36 / 51
ほとぼり
#6
しおりを挟む「大事な人がいなくなるのはほんとに突然で、一瞬。だから幸耶の話を聞いた時、息ができなくなりそうだった。一番辛いのは亡くなった人だけど、残された側も、生きてる限り後悔していくことになるから」
「風月……」
同じ状況になった人が全員負う傷。それを庇い、隠しながら皆生きていくんだ。
膝を抱えて俯くと、幸耶は徐に首を横に振った。
「話してくれてありがとう。……頑張ったな」
ぽんぽんと頭を叩かれる。
まさかそこで労いの言葉を貰えるとは思ってなくて、笑ってしまった。
大変だったね、と言われることはあるけど。頑張ったと言われると、存外嬉しいことを知った。
「幸耶も、頑張ったじゃん」
「いや。俺は兄貴がいたから、複雑なことは代わりにやってもらえた。家もそのまま住めてるし」
でもお前は違うんだろ? と前髪を持ち上げられる。それには慌ててかぶりを振った。
「頼れる親戚がいたから、色々手伝ってもらってたよ。でも引っ越して、何も整理できてない状態だった。大学入って数カ月……教習所もあとちょっとだったのに」
力なく肩を落とし、天井を見上げる。
「俺が免許とったら、親父をドライブに連れて行こうと思ってた」
「そうか」
「うん。でも事故の後、教習所に行けなくなった。行こうとすると足が竦んで……親父のことを考えちゃって」
引っ越し先を探していた時、たまたま教習所の目の前に安いアパートがあるのを見つけた。早急に引っ越さないといけなかったから、教習所にも通いやすいと思い部屋も借りた。なのに行けなくなってしまった。
いずれは、大学の近くに引っ越してもいい。今は一旦住居をおさえ、父親の遺品や家財をまとめる必要があった。
しかし停滞して、全てが手つかずの状態になっていた。
「結局、三カ月も不登校。何か、もういいか……って諦めてた」
でも、幸耶と出会い、その気持ちは変わった。
「お前が家に来てくれるようになって寂しくなくなったし、また教習所にも通おうって思えた。だから俺、お前には感謝してもしきれないんだ」
父はもういないけど、自分が行きたいところに運転して行きたい。
そしていつかは、幸耶とも一緒に。
「お前も、俺とほとんど変わらない時期にお父さんを亡くしてたのか」
「うん……まぁ俺は、元々がいい加減だから。急がなくていいことは今も先延ばしにしてるし、大丈夫だよ」
ただのメンタルの問題、と言うと、さっきより近くに引き寄せられた。正面を向いたまま、隣り合わせで密着する。
「大丈夫じゃない。メンタルが一番でかいだろ。無理すんな」
「幸耶……」
「限界きてるときは休まなきゃいけない。……教習所なんか行ってられないよな。何も知らないで余計なこと言って、すまなかった」
「いやいや! 話してないんだから当然だろ!」
むしろそこまで察していたら怖い。
全力で否定するも、幸耶の顔はまだ辛そうだった。
「お前が泣いた夜も、やっぱりお父さんのこと?」
「……」
そっと髪を梳いて、彼は囁いた。
それほど遠くない記憶が蘇る。家に帰ろうとした幸耶を引き留めた、あの夜。
恥ずかしいけど嬉しかった、大切な一夜だ。
「……どうかな。確かに、毎日孤独で……先の見えない不安には駆られてたけど」
それだけじゃないように思う。
久しぶりに話の合う友人ができて、静まり返っていた家が賑やかになって。心から笑ったのは、父を亡くして以来初めてだった。
にも関わらず、幸耶と別れる際にどうしようもない孤独感に襲われた。
誰といても埋まらない穴。それを埋めてくれたのは幸耶で、……彼じゃないと駄目だった。
「できれば引かないでほしいんだけど。あの日はただ、幸耶が帰っちゃうことが……寂しかった」
「お前……」
すごく恥ずかしかったけど、意を決して告白した。
恐る恐る隣を見ると、案の定彼は顔を手で覆っていた。
「じ、自分でも分かってる。寂しくて泣くとか、情けないしダサいって!」
「いや……馬鹿にしてるとかじゃない。そうじゃなくて……」
幸耶は少しだけ手をどかす。その下の頬は、熱でもあるんじゃないかってほど真っ赤だ。
「帰ってほしくないって思われてたことが、シンプルに嬉しい」
「幸耶……」
6
あなたにおすすめの小説
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
【完結】アイドルは親友への片思いを卒業し、イケメン俳優に溺愛され本当の笑顔になる <TOMARIGIシリーズ>
はなたろう
BL
TOMARIGIシリーズ②
人気アイドル、片倉理久は、同じグループの伊勢に片思いしている。高校生の頃に事務所に入所してからずっと、2人で切磋琢磨し念願のデビュー。苦楽を共にしたが、いつしか友情以上になっていった。
そんな伊勢は、マネージャーの湊とラブラブで、幸せを喜んであげたいが複雑で苦しい毎日。
そんなとき、俳優の桐生が現れる。飄々とした桐生の存在に戸惑いながらも、片倉は次第に彼の魅力に引き寄せられていく。
友情と恋心の狭間で揺れる心――片倉は新しい関係に踏み出せるのか。
人気アイドル<TOMARIGI>シリーズ新章、開幕!
クリスマスには✖✖✖のプレゼントを♡
濃子
BL
ぼくの初恋はいつまでたっても終わらないーー。
瀬戸実律(みのり)、大学1年生の冬……。ぼくにはずっと恋をしているひとがいる。そのひとは、生まれたときから家が隣りで、家族ぐるみの付き合いをしてきた4つ年上の成瀬景(けい)君。
景君や家族を失望させたくないから、ぼくの気持ちは隠しておくって決めている……。
でも、ある日、ぼくの気持ちが景君の弟の光(ひかる)にバレてしまって、黙っている代わりに、光がある条件をだしてきたんだーー。
※※✖✖✖には何が入るのかーー?季節に合うようなしっとりしたお話が書きたかったのですが、どうでしょうか?感想をいただけたら、超うれしいです。
※挿絵にAI画像を使用していますが、あくまでイメージです。
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
【完結】俺とあの人の青い春
月城雪華
BL
高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。
けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。
ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。
けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。
それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。
「大丈夫か?」
涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。
【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話
日向汐
BL
「好きです」
「…手離せよ」
「いやだ、」
じっと見つめてくる眼力に気圧される。
ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26)
閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、
一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨
短期でサクッと読める完結作です♡
ぜひぜひ
ゆるりとお楽しみください☻*
・───────────・
🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧
❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21
・───────────・
応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪)
なにとぞ、よしなに♡
・───────────・
優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―
無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」
卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。
一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。
選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。
本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。
愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。
※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。
※本作は織理受けのハーレム形式です。
※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる