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第2話
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「人は誰しも輝く花を咲かすタネを持っておる。
そのタネに気づかぬだけなのだ。いや、気づかぬふりをしているとも言えよう。
いずれタネは芽を出さぬまま、その生涯を終えてしまう。
だから皆のものよ、勇気を出してタネを蒔き水を注ごうではないか!」
日曜日、昼の駅前。
大勢の人々が行き交う中でその老人は、ひとり両手を空に突き上げて熱弁を振るっていた。
長く生やしたボサボサの白髪と顎髭に、あちこち破れ薄汚れた服。まるで浮浪者のようである。
新手の宗教家であろうか。
だが、老人の声に足を止める者などひとりもいない。
おそらく皆が、ボケ老人の戯言だと思っている。
だが亀吉だけは、駅の改札前に所在無げに突っ立って、ぼーっと老人の話を聞いていた。
他にすることがなかったからだ。
私のタネはどこにあるんですかねー。
どこを探しても見当たらないんですけど。
あったら、すぐにでも撒きたいんですけどねー。
などとひとり考えている亀吉を、通りゆく人々が目をひそめながら見つめていた。
問題は、その奇妙な格好である。
一応スーツ姿ではあるが……。
頭には、安全第一と書かれた現場用のヘルメット。
胴には野球のアンパイヤが使う防具を装着し、腕や足にもアイスホッケー選手用のごついプロテクター。
いずれも怪しげなリサイクル店でまとめて100円で買った、今や防御効果が不明のボロボロの品だが、ともあれ完全防備と言える。
そして、額に輝くオットセイ神のカチューシャが、その姿の異様さにトドメを刺した。
「イカサマ占い師から借りてきてやった。これを着ければ、オットセイの神が災いから身を守ってくれるらしいぞ」
と、令子に渡されたものである。
イカサマなのに、そんな効果が保証できるんですかね~と亀吉は思ったが、仕方なく着けている。
そう。
今日はこれから、死神女の菊奈とデートなのだ。
心もとないプロテクターにしろ、怪しげなカチューシャにしろ、すがれるものには何でもすがりたい。
その一心で、かような格好となったのであった。
なんせ菊奈とデートした相手は皆、必ず死に至る。
その事実が亀吉の心臓を激しく打ち鳴らし、全身から汗が滝のように流れ落ちた。
ああ、どうしましょう。
やっぱりデートなんかすっぽかして、帰りましょうか。
わたしゃ、まだ死にたくありませんよ~。
おろおろしながら改札に向おうとしたその時。
「鶴田さん……」
その声にビクっとして目を向けると、いつしか亀吉の脇に白いワンピース姿の菊奈が立っていた。
そのタネに気づかぬだけなのだ。いや、気づかぬふりをしているとも言えよう。
いずれタネは芽を出さぬまま、その生涯を終えてしまう。
だから皆のものよ、勇気を出してタネを蒔き水を注ごうではないか!」
日曜日、昼の駅前。
大勢の人々が行き交う中でその老人は、ひとり両手を空に突き上げて熱弁を振るっていた。
長く生やしたボサボサの白髪と顎髭に、あちこち破れ薄汚れた服。まるで浮浪者のようである。
新手の宗教家であろうか。
だが、老人の声に足を止める者などひとりもいない。
おそらく皆が、ボケ老人の戯言だと思っている。
だが亀吉だけは、駅の改札前に所在無げに突っ立って、ぼーっと老人の話を聞いていた。
他にすることがなかったからだ。
私のタネはどこにあるんですかねー。
どこを探しても見当たらないんですけど。
あったら、すぐにでも撒きたいんですけどねー。
などとひとり考えている亀吉を、通りゆく人々が目をひそめながら見つめていた。
問題は、その奇妙な格好である。
一応スーツ姿ではあるが……。
頭には、安全第一と書かれた現場用のヘルメット。
胴には野球のアンパイヤが使う防具を装着し、腕や足にもアイスホッケー選手用のごついプロテクター。
いずれも怪しげなリサイクル店でまとめて100円で買った、今や防御効果が不明のボロボロの品だが、ともあれ完全防備と言える。
そして、額に輝くオットセイ神のカチューシャが、その姿の異様さにトドメを刺した。
「イカサマ占い師から借りてきてやった。これを着ければ、オットセイの神が災いから身を守ってくれるらしいぞ」
と、令子に渡されたものである。
イカサマなのに、そんな効果が保証できるんですかね~と亀吉は思ったが、仕方なく着けている。
そう。
今日はこれから、死神女の菊奈とデートなのだ。
心もとないプロテクターにしろ、怪しげなカチューシャにしろ、すがれるものには何でもすがりたい。
その一心で、かような格好となったのであった。
なんせ菊奈とデートした相手は皆、必ず死に至る。
その事実が亀吉の心臓を激しく打ち鳴らし、全身から汗が滝のように流れ落ちた。
ああ、どうしましょう。
やっぱりデートなんかすっぽかして、帰りましょうか。
わたしゃ、まだ死にたくありませんよ~。
おろおろしながら改札に向おうとしたその時。
「鶴田さん……」
その声にビクっとして目を向けると、いつしか亀吉の脇に白いワンピース姿の菊奈が立っていた。
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