シャッターを切るときは

査察②

#５

「お前、キスは嫌がらないよな」

矢代は秋の唇を愛しそうに舐めて、口を離した。
「あ……っ」
それだけの仕草で背中がゾクゾクしてくる。しかし快感に支配されないように理性を手繰り寄せた。
「わかったよ……写真は諦めるから、離して」
秋は矢代の肩を押し返そうとしたが、逆に掴まれ、さらに深いキスを求められる。
「ん、ん……っ！」
この体勢じゃどうする事もできない。何とか終わるのを待とうとしたが……やはり終わる頃には、頭は働かなくなっていた。
キスだけでおかしくされるのが嫌だ。あまりにも惨めで、滑稽だ。
けど彼は意地悪だから、今度は首筋にまで舌を這わせてくる。
「良いな。もっと汚したくなるけど……」
勿体ぶって鎖骨の近くに口付けする。これからもっと深い場所に触れてくると思いきや、彼は淡々と告げた。

「洗濯の途中だってことを忘れてた」
「え？」

彼はソファから下りて、さっさと部屋を出て行こうとする。
秋はその様子を呆然と見ていたが、ハッとして彼を引き止めた。
「ちょっと待った、写真は！？」
「そうだな。全教科のテスト、クラスでトップを取れたら考えてやってもいい」
「そんなん無理に決まってんだろ！ 赤点とらなければ、にしてよ！」
「どさくさに紛れてハードル下げ過ぎだろ。でも俺は優しいから、別の課題を考えとこう。それによって消してやる」
かもしれない、と言って矢代は部屋を出て行った。
一人になった秋は再びソファの上で寝転ぶ。そして叫んだ。

「サイッテー！」

嫌だけど思い出す。いつだったか、保健室でヤってる最中に写真を撮られたことがあったっけ。あれはあの時のものかもしれない。けど、他の場面でも気付いてないだけで撮られてたのかも……。

最悪だ。
最悪だけど────痛いほど身に染みた。

盗撮されるって、こういうことなんだ。
こういうことを、俺は人にしていたんだ。

世界中の誰に盗撮されても文句は言えない。
……はずなんだけど、あの変態教師に盗撮されるのは何だか釈然としない様な。

その後もしばらく頭を悩ませたものの、このモヤモヤした気持ちの原因は最後まで分からなかった。