欠けるほど、光る

七賀ごふん

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二石

#3

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バイトをしていた時は、オーナーが叔父だから考慮してもらえていた。でも現実問題、雨の日に必ず体調不良になる人間なんて社会のお荷物でしかない。
「久しぶりに会ったのに、愚痴を吐いてすみませんでした。それじゃ……叔父さんもご無理なさらず。煙草も少し控えてくださいね。吸殻たまりすぎですよ」
「それは約束できないな。あぁ後、反省はするなよ。お前が今どれだけ反省しても、辞めた会社には一銭も入らないんだから」
「でも、反省はしませんと」
「病気を持って生まれたことを? それこそ馬鹿馬鹿しい」
叔父は少々乱暴に煙草を灰皿に押し付けた。

「理解されないなら、理解されなくても問題ない環境を探せ。───ちょうどウチのオフィシャルサイトを運営してくれる人間を捜していてな。まだ募集はかけてないから、お前がやってくれるなら広告費をかけずに済むんだが」
「叔父さん……」
「プログラミングも商品知識も多少あるから言ってるんだ。リモートで良いから、まずは簡単な修正からやっていけ」

また大事な人に助けてもらってる。
申し訳なさと、自身に対する歯がゆさと、……とめどない感謝の念に押し潰されそうになった。

「でも、本当に良いんですか? も、もちろん、受ける際は全力でやりますけど」
「二回も言わないから今決めろ。お前は考え込むと長いだろ」
「……」

さすがによく分かってる。下手したら、彼は俺の親より俺の性格を理解しているかもしれない。
知識や技術はこれから死ぬ気で身につけるとして……このまま塞ぎ込んだら本当に再起不能になる。
今の生活を変える為には行動しなくちゃ。
「やっ……やります。やらせてください……!」
「よし。決まりだな」
叔父さんはにやっと笑って、黒ブーツを履いた脚を乱暴に下ろした。
一見怖そうな見た目だけど、実は誰よりも人間味があって、義理深い。そんな叔父を密かに尊敬していた。

「こんな風にコネを使うの、本当は良くないと思うんですけど……来月から無収入になるところだったんで有り難いです」
「はは。じゃあこれからは俺の言うこと何でも聞けよ」
「横暴だ……」

簡単な資料を受け取り、鞄に仕舞う。改めて礼を言い、おいとましようとすると、彼は思い出したように指を鳴らした。

「そういやぁ、あの子とは今も会ってんのか?」
「あの子?」
「お前がバイト辞める直前まで、ここに足繁く通ってた男子高校生がいたろ」
「あ、あぁ……」

不意をつかれ、しどろもどろに頷く。
そうだ。忘れるわけがない存在。
「いえ、会ってません。大学で真面目に勉強してるだろうから」
「ふーん、そりゃ残念だな」
煙を吐き、彼は頬杖をついた。

「石のことよりお前のことばっか訊いてきて、ほっといたらプロポーズでもしそうな勢いだったのに」
「プロ……!?」

まさか、他人からもそう見えていたとは。あいつめ……いや、それより全力で否定しないと。
「子どもの好奇心でしょう、からかわないでください。それじゃ、失礼します!」
「おー」
宙が勢いよく扉を開けて店を出た後、紫信はまばたきを繰り返し、そして呟いた。

「変だな。あいつの話をしながら恋愛運上昇の石を探してたんだけどな……」

灰皿の吸殻を角に寄せて首を傾げる。
純粋だが、コンプレックスのせいで他人と関わる距離を測れない。不器用にしか生きられない甥っ子に、紫信は数年ぶりにため息を零した。





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