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#5

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文人は司よりワントーン声が高い。しかし黙っていればやはり兄と重なるところが多かった。鼻の高さ、長い睫毛、男にしては白い首筋。どちらにしても自分とは違う優良物件。きっと彼らの父も男前だったんじゃないかと想像した。

「まさかとは思うけど、俺が怖いんですか?」
「……」

はい、と喉まで出かかったが紅茶と共に流し込んだ。
「いいえ……」
蚊の鳴くような声で答えるのがやっとだ。今度は正面の絵画を眺めてみる。文人は司が消えたドアの方を一瞥すると、また話し始めた。
「兄は人が良過ぎて人を見る目がないんです。だからよく変なタイプにつけこまれる。少し前に、厄介な人に付きまとわれてたみたいで……その人もエンジニアだったんですけど」
エンジニア?
「え……。あの、その人の名前とか分かりますか?」
文人は訝しげに眉を寄せた。
「名前は知りませんよ。知ってても個人情報ですから、言えませんけど」
「あ、ですよね。……すみません」
再び意気消沈して縮こまる。彼はゆっくりと立ち上がり、こちらを睨みつけて言った。

「兄の言う通り今日はもう遅いし、泊まっていってください。でもこれ以上兄を振り回したら許さない。俺にとって、兄は親も同然の……たった一人の家族なんです」

空になったグラスを持って、彼は部屋を出て行った。
無音になった世界。知らない他人の家。心の中を掻き回されたような、変な気分だった。
今までどれだけ自分のことばかりだったか思い知らされたようだ。自分ばかり司に振り回されてると思っていたけど、自分もまた、司やその周りの人を振り回していたのだ。

不思議だ。口の中が甘ったるい。今なら珈琲が飲める気がする。

「由貴君、……あれ、文人は?」

部屋に戻ってきた司は周りを見渡している。仕方ないので自分の部屋に戻ったんじゃないかと話した。
「もう寝るつもりなのかもね。じゃあ俺達も寝よう」
てっきりさっき案内された客室に通されると思った。ところが連れてこられたのはパソコンのモニターが二つあるシックな部屋。もしかしたらもしかすると、司の部屋かもしれない。

「俺の部屋だよ」

読心術のように、司は由貴の疑問に先駆けて答えた。何も返せず呆然としている自分の手を引き、中央のベッドに座らせる。
「文人がうるさいからさっきは客室に案内したんだ。大きいから二人で寝ても問題ないでしょ?」
「確かに大きいですけど……駄目ですよ、弟さんにバレたら俺が殺されます」
「別にやましい事はしないし、部屋に入ってきたりしないから大丈夫だよ。心配なら……そうだ、鍵をかけよう」
司はドアの鍵をかけた。気遣いは嬉しいがこれだと今度は司から逃げられない。結局気が休まることはないので、この兄弟の家に居る以上内側も外側も危険に思える。

「それで、文人と少し話せた? 俺、一回君と文人を会わせてみたかったんだよ」

年齢も近いし、と何も知らない司はにこやかに言う。やっぱりちょっと複雑な気分だった。





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