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どんなにどん底でも与えるものは大きい

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「お前部活どうする?」
突然友達の「弦」は訪ねた。
時は平成大阪城、快晴の空に瞬く夕日が、後もう少しで夜になることを伝えている中を、弦と眩魏(くらぎ)は歩いていた。
「さぁ?どうしよか。そういうお前は?」
「もち!軽音部!」
「だいたい予想出来るけど一応聞いておこう、どうしてだ?」
「モテるから」
何の恥じらいも無しにさらっと言ってしまう。それが弦の良いところなのだろうか?
「だろうな、、、」
(ザワザワ)
「ん?」
二人は周りが騒がしくなっていることに気がついた。
「突然どうしたんや?」
「さぁ?けどもしかしたら弦の話を聞いて引いてるんじゃねぇの?」
「ひでぇな!そこまで俺引くこといってなかったよね!?ねぇ、言ってないよね!?」
弦の戯言に耳も傾けず、眩魏は人々が集まっている所をみた。
見るとボロボロの服に手入れのされていない髪やひげ、しかしその手には、いかにも大事そうなギターを抱えた老人がいた。
(成る程、そりゃ人も集まるわ。)
何せ路頭ライブ、それにギターとくれば、有名な曲の一曲や二曲奏でるだろう。そうしないと客が集まらない。周りが注目する中、老人が弾いたのは
♪たらたらたんったらたらたんったらたらたらたらたらたらたん♪
(ん?これは、、、)
老人の弾いた曲はクラシックだった。
それも音楽に余りに興味のない眩魏から見ればただ疲れた身体に響く子守歌というところだろう。しかし、
「眠くならない、、、」
いや、違う、身体が聞きたがっている!?
今までこんな事がなかった分、その興奮は大きく、確かなものだった。
一瞬のように感じた演奏がおわり、空き缶に観客がお金を入れる。その時、あるものは泣いていたり、あるものは握手をし、あるものは、汚い体に自分からハグをしていた。眩魏も、泣いていた。
「スゴかったな。あのおっちゃん」
ふと帰りしなに弦はつぶやいた。眩魏も静かに首を縦に振った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
その夜、眩魏はふと今日の会話を思い出した。
「部活どうしよ。」
眩魏は比較的思い立ったものはすぐに行動する性格なため、ものの数秒後に床が部活動の勧誘のパンフレットでいっぱいになった。
眩魏の通う中学校、兎温(とおん)中学校は、バスケ部、野球部、サッカー部などのメジャーなものから、そろばん部や、アニメ部など、マイナーなものまであった。
しかし、どれも眩魏の求めている部活ではなかった。あの時あのギターの音色を聞いたような気持ちになれる部活がいい。自分で無理だと思っていてもやってしまうのが眩魏の大きな長所であり短所でもある。
そんな中、殆どの部はカラーコピーにたいし、この部は、カラーコピーもしておらず、あまつさえ手書きであった。だが、眩魏の心を揺さぶるには丁度良かった。
「兎温中学校クラシックギタークラブ?」
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
こうして運命の歯車は廻ってゆく、、、


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