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後日譚
#6
しおりを挟む「寿司……刺身を乗せた、小さな食べ物ですよね」
「そ。ただ寿司は寿司でも見た目がちょっと違うんだな。酢飯作るのは一緒だけど」
真白が不思議そうに首を傾げていたので、スマホでちらし寿司の写真を見せてあげた。彼はテーブルに手を付き、ふんふんと頷く。
「なるほど。全然違いますね」
「うん。でも今回はサーモンといくらも乗せようと思ってるから、海鮮っぽさはあるよ」
ご飯を焚き、二人で酢飯を作る。アケミが米を混ぜ、真白は団扇で風をあおいだ。
共有できないことが何となく後ろめたくて、料理の話題を避け続けた。けど今はこの上なく満たされている。アケミは密かに笑みを浮かべた。
元々料理をするのが好きだったが、最近は楽しいという感覚を忘れかけていた。
……やっぱり、誰かと食べる為に作るのは良いな。
「思い出させてくれてありがと、真白」
「何をですか?」
「へへ。内緒~」
「何なんですかね……」
簡単なのに錦糸卵や桜でんぶを乗せると豪華に見えるのも、ちらし寿司の良いところだ。実家から持ってきて眠り続けていた寿司桶も、久々の活躍に満足してることだろう。
「わぁ……! 鮮やかで、とても綺麗です」
「ほんと、映えるな。じゃあ早速、感想聴かせて!」
記念すべき初実食ということで、冷静な真白を椅子に座らせる。短めの箸を渡し、ワクワクしながら見守っていたのだが。
「これは……難しいです……」
以前冥府でフルーツを食べさせたことはあるが、そもそも食器を使うのが初めてなのだろう。真白は箸を上手く開けず苦戦していた。
何だ、この可愛い生き物は。
笑ったことがバレないよう軽く咳払いし、一旦箸を受け取る。
「よし! 感動のひと口目は俺が食べさせてあげよう」
「アケミさん、俺のことはいいから先に召し上がってください」
「俺は真白に先に食べてほしいの。はい、あーん」
笑顔と勢いで押しきり、小さな口にサーモンと酢飯を含ませる。
真白は何とか咀嚼しようと、リスのように頬を膨らませていた。
待つこと十秒。瞼を閉じてモグモグする彼を見守る。
「おーい、真白ちゃん? いかがでしょうか」
「不思議な感覚です」
「それは美味いってこと? それとも、……不味い?」
「……すみません。美味しい、の基準自体、俺にはまだ分からなくて」
真白は俯き、色素の薄い顔に影を落とした。どうやら本当に分からず、深く考え込んでいる。
勢いに任せて食べさせてしまったけど、無理をさせたようだ。
「ごめんな、真白。これ以上は無理して食べなくていいから」
「いえ。酸っぱいだけじゃなくて、色んなものが口の中で広がっていく感じが……上手く言えないんですけど、刺激的で、爽快です」
え。
数秒フリーズする。
聞き間違いではないかと焦っていたけど、真白は「もう一口食べてもいいですか?」と顔を上げて微笑んだ。
「あぁ。……もちろん!」
真白の大きな瞳に映る自分は、目が輝いている気がした。
食べにくそうだから真白に木製のスプーンを手渡し、ちらし寿司は小さなお弼に入れた。
二人で食卓を囲んでいる。なんてことない時間だけど、自分達にとってはとても特別なこと。大きな一歩を踏み出した日だった。
「人も黒いものを食べるんですね」
「あ、海苔? そうね、でもこれは日本人以外はあんま食べないんだ」
「なるほど。……あ、これ美味しいです」
「たまごか。真白はちょっと甘くしたものが良いのかもね」
まるでおままごとのように、真白はちまちまと具材を拾って口に運んでいく。
「は~……」
可愛い。一生見てられる。
正直別の意味でおなかいっぱいになり、缶ビールを開けた。
そういえば真白って何十年も生きてるらしいから、お酒飲めるんだよな。……でも、飲ませるのはやめとこう。見た目は十代だから罪悪感がすごい。
ビールをあおぎ、アケミは頬を紅潮させた。アルコールのおかげで、言うつもりがなかったことも口から出てきた。
「ちらし寿司って、俺らはお祝い事がある時によく食べるんだよ」
「へえ。宴にぴったりのメニューとは」
真白はスプーンを置き、顔を上げた。
「では……アケミさん、なにか嬉しいことがあったんですね?」
どこかワクワクしながら、こちらの返答を待っている。
いつも慎重で、だけど危なっかしくて、最高に愛らしい。
「……あぁ」
彼と居られる時間は、綺麗な宝物だ。
「真白がご飯を食べてくれたこと。俺と一緒に食べてくれたこと……全部嬉しくてめでたいから、その記念だ」
テーブルに手を置き、真摯な瞳を真っ直ぐに見つめる。
真白は最初きょとんとしていたが、意味が分かってからは頬を赤く染めた。
「ん? 照れてる?」
「照れてません」
「あははっ、本当にピュアで可愛いなぁ。……真白は、南国の魚より淡白な俺を狂わせてることを誇りに思った方がいいよ」
アケミは真白の柔らかい頬を指で押しながら、深く息をついた。
胸の中がいっぱいだ。一区切りついたような安心感と、新たな感動に心が凪いでいる。
俺は、俺が持ってる全ての愛を彼に注ぐと決めた。
「アケミさん」
「うん?」
その想いが彼に伝われば、もっと嬉しい。
窓の外に映る灯火を横目に、目の前に座る彼へ振り返る。
真白は、灯火が霞むほどの眩い笑顔を浮かべた。
「俺、またはっきりと分かりました。特別な日は更新される。貴方のおかげで、どんどん幸せになっていく」
「真白……」
「ありがとうございます。大好きです、アケミさん。貴方がいれば、俺は何でもできる」
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