
 あんなこと言わなければよかった。感情を言葉や顔にすぐ出してしまうなんて、子供っぽいと思われても仕方ない。

「私はそんなの言われたことないです」

 リヤーナは拗ねたような言い方をしてしまった。
 頭でわかっていても、態度はなかなか改められない。

「童貞に利用価値はほぼないが、女はそうじゃないってこった」
「はぁ」
「ま、経験の有無は気にすんな。言ったろ、俺が指導役だって。ちゃんとひと月で仕上げてやるよ」

 フォウは不自然に明るく言い、親指で自分を指し示した。

「しどう、しあげる……?」

 リヤーナは噛んで含めるように一文字一文字しっかりと発音する。何か薄い膜のようなものが邪魔をして、フォウの発言の意味をうまく理解できなかった。

 しかし、突如として天啓のごとくリヤーナの脳裏にある映像が浮かぶ。
 水晶パネルに映っていた動画だ。見知らぬ男女だったものが、フォウとリヤーナにすり替わる。

「は……えっ……私、先輩、先輩と私が、私が、先輩? 先輩が私?」

 じんじんと腫れあがったように頬が熱くなった。リヤーナはたまらず手のひらを押し付ける。冷たかったのは一瞬で、あっという間に手にも熱が移ってしまう。

「何言ってんだ。大丈夫か?」

 フォウはいぶかしげな顔をし、リヤーナの目の前で手を振った。

(早く答えないと、変なところだけ勘の良い先輩に悟られる)

 とリヤーナは思えど、口も舌も上手くまわらない。音にならなかった言葉で唇がわなわなと震える。

 せいぜい妹くらいにしか見られていなかった自分が、フォウと触れ合えるのは正直なところ嬉しい。フォウにとってあくまでも仕事としての行為であり、そこになんの感情もなかったとしても。

 だが準備期間が終われば、任務のためにバクラム伯のもとに赴かなければならない。身も蓋もない言い方をすれば抱かれに行くのだ。

(どうして指導役なんて引き受けたんですか? どんな気持ちで他の男のところに送り出すんですか? 先輩にとって、ただの仕事の一つに過ぎませんか……?)

 リヤーナの視界が滲んだ。鼻の奥がつんと痛む。涙が出るのは熱に由来するものだと思いたかった。
 僻地での重労働のほうがまだマシだったかもしれない。リヤーナの気持ちを知ったうえでこんな任務を課すなんて最低な組織だ。罰として充分すぎる。

「リィ! 本当にどうした? 具合悪いのか?」

 異変を察したフォウはリヤーナの額に手を当てた。触診をするように首や顎下にも触れる。

 リヤーナは嗚咽おえつを飲み込み、首を横に振る。これ以上情けないところを見られないように、フォウの胸に顔をうずめた。
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