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永遠、代わりの君

#8

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「変なこと言ってすいません。准さんが盛大にビールを吹き出すと分かってれば言わなかったのに」
相変わらず謝罪するところがズレてる。でも、そんなのはもう慣れてしまった。

「それよりお前、何で加東さんに妬いてんの?」
「さぁ。何ででしょう」
「なんっ!?」

疑問形で返ってきたことに驚き、彼の方に身を乗り出した。
「分かんないで嫉妬してるのか!」
「いや、正直嫉妬かどうかも分かりません。ただ准さんが加東さんと仲良くなってくのを見たら、ムラムラしちゃって」
「ムラムラ?」
「あ、間違えました。イライラですね。欲情してるわけじゃないです」
「……!!」
ま、まぁ……それでも、俺達にイライラすることが何を指してるのか。
……分かんないのかなぁ。
いつも俺のことを鈍感だとか罵るけど、人のこと言えないじゃんか。
「じゃあ、今のお前に訊く。俺に男の恋人を作ってほしいと思う?」
「え? えぇ、もちろん。俺はその為に貴方に会いに……」
涼は弱々しい声音で答えた。

「じゃあその相手が、お前ってのは?」

彼は怪訝な表情を浮かべたが、意味を理解して耳まで真っ赤になった。
「ど、どうしてそうなるんですか。からかわないでください」
「怒んなよ。からかう気なんかこれっぽっちもないし」
宥めるつもりだったのに、何故か涼の顔はさらに赤くなった。
「一体何を言ってんだか……准さんには加東さんがいるじゃありませんか」
「俺も、最初はあの人に近付けるよう頑張ってた。でも段々、お前に応援されてんのが変な気分でさ。俺が本当に気になってる人は、多分……加東さんじゃないような気がしてきたんだ」
「それはダメです!」
想いの内を明かすと、彼は強い口調で叫んだ。
「俺が思うに、加東さんを諦めちゃいけませんよ! 准さんは周りを気にしないで、恋人を作ってください!」
「何でそんな、加東さんって決めつけるんだよ。俺が誰を好きになるかは、俺の自由だろう?」
「それはそうですけど……不安なんです」
彼は立ち上がって俺の正面に回った。
そして、まるで懇願するようにその場に屈む。

「准さんが幸せになることは、ある人の不幸かもしれません。でもそれでいい……これからは貴方が、自分で……自分の人生を選んでください」




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