俺(40歳成人男性)が魔法少女に?!

桃田正介

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8話 ときめき

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 魔法少女は惹かれ合う。
 淫獣のその説明がいったい何を意味しているのか。それによって、今後の対策に影響を及ぼす。
 俺は今までになく、人外を問い詰めた。

「言葉のままだよ。魔法少女はその運命を避けることができない。強力な敵が現れた時、お互いの魔力を必要とした時、いつも必然的に魔法少女同士は出会うんだ」
「それは決められた運命なのか? それとも、そういう状況に陥った時の話か?」
「決められた運命?」
「そうだ。何もかも決まっていて、俺達はその上を歩いてるだけなのかってこと」
「あー。それはないね。それは君らが言う、まさに神の領域だよ。そういう話でいけば、君の質問に対する答えは後者かな」
「じゃあ、俺が魔法少女として一人で十分やっていけるなら、他の魔法少女と出会うこともないのか? 例えば、部長と小鳥遊舞ちゃんが出会わないで済むこともあるのか?」

 部長の身に何があったか分からないが、あの様子で彼女に会わせるのは危険な気がした。
 少なくとも部長が元の部長に戻るまで、2人の距離を保ちたい。

「それは分からない。同じ街にいる以上、戦い以外のことで出会うこともある。大二郎と舞のようにね。何より、お互いに見えない敵が見えて、魔力を感知し合えるんだ。その先で魔法少女同士が出会うことは、必然なんじゃないかなあ」

 相変わらず回りくどい言い方をするが、とりあえず言いたいことは理解した。

「どうして、そんな事を聞くんだい?」
「こんな風に質問しないと、お前ははっきり答えないだろ」
「そうかなぁ」
「人間社会ではな、まず契約前に、それがどういう内容なのかを十分に説明するんだ。それをお前はしていない。人間社会では信用されないことだ」

 こいつは、あの子にどういう風な甘言で魔法少女の契約をしたのだろうか。
 14歳は判断能力が十分とされているとは言え、まだ子供だ。周囲の大人が、あの子を他人の悪意から守らないといけない。
 こいつはその監視を通さず、ダイレクトで接触して、一対一の契約に及んだ。俺の時と同じく。

「あの子の時はどうだったんだ?」
「小鳥遊舞のことだね? 彼女には、十分な理解を得たうえで契約したよ?」
「よく分からないまま契約したって言ってたぞ」
「認識の相違だね。人間は自分の思い通りにいかなかったとき、その不利益を他者のせいにする。魔法少女は、君達人間にはよく知られている存在なのに。そうだと知らなかった、なんてはずがない。でも、それが絵の世界ではなく、現実として目の当たりにした時、君達は こんなはずじゃなかった とよく言うよね」
「何が言いたい」
「この世の不利益は当人の能力不足。魔法の力がたるんだから、君達が魔法少女としてどう生きるのかも、君達次第何だ。今までにない大きな力を手にしてながら、不満を言うのはどうなのかなぁって」

 確かに、自分の思い方1つで、それが魔法の力になるのなら、それを有効に使えば大きく人生を変えることができるだろう。
 この生物の言う事も一理ある。

「えらく小鳥遊舞のことを気にかけているようだけど、大二郎は自分自身をもっと心配したほうがいいと思うよ」
「どういうことだ?」
「最近の君は少し浮かれていたようだね。魔法少女としての意識が低下している」
「だから、どういうことなんだって」
「大二郎。君、魔力が少し落ちてるよ?」

   ●

 俺はどうしたらいい。
 あの子の前では、俺は頼もしい先輩の魔法少女でいたい。大人としての余裕を見せ、いろいろアドバイスもしたい。女がピンチのときは、俺が助けたい。そういうつもりでいたのに……

「あれ? 思ってたより効いてない」

 あの日の約束通り、俺は舞ちゃんと共闘していた。彼女の初勝利のために、俺が先陣切って悪魔と戦う。
 相手を弱らせてから、彼女にとどめを刺してもらう予定だ。

「いやいや、田中さん! 十分効いてますよ!」

 彼女の目には、俺の攻撃は凄まじいものに見えているらしい。しかし、本人の俺には、それが以前よりも力が落ちていることが分かった。
 原因は自覚していた。
 あいつが言う通り、俺は浮かれていたんだ。どんなに強い敵も一撃で倒せる自分に。何より、この子に頼られる自分に。
 以前は魔法“少女”を目指し、全てを捨てる覚悟でいたのに、今は違う。今は、この子に嫌われたくない。その想いが、俺が俺を魔法少女でいることを否定していた。
 
「そうかい? ありがとう! 舞ちゃん、今だ!」
「えいっ!」
 
 剣のような見た目をしたそれは、まさにマジカル・ブレードと呼んで差し支えない代物だった。
 彼女の袈裟斬りを食らい、敵は爆散する。
 戦いの興奮が冷めてから、ちゃん付けで口走った自分の言葉に、少し気まずくなった。

「……あっ、ごめん」
「ん? なんですか?」
「いや、その……」

 つい、苗字ではなく、下の名前で呼んでしまった。舞ちゃん……言い慣れた言葉なのに、今はただただ気恥ずかしかった。
 俺がバツが悪そうにしているのを見て、彼女はニッコリ笑った。

「好きに呼んで頂いて大丈夫ですよ。あまり苗字で呼ばれないので、舞のほうがしっくりきます」

 彼女は名前だけでなく、性格まで天使だったらしい。彼女の気遣いに、俺は顔が熱くなる。

「じ、じゃあ、舞ちゃん……」
「はい、なんですか?」

 特に話題を考えずに名前だけ呼んだ。
 そのせいで、妙な沈黙が訪れた。
 これ以上黙っていると変な空気になる。そう思った矢先、天使が助け舟を出してくれた。

「それより田中さん。私、はじめて悪魔を退治しましたよ! かなり助けられて、やっとですけど。すごく嬉しいです!」
 
 俺1人だけであれば、べつに人目の多い街中でも構わなかった。しかし、彼女には生活がある。彼女の魔法少女姿は目の癒しになるが、正体がバレては色々な支障が出るに違いない。
 そのため、今回はなるべく人気のないところで、悪魔が出現したところを探し、彼女を連れて戦いに出た。
 河川沿いの高架下。悪魔は中ボスくらいだったが、俺のアシストがあれば彼女が怪我をすることもない。そう踏んで挑んだが、思ったより手間取った感覚があった。

「ありがとうございますね」
「いいんだ。舞ちゃんの力があったから倒せたんだよ」
「田中さんは優しいんですね」

 彼女はアニメの小鳥遊舞とは違う。
 顔も、声も、アニメとは違う。
 だけど、それを脳では分かっていても、胸が高鳴るのを抑えられなかった。
 現に、彼女はアニメの小鳥遊舞と同い年で、魔法少女で、武器や衣装までアニメのそれで、俺を慕って、俺の名前を呼んでくれる。先輩魔法少女と、言ってくれる。
 アニメ放送終了から10年。忘れかけていたあの頃の情熱が帰ってくるようだった。
 
「仲間だし、当然だよ」
「ううん。田中さんなら、私が魔法少女じゃなくても、きっとこうして助けてくれてる気がします」
  
 彼女は大人の俺をもドキっとさせることを無邪気に言う。しかし、年相応に彼女は無自覚だ。

「そ、そうかな?」
「そうですよ。だって、通り魔を倒した時も、皆を助けるために戦ったんでしょう? 街中でも、何のためらいもなく変身して」
「ああ……それはいつものことかな……」

 自分の魔力を高めるために、それ以外のことはどうでもよかった。とは言えなかった。
 俺がどう思っていたとしても、その時の彼女の目には、俺がヒーローに見えたのだ。
 ガッカリさせたくなかった。俺は、それ以上は答えなかった。

「私、田中さんが皆に誤解されているのが耐えられません。誰にも見えない敵と戦って、皆を守っているのに……」
「そんな大したもんじゃない。人は見た目から入るから、仕方ないよ」
「田中さんは、それでいいんですか……?」

 そこまで言って、彼女はその言葉が俺を傷つけるものと気がついた。それでいい、と思っているはずがない。どうにもできないことだから、そうしているだけなのだ。
 彼女は、いや舞ちゃんは、「あっ、すみません……」と目を伏せた。

「いいんだ、いいんだよ」

 なんというか、親の気持ちに近い気がした。庇護欲、というのだろうか。俺がこの子を守らないといけない。そう思った。
 魔法少女である以上、戦いを避けることはできないだろう。見えない敵が見えて、魔力のせいで敵に認知されて攻撃を受ける。無視したくてもできない。だから、自分の身を守るためにも最低限の力はつける必要がある。
 その一方で、彼女には彼女の生活がある。
 淫獣に騙され、契約をしてしまったのかもしれないが、状況がこうなってしまった以上はやるしかない。
 舞ちゃんが受ける試練は、できる限り俺が代わりに受ける。舞ちゃんが街中で敵に襲われたら、俺が退治する。舞ちゃんが強くなりたいと思うなら、俺が修行に付き合う。舞ちゃんが、舞ちゃんが……

 この時、俺は油断していた。
 この場は2人だけだと思って、注意を怠っていた。
 俺と舞ちゃんの楽しげな会話を、遠巻きに物陰から見ている第三者――部長がいたことに、俺は気が付かなかったのだ。
 ここで部長に気がついていれば、この先の未来は違っていたかもしれないのに。

「田中くぅん……約束したのに……」

 
 
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