欠けるほど、光る

七賀ごふん

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四石

#9

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早くもグラスを空にし、透夜は頬をつついてきた。
「そうだ。道流の奴から連絡がきてて、また今度宙さんとゆっくり飲みたいって言ってました」
「あぁ……!」
グラスにワインを注ぎ、ゆっくりテーブルに置く。
そういえば、この前は自分がコーヒーをこぼした為慌ただしくお開きにしてしまったのだ。

「あんな事したのにまた会いたいって言ってくれるなんて、ほんと良い子だな。今度は握手させてくれ」
「別に大したことじゃないと思いますけど……でも確かに、道流は裏表とかないから」

透夜は再びワインを口にし、わずかに赤みを帯びた頬を隠すように肘をついた。
「俺は学校の奴らと遊ぶつもりはなかったので、基本ひとりで過ごしてたんです。でも道流はやたら俺に付き纏ってきて、長い戦いの末、負けたんですよね」
「勝ち負けなのか……?」
「あはは。とにかく、大学では一番仲良かったです。けど就職してからはお互い忙しくて」
孤高の人を貫いていたというのも意外だったけど、懐かしそうに話す透夜を見て、何だか胸の中がキュッとした。

「やっぱりな。彼、お前を見つけた時嬉しそうだったもん」
「そうですか? 宙さんって、よく人の表情見てますね」
「クセみたいなもんだよ」
思えば物心ついた時から顔色を窺う習慣があった。父と母の機嫌を損ねることが一番不安だったし、場の空気を壊すことが恐ろしくてたまらなかった。

それを辛いと思う感覚すら麻痺してしまったらしい。

「じゃあ、俺が道流と仲良くしてるところを見てどう思いました?」
「どう……って」

俺をいじるときの透夜は、不敵な笑みになる。それに気付いたとき、猛烈に恥ずかしくなった。

「どうもしないよ」
「本当に?」

手が重なる。振り払おうと思えば振り払えたのかもしれないけど、横から注がれる視線が気になって固まった。
彼はどこを見ているんだろう。俺の顔か、首元か……どこも火照って、赤くなってる気がする。

「……もう、あんま見るなよ」
「あはは、見るぐらいいいじゃないですか。欲を言えばもっと触りたいけど」

指の間に、彼の指が滑り込む。ごつごつした手触りに、何故か背筋がぞくっとした。
「は……」
視線と手のひらだけで、心を裸にされたみたいだ。

「道流に妬いたりしませんでした? ……宙さん」

唇に人差し指を当てられる。見上げた俺は、どんな顔をしていただろう。
多分、相当真っ赤になってるはずだ。目が合った透夜が、これ以上ないほどニヤけていたから。

「宙さん。大丈夫だから、隠さないで」

向かい合い、テーブルの下でつま先が触れる。

「どんな小さな感情も俺に伝えて。嬉しい時も、怒った時も、悲しい時も。昔と違って、全部まるごと受け止めるから。心配しないで、さらけ出してください」




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