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それは嵐の中で
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「ふぇぇー、あちぃ」
汗はたらたらと頬を伝って、アスファルトの道路に潤いを与えていた。
最も、振り返って見てみるとあっという間に蒸発している。どんだけ暑いんだよ。
こうなった理由は、まだ記憶に新しい。地球温暖化の異常なまでの進行だ。
数々な新技術の開発に伴い、排気量は増えていき、やがて海面は上昇を始めた。日本のみならず、色んな国が一部、もしくは全て海に浸かってしまった。
元々島国である日本は、段々と海軍に力を入れていく近隣諸国に対抗すべく、海上護衛隊を防衛省に設け、今にいたる。
艦は、現代のようにのぺーとした物ではなく、第二次世界大戦頃の物が使われている。たった少しの資料を元に、復刻したんだそうだ。
「おぉ、ついた」
めちゃくちゃ大きく、歴史を感じさせる赤レンガの建物は、その見た目とは裏腹に新築だと聞く。
海上護衛隊 佐世保基地。門に掛けられた看板にそう書いてあった。
汗だくの白い海曹の服を身につけた俺こと菜月航大(なつきこうだい)が迎えたのは、海上護衛隊の入隊式だった。
さて、入隊式が終わり、それぞれの所属艦艇が発表された。
俺の所属は駆逐艦『泡雪』だった。泡の如く淡い雪で泡雪。同型艦で同じ基地に所属している瑞雪とは真反対だと思った。
ちなみに、瑞雪とは吉兆を表す雪だそうだ。
「いやな予感がするなぁ」
なんて言いながら桟橋を歩いていると、左側に大きな船が見えてきた。
側面には、鏡文字で『き ゆ わ あ』と書いてあった。
「なんかちっせぇな」
海自の船しか見たことが無いので泡雪は少し小さく見える。
とにかく、俺はここで航海士となってこいつを運用しなければならない。
「よろしくな、泡雪」
そういって俺は艦内に入った。
入って荷物の整理をすると、俺達は艦尾に集まった。
「諸君。入隊おめでとう」
なんて用意された段の上で言っているのは、この艦の艦長、長澤さんだ。胸に、海自で言うところの、『グリコのおまけ』がたくさんついているのと、徽章が二つついている事から、相当凄い人だと言うことがわかる。
その後ろには、元からこの艦に乗っていた人達が立っていた。
「まず、始めに覚悟してほしい。海上護衛隊、所謂セーラーは、海自とちがって出撃回数が非常に高い。頻度は海保より低いが、今後海保よりも増えていくだろう。
また、武器を扱う職だということを常に心の隅に置いておけ。装備品の手入れはもちろんの事、点検などを怠ると仲間の死に繋がる。なので…」
エトセトラエトセトラ。
小学校の校長先生並みに長い話を聞かされた後、部屋に案内された。
案内された部屋は、部屋と呼べる物じゃなかった。
所謂吊り床(ハンモック)で、それぞれの隊員が雑魚寝だと言う。
劣悪もいい所だ。
なんて考えていると、ホヒーホーと大きな笛の音がスピーカーから聞こえてきた。
「航海科の新入りはヒトフタヒトゴーまでに艦橋へ集合!」
現在の時刻はヒトフタヒトマル。つまり午後二時十分。
まだ余裕があるように見えるが、配属されたばかりの艦はまさに迷路だ。
さっきの長ったるい話しの後に艦内の地図を渡されたが、ちんぷんかんぷんで迷う自信がある。
「さてと、行きますか」
そう言うと、ロッカーに荷物を置き帽子を被ると、艦橋に移動した。
「…遅い!!」
怒号が飛ぶ。俺は別に悪くないのに。
半泣きになりながら、女子がすみません!すみません!と謝っていた。
「これがもし、実戦だったらどうなっているか、わかってるんだろうな!?島津海士?!」
「すみません!すみません!!」
「『すみません』じゃねぇんだよ!島津ゥ?!「わかります」か「わかりませんだろうがヨォ?!」
「すみません!すみません!」
女子は尚も謝る。
さっきから怒鳴っているこの准尉は、田中と言う。
艦橋へ行く途中、水雷の先輩らが、こっそりと教えてくれた。
「お前らも大変だよなぁ、田中さんが上司って」
「本当に。君たち、気をつけるんだぞ?田中さんはな、ヒステリックこじらせてんだよね」
…拗らせているんじゃなくて、この人がヒステリックという言葉なんじゃないか?
「田中准尉、そこまでいう必要ないじゃないか。彼女もう泣いちゃってるよ」
と声をかけたのは、長澤さんだった。
「しかし…!」
「ヒステリックに怒ったって人間成長しないよ。…島津海士」
「は、はいぃー」
ひっぐ、ひっぐとしゃっくりをしながら、鼻水と涙を垂らして島津が言う。
「初めてくる艦で迷ってしまうのはよくある。私もここに初めて来た時は迷ったよ。ただ、それを考慮して動いてくださいね?」
そう言い終えると、はぁ、と呆れるように長澤さんはため息をついた。
「田中准尉、出動命令出ているのに、士気を下げるような事は控えていただきたい」
「…わかりましたよ」
小さく、島津准尉はチッと舌打ちをした。
それよりも。
「質問よろしいですか?」
拳を握ったまま、俺は手を挙げた。
自衛隊と一緒の挙手の方法だ。
「なんだい?菜月くん」
「出動命令とは?」
「そのままの意味だよ。航海長、艦内放送の準備」
「了解」
機械を操作して、受話器を長澤さんに渡した。
『出航準備!各員配置につけ!」
初めて来た艦で初めての実戦が初日とは…なかなかに酷い職場。
けど、この緊張感は他では味わえない!
「何をしているんだい?早く配置につきなさい」
『了解!』
俺たちは、艦橋の中を駆け回った。
✳︎この物語は、前作、「海洋高校駆逐艦、『瑞雪』艦内報告!」の前日談のようなものです。前作を読まなくてもわかるようにはなると思いますが、是非前作もお読みくださいませ!
汗はたらたらと頬を伝って、アスファルトの道路に潤いを与えていた。
最も、振り返って見てみるとあっという間に蒸発している。どんだけ暑いんだよ。
こうなった理由は、まだ記憶に新しい。地球温暖化の異常なまでの進行だ。
数々な新技術の開発に伴い、排気量は増えていき、やがて海面は上昇を始めた。日本のみならず、色んな国が一部、もしくは全て海に浸かってしまった。
元々島国である日本は、段々と海軍に力を入れていく近隣諸国に対抗すべく、海上護衛隊を防衛省に設け、今にいたる。
艦は、現代のようにのぺーとした物ではなく、第二次世界大戦頃の物が使われている。たった少しの資料を元に、復刻したんだそうだ。
「おぉ、ついた」
めちゃくちゃ大きく、歴史を感じさせる赤レンガの建物は、その見た目とは裏腹に新築だと聞く。
海上護衛隊 佐世保基地。門に掛けられた看板にそう書いてあった。
汗だくの白い海曹の服を身につけた俺こと菜月航大(なつきこうだい)が迎えたのは、海上護衛隊の入隊式だった。
さて、入隊式が終わり、それぞれの所属艦艇が発表された。
俺の所属は駆逐艦『泡雪』だった。泡の如く淡い雪で泡雪。同型艦で同じ基地に所属している瑞雪とは真反対だと思った。
ちなみに、瑞雪とは吉兆を表す雪だそうだ。
「いやな予感がするなぁ」
なんて言いながら桟橋を歩いていると、左側に大きな船が見えてきた。
側面には、鏡文字で『き ゆ わ あ』と書いてあった。
「なんかちっせぇな」
海自の船しか見たことが無いので泡雪は少し小さく見える。
とにかく、俺はここで航海士となってこいつを運用しなければならない。
「よろしくな、泡雪」
そういって俺は艦内に入った。
入って荷物の整理をすると、俺達は艦尾に集まった。
「諸君。入隊おめでとう」
なんて用意された段の上で言っているのは、この艦の艦長、長澤さんだ。胸に、海自で言うところの、『グリコのおまけ』がたくさんついているのと、徽章が二つついている事から、相当凄い人だと言うことがわかる。
その後ろには、元からこの艦に乗っていた人達が立っていた。
「まず、始めに覚悟してほしい。海上護衛隊、所謂セーラーは、海自とちがって出撃回数が非常に高い。頻度は海保より低いが、今後海保よりも増えていくだろう。
また、武器を扱う職だということを常に心の隅に置いておけ。装備品の手入れはもちろんの事、点検などを怠ると仲間の死に繋がる。なので…」
エトセトラエトセトラ。
小学校の校長先生並みに長い話を聞かされた後、部屋に案内された。
案内された部屋は、部屋と呼べる物じゃなかった。
所謂吊り床(ハンモック)で、それぞれの隊員が雑魚寝だと言う。
劣悪もいい所だ。
なんて考えていると、ホヒーホーと大きな笛の音がスピーカーから聞こえてきた。
「航海科の新入りはヒトフタヒトゴーまでに艦橋へ集合!」
現在の時刻はヒトフタヒトマル。つまり午後二時十分。
まだ余裕があるように見えるが、配属されたばかりの艦はまさに迷路だ。
さっきの長ったるい話しの後に艦内の地図を渡されたが、ちんぷんかんぷんで迷う自信がある。
「さてと、行きますか」
そう言うと、ロッカーに荷物を置き帽子を被ると、艦橋に移動した。
「…遅い!!」
怒号が飛ぶ。俺は別に悪くないのに。
半泣きになりながら、女子がすみません!すみません!と謝っていた。
「これがもし、実戦だったらどうなっているか、わかってるんだろうな!?島津海士?!」
「すみません!すみません!!」
「『すみません』じゃねぇんだよ!島津ゥ?!「わかります」か「わかりませんだろうがヨォ?!」
「すみません!すみません!」
女子は尚も謝る。
さっきから怒鳴っているこの准尉は、田中と言う。
艦橋へ行く途中、水雷の先輩らが、こっそりと教えてくれた。
「お前らも大変だよなぁ、田中さんが上司って」
「本当に。君たち、気をつけるんだぞ?田中さんはな、ヒステリックこじらせてんだよね」
…拗らせているんじゃなくて、この人がヒステリックという言葉なんじゃないか?
「田中准尉、そこまでいう必要ないじゃないか。彼女もう泣いちゃってるよ」
と声をかけたのは、長澤さんだった。
「しかし…!」
「ヒステリックに怒ったって人間成長しないよ。…島津海士」
「は、はいぃー」
ひっぐ、ひっぐとしゃっくりをしながら、鼻水と涙を垂らして島津が言う。
「初めてくる艦で迷ってしまうのはよくある。私もここに初めて来た時は迷ったよ。ただ、それを考慮して動いてくださいね?」
そう言い終えると、はぁ、と呆れるように長澤さんはため息をついた。
「田中准尉、出動命令出ているのに、士気を下げるような事は控えていただきたい」
「…わかりましたよ」
小さく、島津准尉はチッと舌打ちをした。
それよりも。
「質問よろしいですか?」
拳を握ったまま、俺は手を挙げた。
自衛隊と一緒の挙手の方法だ。
「なんだい?菜月くん」
「出動命令とは?」
「そのままの意味だよ。航海長、艦内放送の準備」
「了解」
機械を操作して、受話器を長澤さんに渡した。
『出航準備!各員配置につけ!」
初めて来た艦で初めての実戦が初日とは…なかなかに酷い職場。
けど、この緊張感は他では味わえない!
「何をしているんだい?早く配置につきなさい」
『了解!』
俺たちは、艦橋の中を駆け回った。
✳︎この物語は、前作、「海洋高校駆逐艦、『瑞雪』艦内報告!」の前日談のようなものです。前作を読まなくてもわかるようにはなると思いますが、是非前作もお読みくださいませ!
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