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プロローグ
しおりを挟む腹の奥に響く重低音が大きな破裂音となって、木片が飛び散る。まるで、世界が崩壊していくようだった。
存外、呆気ないものなのだと客観的になれるほどに冷静な騎士は、呆然と立ち尽くす姫を引き寄せる。庇うようにコートの中に隠して、木片が飛んでこない場所へと避難させた。
バトナ王国第二王女側近であり、王国近衛第二騎士隊隊長のノワ・ミケールは、守るべき主の震える手を握る。
「ノワ……」
「王女殿下、ご安心ください。」
破裂音と怒号の中で騎士の穏やかな笑みに王女はゆっくりと深呼吸をした。
「団長!奴ら、名を馳せているノワールエデン号の海賊です!」
「相手が誰だろうと闘うことに変わりない。必ずや王女をお守りするのが、我らの勤め。」
「はいっ!」
騎士はその場にいる部下を奮い立たせるように、高らかに言葉を紡ぐ。その澄んだ、曇りのない声に指揮が上がる。
戦場と化した船の甲板へと戻る部下の背を見送る暇もなく、騎士は近くにいるはずの部下を探す。
「シャーロット。」
「はいっ、団長!」
自分の補佐を勤めるシャーロットを呼び、もう一度王女に向き直る。か弱い女ならば、この状況に狼狽えて泣き出しても可笑しくはない。現に、今にでも此方の船に乗り込もうとする海賊たちが見える。
しかし、自分の仕える姫は少々他の女性と違うということを、長年連れ添っているノワは理解している。
「大丈夫。貴女は死にません。まずはシャーロットと共に避難を。幸い、魔石エンジン付きの小舟で十数分も行けば港町が見えてくるでしょう。」
「私だけ逃げろと?私も戦います!」
王女は、腰に携えた短刀を引き抜くと声を低くして鋭い眼光で海賊船を睨む。しかし王女も分かっているはずだ。王女の何倍もある海の男たちに、短刀では勝てないと。
「王女殿下、ここは私たちにお任せください。」
「嫌よっ!」
「生きて、貴女の元に必ず参ります。」
「でも……っ!」
「エマ様、どうか私を信じてください。」
「さあ姫様、こちらへ。」
王女の手に口付けをした。大きなブルーの瞳に大粒の涙を溜めた王女はシャーロットに無理矢理連れて行かせた。まだ不安そうな顔をしている王女に微笑む。
ノワが最年少で近衛第2騎士隊長となり、王女の護衛の任に就いた天才だと王女も信頼している。しかしここは海の上。陸で闘う騎士たちとは違い、海の闘いを熟知した海賊たちの方が何枚も有利だろう。
だが、ノワには負けない自信があった。
「生きて、任務を遂行する。行くぞ!」
この日、勇敢な騎士たちは己の誓いをかけて剣をふるう。小舟で避難させられた王女が、その行方を知ったのは一晩経った頃だった。
──バトナ王国の大型船が、沈んだ……と。
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