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紫苑の章
EX 王の抜け殻は香に溺れて4
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「昨晩は調子に乗ってしまい大変申し訳ありませんでした!」
カイラシュは額を床に擦りつけて土下座する。今日はいつものように髪を結い上げておらず、肩のあたりで束ねて流しているだけだった。
サヴィトリは今日限定の蝶豆とライムを使った青紫色のアイスフルーツティーを飲みながら店内を見回す。VIP用の個室であるため、サヴィトリとカイラシュの他に人はいない。即位奉告の儀に合わせて催されている祭りにちなんで色とりどりのランタンで飾り付けられている。なぜランタンなのかは忘れてしまった。
手はず通り霊廟を抜け出したサヴィトリは、商業区のはずれにある「三日月亭」という飲食店に来ていた。老舗ホテルの系列店らしい。防音対策がされた個室があり、高官や貴族にも重用されている店だとカイラシュが教えてくれた。
「いいよ、別に」
サヴィトリはそっけなく言い、三段ケーキスタンドからサンドイッチを取る。寝坊をしてしまったため朝食を食べそこなってしまった。
全身がけだるく、疲労が残っている。まだ中が少しひりひりと擦れた感じがあった。無理をしたというかさせられたというか、サヴィトリとしては昨日のことは恥ずかしすぎてあまり思い出したくない。途中で記憶が飛んでしまっているため覚えていない部分もあるが。
「本当に良いのですか!」
カイラシュは顔をあげ、ぱっと表情を明るくする。化粧の施されていない顔は男性的で印象が全く違う。
「じゃあ昨日のアレの手前くらいまでなら日常的に大丈夫ってことですね!」
「カイ、もう一回摩擦熱で焦げるくらい床に頭擦りつけて」
「……なんだかんだサヴィトリ様も結構乗り気だったじゃないですか」
「今すぐ額づけカイラシュ」
「……はーい」
就業時間内であるため、カイラシュは素直に応じる。あからさまに不満そうだったが。
「今日は何時まで自由にしてていいの?」
「明日の朝までに正装で霊廟の中にいればいいので、それに間に合うくらいですね」
「本当にがばいスケジュールなんだね。城下では何かお祭りをやっているんでしょう。カイ、案内してもらえる?」
「サヴィトリ様がそう仰られると思い、不肖カイラシュ、各種イベントのタイムジュールや限定グルメ、絶景スポットに厳選散策コース、押さえておきたいアクティビティ、祭りを締めくくるにふさわしいファビュラスでヘブンリーな宿泊施設まで網羅したあらゆる楽しみ方をまとめたガイドブックを作成してまいりました!」
「うん。平常運転みたいで安心した」
サヴィトリはカイラシュの腕をつかんで立ち上がらせた。立たせる前にやればよかったなと思いながら、背伸びをしてテーブルナプキンでカイラシュの額をふく。
「それじゃあ行こう、カイ。早くしないとガイドブックの中身全部まわれないでしょう?」
「はい、サヴィトリ様。地獄の果てでも天国の先でもお供いたします」
「祭りを見るだけなのに大げさでしょう」
「常にそういう心持ちで取り組んでいるという決意表明です」
「はいはい」
恋人同士がするように腕を組み、サヴィトリとカイラシュは熱に浮かされたように騒がしい町へと繰り出した。
〈了〉
カイラシュは額を床に擦りつけて土下座する。今日はいつものように髪を結い上げておらず、肩のあたりで束ねて流しているだけだった。
サヴィトリは今日限定の蝶豆とライムを使った青紫色のアイスフルーツティーを飲みながら店内を見回す。VIP用の個室であるため、サヴィトリとカイラシュの他に人はいない。即位奉告の儀に合わせて催されている祭りにちなんで色とりどりのランタンで飾り付けられている。なぜランタンなのかは忘れてしまった。
手はず通り霊廟を抜け出したサヴィトリは、商業区のはずれにある「三日月亭」という飲食店に来ていた。老舗ホテルの系列店らしい。防音対策がされた個室があり、高官や貴族にも重用されている店だとカイラシュが教えてくれた。
「いいよ、別に」
サヴィトリはそっけなく言い、三段ケーキスタンドからサンドイッチを取る。寝坊をしてしまったため朝食を食べそこなってしまった。
全身がけだるく、疲労が残っている。まだ中が少しひりひりと擦れた感じがあった。無理をしたというかさせられたというか、サヴィトリとしては昨日のことは恥ずかしすぎてあまり思い出したくない。途中で記憶が飛んでしまっているため覚えていない部分もあるが。
「本当に良いのですか!」
カイラシュは顔をあげ、ぱっと表情を明るくする。化粧の施されていない顔は男性的で印象が全く違う。
「じゃあ昨日のアレの手前くらいまでなら日常的に大丈夫ってことですね!」
「カイ、もう一回摩擦熱で焦げるくらい床に頭擦りつけて」
「……なんだかんだサヴィトリ様も結構乗り気だったじゃないですか」
「今すぐ額づけカイラシュ」
「……はーい」
就業時間内であるため、カイラシュは素直に応じる。あからさまに不満そうだったが。
「今日は何時まで自由にしてていいの?」
「明日の朝までに正装で霊廟の中にいればいいので、それに間に合うくらいですね」
「本当にがばいスケジュールなんだね。城下では何かお祭りをやっているんでしょう。カイ、案内してもらえる?」
「サヴィトリ様がそう仰られると思い、不肖カイラシュ、各種イベントのタイムジュールや限定グルメ、絶景スポットに厳選散策コース、押さえておきたいアクティビティ、祭りを締めくくるにふさわしいファビュラスでヘブンリーな宿泊施設まで網羅したあらゆる楽しみ方をまとめたガイドブックを作成してまいりました!」
「うん。平常運転みたいで安心した」
サヴィトリはカイラシュの腕をつかんで立ち上がらせた。立たせる前にやればよかったなと思いながら、背伸びをしてテーブルナプキンでカイラシュの額をふく。
「それじゃあ行こう、カイ。早くしないとガイドブックの中身全部まわれないでしょう?」
「はい、サヴィトリ様。地獄の果てでも天国の先でもお供いたします」
「祭りを見るだけなのに大げさでしょう」
「常にそういう心持ちで取り組んでいるという決意表明です」
「はいはい」
恋人同士がするように腕を組み、サヴィトリとカイラシュは熱に浮かされたように騒がしい町へと繰り出した。
〈了〉
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