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後日譚
#1
しおりを挟む長い夜が明ける。
ベランダで白い息を吐いた真白は、薄青の空に背を向け、室内に入った。暖房の温度を上げて、珈琲用のお湯を沸かす。
この家の主を起こす為寝室へ向かうと、ちょうど部屋の中でアラーム音が鳴り響いていた。
素早く止めてから、前屈みになって声を掛ける。
「おはようございます。朝ですよ」
出逢った時から変わらない、常住坐臥美しい青年。しかし寝起きはいつもと違う艶めかしさがある。
その魔力に引っ張られないよう、両手は後ろに回して問い掛けた。
「よく眠れましたか? アケミさん」
「まぁまぁかな。おはよ、真白」
アケミは真白の頬を愛おしそうに撫で、微笑んだ。
真白も猫のように彼の手に擦り寄り、わずかに口端を上げる。
城のベッドより一回り小さい為か、彼の長駆が小さく見える。アケミは布団の中でもぞもぞと動き、再び瞼を伏せた。
「はあぁ~嫌だなぁ。起きたくない。仕事行きたくない。部長に会いたくない」
始まった。
居候して二ヶ月になるが、平日朝のアケミは子どものように駄々をこねる。真白は苦笑しながらベッドの端に腰を下ろした。
「分かります。辛いですよね」
ひとまず同意して、短いため息をつく。
「ただ、労働は人が作り出した仕組み。アケミさんが憎むべきは部長ではなく、何千年も前の先人達です。部長もまた、彼らが作り出した歯車の一部に過ぎませんから」
「そうか。……そうだな。それなら仕方ないな……」
力なく零したアケミは、勢いよく起き上がった。
「真白。平日だけ部長を冥府に飛ばすことできない?」
何故、今の流れでそうなるんだろう。
相変わらずよく分からないが、時間も刻一刻と過ぎている為立ち上がった。
「俺はもう冥府に生者は連れて行けませんからね」
地下を行き来する契約が切れた以上、真白も人間が暮らす地上から出ることはできなかった。だから意地悪ではなく、切実な想いで彼に手を差し伸べる。
「アケミさん。俺がお支えするだけでは、辛さは変わりませんか」
ささいな家事をするだけでは、働く彼の一助にはなれないのかもしれない。
不安の入り交じった瞳で見つめると、手を掴まれ、強く抱き締められた。
「いーや。真白がいるから何にも問題なかった」
抱き枕よろしく、アケミは真白の肩に顔をうずめ、頬ずりする。
「あはは。少しはお力になれましたか」
「ああ。……生き甲斐だよ」
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