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ドライブ
#10
しおりを挟む助手席から見える景色はいつも広くて、緩やかに流れていた。
シーサイドを走るときも、高原のドライブルートを走るときも、窓は大きかった。けどいざ運転してみたら、思ったよりフロントから見える景色は小さかった。
自分が大きくなったからそう感じたのかもしれない。
反対に、父は満足してたかな?
ドライブも好きだけど、小さかった俺と同じぐらい遊び心を持ったひとだった。運転中の景色はそこまで見ていなかったかもしれない。飽きるまで俺にずーっと話しかけてたし、子どもながらによく疲れないな、と思っていた。
お菓子を食べたかったし、景色を見たかったし、音楽を聴きたかったから疲れることも多くて。
傍にいるのが当たり前だと思い込んでたから、バチが当たったのかも。
喉に何かがつっかえ、上手く息を吐き出せなくなる。
「次の信号、左ね」
「はい」
試験中、道は比較的空いていた。他の車も距離を空けてくれてるから走りやすく、有り難かった。
( でもいつもこうとは限らない…… )
何が起きるのがわからないから、一瞬も気が抜けない。
父だって嫌というほど分かってたはず。でも俺を乗せてるときは、そういう注意点やアドバイスを言ったことは一度もない。
ただただ楽しそうに走っていた。
彼のそんな姿が好きで……俺もいずれ免許をとって、気持ちのいい場所に連れていこうと思ってた。
……叶えられなくてごめん。
砕けた夢を拾い集めるのは難しく、一度は逃げた。……そうすることで、思い出と自分を守ろうとしたんだ。
けど逃げれば逃げるほど何故か苦しかった。
「……はい、お疲れ様。それじゃあ午後は中で、十四時から宜しくね」
無事に路上を終え、胸を撫で下ろす。
大きなミスはしてないはずだ。ひやひやしながら近くのコンビニへ行き、昼ご飯を買った。
幸耶は大丈夫かな……。
俺が心配することもないけど、……強いて言うなら、メンタルの方が心配だ。
俺と同じで、お母さんのことを思い出すかもしれない。
その度に塞がりかけた傷が開いて、胸を押さえて……。
でも、「大丈夫」だと笑うんだろう。
幸耶が負った傷はもちろん、幸耶の強さも何度も目にした。
彼は俺が思ってるよりずっと強い。躓いて転んだって、太陽さえ出ていれば上を向うとする。
あの、明るくて大きな向日葵のように。
「……そろそろか」
時間を確認して、また足早に教習所へ向かった。
俺も弱いから何度も倒れそうになるけど、今は起き上がる理由と、力を貰っている。
幸耶がいたからできたことだ。だから結果がどうであろうと、何度でも彼にありがとうを言いたい。
誰かと繋がる幸せを教えてもらった。
今なら恥ずかしがらずに、父にも胸を張って言える。
大好きだ。
その短い言葉を打ち明けるのに随分と時間がかかってしまったけど、きっと今も見守ってくれてると思う。
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