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査察②
#6
しおりを挟むまだ身体の熱が冷めきらない。そのせいか分からないが、暫くソファに寝転がっていた。
「よし、考えたぞ。頭の弱いお前でも楽にこなせる課題を」
しかしその休息をぶち壊すのは決まって矢代だ。しかも部屋に戻ってきた彼は、邪気のない笑みを浮かべている。
こういう笑顔の時は、絶対ろくでもないことを考えてんだよな……。
一抹の不安を感じながら待っていると、彼は意気揚揚と告げた。
「今の生活態度を改める。それだけだ。簡単だろ?」
「ちょっと待ってよ。どゆこと? まるで俺が不良みたいな!」
本気で意味が分からず聞き返した秋に、矢代は腕を組んだ。
「不良ではないけどな。ウチの学校の基準で考えたら悪い。遅刻ばっかで態度も悪い、愛想も悪い、頭も悪い。おまけに欲求不満で情緒不安定」
「ふっ……それ全部打ち消すぐらい、先生の方がやばいけどね。性犯罪はこの世で最も許されない悪だよ」
「うん、まぁ人間誰しも欠点の一つ二つあるのが当然なんだ。大事なのはそれに気付いて、直す努力をすることだ」
やばい。話が噛み合わない。
教師みたいなことを言ってるし、素直に気持ち悪い。
「……で、お前みたいな奴は形から入った方が浸透しやすいだろうから、まずは外見だ。そのチャラチャラした見た目を何とかしろ。余計バカに見える」
彼の指摘は間違ってない。でも一々辛辣すぎる。
「黙って聞いてりゃ……これが形から入った結果だよ! 街中で歩いてる高校生見たことある!? 皆こんな感じだろ!」
「だからウチの基準で考えろ。そのネクタイも、締めるならもっとちゃんと締めるとかな」
矢代は屈んで、秋の緩いネクタイを結び直した。
今動いたら首を絞められそうなので、大人しくする。
「注目されるのは好きだからね」
そう。よっぽど悪いことでない限りは、目立つのは好きだった。
「大人しくて育ちのいい奴らが集まってんだ。良くも悪くもお前は浮くよ。そういえば何でこの学校を選んだんだ? 公立の方がやりたい放題できただろ」
矢代の問いかけに、秋は背もたれに寄りかかってバンザイした。
「別に。家から近くて、行きやすい所を狙っただけ。あと男だけの学校ってのがどんなもんか興味あったからさ」
質問を変えて、今度は秋が矢代に尋ねた。
「先生は、この学校どうなの」
「そうだな……。前は何とも思ってなかったけど」
矢代は頬杖をついて、軽く笑った。
「今は、この学校に来て良かったと思ってる」
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