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◇誕生日

#8

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二十八回目の誕生日は今までとまるでカラーが違う。誰かと肌を重ねて過ごす夜自体、まだ慣れてない。
二人きりに慣れてないのに。
准はベッドに腰掛けて、ひとり呟いた。

「“今日”も……短かったな」

そう言った途端、布団が勢いよく遠くへ飛ばされる。さっきまで寝ていた成哉が飛び起きた為だ。
「びっくりした~。もうちょいゆっくり起きろよ。今は若いからいいけど、お前は落ち着きがなさすぎ」
「いやいや、駄目です! のんびりしてたら誕生日が終わっちゃう!」
成哉はズボンだけ履くと、慌ててベッドの上で正座した。

「准さん、誕生日プレゼントなんですけど……まさかこんな事になるとは思ってなくて」
「な、何」

暗い表情の彼に、思わず心臓が跳ねる。もしかして、何かやらかしてしまったのか?
どきどきしながら様子を窺っていると、成哉は枕の下から小さな紙袋を取り出した。さっきまで彼が散々下敷きにしていた、枕の下に。

「いきなりアレに突入したんで、俺も頭真っ白になっちゃって……あのこれ、誕生日プレゼントです。潰れちゃったけど、そこは目を瞑ってください。中身は無事だと思うので」
「いやいや、気持ちだけで嬉しいわ。ありがとう」

ぐっしゃぐしゃの紙袋を受け取る。中には小さな黒いケースが入っていた。形状から、中身は何となく推し量れた。
時計より小さい。多分、アクセサリーの類。
ゆっくり開くと、中には銀色に輝く指輪が入っていた。

「准さん。どうか、これからも末永くよろしくお願いします」

取り出した指輪は暗がりの中でも光っていた。准が慎重にはめると、サイズはぴったり。これは今日一番のサプライズだろう。

「あー……こういうのは……俺から渡さなきゃいけなかったよな?」
「いえいえ! 誕生日ですから。俺は世界で一番、准さんの特別な日をお祝いしたいんです」

そう言って、成哉はサイドテーブルからもう一つ同じ指輪を取り出した。
 
「へへ。准さん……俺、自分が常識と遥かにかけ離れた人間だって自覚があります。そんな……そんな俺を選んでくれた貴方に、俺の人生を捧げたい」

手と手が触れ、互いにはめた指輪が当たる。カチン、という小気味良い音が鳴った。

「だから、これからも傍にいさせてください」





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