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第3章 指導編 最終日
3-9 ウサギの爪と牙 ★
リヤーナはネグリジェの肩口を引っ張り、胸元が見えるくらいまでずり下ろした。躊躇いがちにフォウに視線を送る。
こんな時だけ察し良く、フォウは続きを引き受けた。露わになったリヤーナの肌に唇を落としながら、遅滞なくネグリジェを脱がせる。
(誘えるのに好きは言えないなんて、本当にもう……)
リヤーナは唇を噛みしめ、腕で胸元を隠した。
「良くない癖だな。唇の形が悪くなる」
フォウは指でリヤーナの唇を押し開いた。凹凸をならすように、唇の上で指を左右に滑らせる。
「……っ、明日から、直します」
自分でも嫌になるくらい可愛げなく答え、リヤーナはフォウの指に噛みついた。比喩ではなく、本当に噛みついた。
かつっと前歯がフォウの爪に当たった。下の歯は指の腹に浅く食い込み、フォウの指の感触をリヤーナに伝えてくる。
「今日のウサギは気性が荒いな」
フォウは噛まれた指を舐め、胸を隠すリヤーナの腕をつかんだ。ベッドに押さえつけ、身体を開かせる。胸の下側を支えるように撫で、胸の谷間に沿って唇を押し当てた。
言動こそいつもの意地悪なフォウだが、手や唇がわずかに震えている。
特に、ベッドに押さえつけているほうの手が顕著だった。急にぐっと力が入ったかと思えば、簡単に振り払えそうなほど緩んだりする。
(フォウ先輩が何考えてるのか、全然わかんない。私が、嫌じゃないって言ったことや、全部忘れたいってお願いしたことに、どうして触れてくれないの。いっそ、『先輩を困らせようとしただけなんです』って、笑って冗談にしたほうがいいですか)
リヤーナは頭の中がぐちゃぐちゃになりながらも、息が段々と上がっていくのを感じた。
フォウの手が下着の留め具を外し、じかに敏感な肌に触れる。
表面をさらりと撫でるくらいの弱さだった。以前までの、欲望をぶつけたり、劣情を掻き立てるような強さはない。良く言えば優しい、悪く言えばじれったくて煮え切らない、ちょど今のフォウのような愛撫だった。
それでも、リヤーナの体温は上がり、鼓動が速まり、呼吸は荒くなる。
好きな相手に触れられている、というただ一点がリヤーナを感じさせた。
「先輩も……脱いでください。いつも言ってるじゃないですか、私だけじゃ恥ずかしいって」
リヤーナはフォウの愛撫を遮るようにシャツに手を伸ばした。おぼつかない手つきでボタンを外していく。前をはだけさせ、服の下に腕を潜り込ませて抱きついた。フォウの裸の胸にぴったりと耳を当てる。
とくんとくんと刻む鼓動は、自分のものと同じくらいに速かった。フォウの体温で耳が熱くなる。
フォウは苦しげに息を吐き、リヤーナのウエストから太腿までの曲線を撫で下ろした。足の間に膝を割り入れ、じりじりと開かせる。
「はぁ……っ……ぁっ!」
押し殺しきれなかった嬌声がリヤーナの唇からあふれた。背中が反れて腰が浮き、きゅっと下腹部に力が入る。身体は勝手だ。
「爪を立てても引っ掻いても、噛みついてくれてもいい」
フォウはリヤーナの腕を自分の身体にしがみつかせ、ゆっくりと腰を進めた。
「フォウ……せん、ぱい……っ」
先端が触れただけで、リヤーナの全身に甘い痺れが走る。胸が苦しくて呼吸ができない。
いつものようにじっくりと時間をかけてほぐされたわけでもないのに、身体はフォウを受け入れるようになっていた。
もっとフォウの熱が欲しい。もっと奥深くまで繋がりたい。他の誰でもなくフォウが良い――そう身体が叫んでいる。
それなのに、フォウは最初の夜以上に時間をかけ、リヤーナに身体を重ねた。リヤーナの髪をくしけずり、頬を撫で、何かを言いかけては飲み込む。
「わ、わたし……やっぱり、フォウ先輩、が……」
身体の熱さに浮かされ、リヤーナの口が思いを吐き出そうとたどたどしく動く。
決定的な部分が音になる前に、フォウの唇が被さった。柔らかく舌が擦れ合う。
明確に遮られた。
二度続けば、さすがにリヤーナも気付く。
フォウは、思いを形にすることを望んでいない。
(これ以上は、ただ伝えるだけでもダメなんですか……)
目蓋の奥がちりちりと痛む。
視界が滲み始め、リヤーナは堪えるようにまばたきをした。
色んなものを通り越し、リヤーナは腹立たしくなってきた。
「キスは言葉を封じるためにするものじゃないですよ」と言い返してやりたい。
引っ掻いたり噛みついて、消えない跡をフォウの身体に残してやりたい。
でももう、何も言えない。引っ掻いたり噛んだりできるほど、爪も牙も鋭くない。フォウの無責任な優しさで、ぼろぼろに溶かされてしまっている。
「忘れるための夜、なんだろう。だったら、今夜の言葉は全部ここに置き去りにされるだけだ」
低く染み入るような声で、フォウが呟いた。
リヤーナに向かって言っているのか、自分に対して言っているのか。どちらともつかない。
動くぞ、と短く前置きをしてから、フォウはリヤーナの腰を抱え込んだ。
ぎゅうっとリヤーナの胸が締め付けられる。心理的な痛みだったのか、物理的な痛みだったのかはよくわからない。そのまま潰れて呼吸ができなくなればいいと思った。
それ以降のことはあまり覚えていない。
ボディオイルの花の香りと、フォウの温かさに包まれて目蓋を閉じたことだけはぼんやりと頭の隅に残っている。
こんな時だけ察し良く、フォウは続きを引き受けた。露わになったリヤーナの肌に唇を落としながら、遅滞なくネグリジェを脱がせる。
(誘えるのに好きは言えないなんて、本当にもう……)
リヤーナは唇を噛みしめ、腕で胸元を隠した。
「良くない癖だな。唇の形が悪くなる」
フォウは指でリヤーナの唇を押し開いた。凹凸をならすように、唇の上で指を左右に滑らせる。
「……っ、明日から、直します」
自分でも嫌になるくらい可愛げなく答え、リヤーナはフォウの指に噛みついた。比喩ではなく、本当に噛みついた。
かつっと前歯がフォウの爪に当たった。下の歯は指の腹に浅く食い込み、フォウの指の感触をリヤーナに伝えてくる。
「今日のウサギは気性が荒いな」
フォウは噛まれた指を舐め、胸を隠すリヤーナの腕をつかんだ。ベッドに押さえつけ、身体を開かせる。胸の下側を支えるように撫で、胸の谷間に沿って唇を押し当てた。
言動こそいつもの意地悪なフォウだが、手や唇がわずかに震えている。
特に、ベッドに押さえつけているほうの手が顕著だった。急にぐっと力が入ったかと思えば、簡単に振り払えそうなほど緩んだりする。
(フォウ先輩が何考えてるのか、全然わかんない。私が、嫌じゃないって言ったことや、全部忘れたいってお願いしたことに、どうして触れてくれないの。いっそ、『先輩を困らせようとしただけなんです』って、笑って冗談にしたほうがいいですか)
リヤーナは頭の中がぐちゃぐちゃになりながらも、息が段々と上がっていくのを感じた。
フォウの手が下着の留め具を外し、じかに敏感な肌に触れる。
表面をさらりと撫でるくらいの弱さだった。以前までの、欲望をぶつけたり、劣情を掻き立てるような強さはない。良く言えば優しい、悪く言えばじれったくて煮え切らない、ちょど今のフォウのような愛撫だった。
それでも、リヤーナの体温は上がり、鼓動が速まり、呼吸は荒くなる。
好きな相手に触れられている、というただ一点がリヤーナを感じさせた。
「先輩も……脱いでください。いつも言ってるじゃないですか、私だけじゃ恥ずかしいって」
リヤーナはフォウの愛撫を遮るようにシャツに手を伸ばした。おぼつかない手つきでボタンを外していく。前をはだけさせ、服の下に腕を潜り込ませて抱きついた。フォウの裸の胸にぴったりと耳を当てる。
とくんとくんと刻む鼓動は、自分のものと同じくらいに速かった。フォウの体温で耳が熱くなる。
フォウは苦しげに息を吐き、リヤーナのウエストから太腿までの曲線を撫で下ろした。足の間に膝を割り入れ、じりじりと開かせる。
「はぁ……っ……ぁっ!」
押し殺しきれなかった嬌声がリヤーナの唇からあふれた。背中が反れて腰が浮き、きゅっと下腹部に力が入る。身体は勝手だ。
「爪を立てても引っ掻いても、噛みついてくれてもいい」
フォウはリヤーナの腕を自分の身体にしがみつかせ、ゆっくりと腰を進めた。
「フォウ……せん、ぱい……っ」
先端が触れただけで、リヤーナの全身に甘い痺れが走る。胸が苦しくて呼吸ができない。
いつものようにじっくりと時間をかけてほぐされたわけでもないのに、身体はフォウを受け入れるようになっていた。
もっとフォウの熱が欲しい。もっと奥深くまで繋がりたい。他の誰でもなくフォウが良い――そう身体が叫んでいる。
それなのに、フォウは最初の夜以上に時間をかけ、リヤーナに身体を重ねた。リヤーナの髪をくしけずり、頬を撫で、何かを言いかけては飲み込む。
「わ、わたし……やっぱり、フォウ先輩、が……」
身体の熱さに浮かされ、リヤーナの口が思いを吐き出そうとたどたどしく動く。
決定的な部分が音になる前に、フォウの唇が被さった。柔らかく舌が擦れ合う。
明確に遮られた。
二度続けば、さすがにリヤーナも気付く。
フォウは、思いを形にすることを望んでいない。
(これ以上は、ただ伝えるだけでもダメなんですか……)
目蓋の奥がちりちりと痛む。
視界が滲み始め、リヤーナは堪えるようにまばたきをした。
色んなものを通り越し、リヤーナは腹立たしくなってきた。
「キスは言葉を封じるためにするものじゃないですよ」と言い返してやりたい。
引っ掻いたり噛みついて、消えない跡をフォウの身体に残してやりたい。
でももう、何も言えない。引っ掻いたり噛んだりできるほど、爪も牙も鋭くない。フォウの無責任な優しさで、ぼろぼろに溶かされてしまっている。
「忘れるための夜、なんだろう。だったら、今夜の言葉は全部ここに置き去りにされるだけだ」
低く染み入るような声で、フォウが呟いた。
リヤーナに向かって言っているのか、自分に対して言っているのか。どちらともつかない。
動くぞ、と短く前置きをしてから、フォウはリヤーナの腰を抱え込んだ。
ぎゅうっとリヤーナの胸が締め付けられる。心理的な痛みだったのか、物理的な痛みだったのかはよくわからない。そのまま潰れて呼吸ができなくなればいいと思った。
それ以降のことはあまり覚えていない。
ボディオイルの花の香りと、フォウの温かさに包まれて目蓋を閉じたことだけはぼんやりと頭の隅に残っている。
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