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ドライブ
#9
しおりを挟むもうすぐだ。もうすぐ、夏が終わる。
それと同時に、俺の短い青春も幕を閉じる。紙のカレンダーにバツ印をつけ、ひとりため息をついた。
幸耶と墓参りに行った日から数日が経ち、とうとう卒業検定の日を迎えた。
カーテンを開け、眩しい朝日に目を細める。
「来ちゃったなぁ……」
怖い。試験はもちろん、幸耶の結果が。
幸耶が受かったら、夏も終わりだ。互いに大学とバイトに専念して、自然と離れていくだろう。
それが当然なんだけど、俺は一瞬だけ、とんでもなく最低なことを考えた。
試験を、一緒に落ちてしまいたい。
そうすれば幸耶はまだ俺の家に遊びに来て、一緒に教習所に通える。
─────会う理由を作れる。
「はぁ……」
どんだけ最低だよ。
両手で顔を覆い、重い足取りで洗面所に向かう。
コップには幸耶の歯ブラシがあったが、なるべく見ないようにして顔を洗った。
「よし! やるぞ!」
馬鹿なことを考えるのはやめだ。
絶対受かる。俺も、幸耶も。
ここで踏みとどまったら、生きる意味や目標を塗り潰すようなものだ。そんなことしたら、未来の俺は今の俺を一生恨むだろう。
目の前のことに囚われないで、ずっと先のことに目を向けよう。
そこに幸耶がいないとしても、歩かなきゃいけない。……独りで生きなきゃいけないんだ。
服を着替え、鞄を持つ。仮免許証を持ち、駆け足で教習所へ向かった。
「あら。今日卒業検定よね? 頑張ってね」
「ウッス!」
窓口の女性に鼓舞され、広間へ向かう。やや踵を浮かせて辺りを見回していると、背中を叩かれた。
「風月」
「幸耶。おはよ!」
良かった。お互い寝坊はしないで済んだみたいだ。
今日は互いに直接教習所へ向かい、心を落ち着かせることにしていた。
中の雰囲気はいつもとまるで変わらないけど、
何度も深呼吸し、神に祈る。
「あ~~緊張する。口から十二指腸が出そう」
「午前に外で運転して、午後は所内か。結果はすぐ出るけど一日がかりだから嫌だよな」
幸耶は苦笑し、壁の柱に寄りかかった。
さすがに彼は平常心だが、俺はため息しか出ない。
「そうだ、この前卒検落ちて泣いてる娘がいてさ。いやー、俺も落ちたら泣きたい。でも男が泣いたら引くよな?」
「いいや……と言いたいけど、…………そうだな」
とてもクールな返事が返ってきた為、エナジードリンクを一気飲みした。そして昔間違えて買った交通安全の御守りを翳し、ぶつぶつと呟く。
「守りたまえ祓いたまえ……」
「もう何に祈ってんのかよく分かんないな……」
周りには同じく試験を控えた生徒が集まってきていた。試験官は外部の人らしく、優しそうなおじいさんが多かった。
うぅ……。
本番に強いとは言え、さすがに緊張する。
とにかく急発進急ブレーキを避けて、自転車に気をつけて、黄色信号は止まって……。
頭の中でぐるぐる考えていると、不意に頬を突つかれた。
「かーづき。笑顔」
「……」
振り返ると、幸耶は笑っていた。
緊張しないのかよ……とツッコみたかったけど、彼の顔を見たら全身の力が抜けた。
あれほど試験のことで頭がいっぱいだったのに……今は彼に目を奪われ、動けないでいる。
あぁ。もう、好き過ぎてやばい。
彼と会わなければここには来られなかった。……ここまで来られなかった。
胸元に手を当て、深く息を吸う。父を亡くした日のことがフラッシュバックしそうだったが、何度も深呼吸して気持ちを落ち着けた。
大丈夫だ。幸耶がいるから。
「迎さん、いますか?」
「あっ、はい!」
名前を呼ばれ、急いで鞄を掛け直す。駆けようとしたが、慌てて幸耶の方を振り向いた。
「行ってくる」
「あぁ。頑張れよ」
軽くハイタッチして、彼と別れた。
怖い。合否の問題はもちろん、運転することが。
でも運転したい。相反する感情がせめぎ合い、俺の背中を押す。
担当してくれる試験官にお辞儀し、元気よく挨拶した。
「迎です。宜しくお願いします!」
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