欠けるほど、光る

七賀ごふん

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四石

#11

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目元を指で優しくなぞられる。
不思議に思って顔を上げた時、一筋の雫が伝った。

「……っ」

俺、泣いてる?
まさかと思って自分の頬に触れると、確かに涙でぬれていた。

「貴方は俺の為に、自分の気持ちを殺してるようにしか見えないんです」

だけど、それが一番つらい。透夜は引き攣った笑顔を浮かべた。

「世間体とか将来のこととか、俺が幸せになれるよう考えてくれてるのはすごく嬉しいです。でもその未来に宙さんがいないなら、俺が望んだ世界じゃない。……俺は貴方と一緒に生きることを夢見ていたんだから」
「透夜……」

こんな、何でもない日に聞いていいプロポーズじゃないのかもしれない。
どう反応したらいいか分からず目を泳がせていると、透夜は突然頬を赤らめ、俺の両手をとった。
 
「それに言わせていただくと、宙さんはご自分が思ってるより俺のことを好きだと思います」
「は!?」

思わぬ流れに、つい声を荒らげてしまった。
だって普通に恥ずかしい。俺が本当は、透夜のことが好きで好きでたまらない、とでも言うような。
いや……実際、そうなんだけど。認めちゃいけない。

「いい加減認めてください。でないと、好きでもない男を自分の家に住まわせる小悪魔になりますよ?」
「おい、言い方……。その提案をした時は、可愛い弟と思ってたから……」
「これだけ俺が、貴方を恋愛対象として好きと言ってるのに? そこまで警戒心ないんですか?」
「……っ!」

痛いところを突かれてるけど、全て彼の言う通りだ。
強引な人間なら襲ってきたっておかしくないだろう。

「透夜は、そんなことしないって信じてるから」
「信じないでください。宙さんはあまり意識してないみたいだけど、俺はもう何も知らない高校生じゃない。大人の男ですよ」

そんな風に言われると、急に不安や恐怖が顔を出す。
彼の言ってることは当たり前だ。歳月で人は変わる。高校生だった頃の彼はもういない。

でも、それでも俺は……。

「一緒だよ。四年前からずっと変わらない……俺の大好きな透夜だ」

大粒の涙が溢れる。
それは堰を切ったように零れ落ち、膝をぬらした。

透夜が大好きな気持ちも、押し留めることなんて不可能なんだ。

鬱陶しい前髪を払って嗚咽すると、彼は少し恥ずかしそうに頷いた。

「やっと聞けた」

ちょっとムッとしたけど、透夜は心底嬉しそうに俺の顔を引き寄せ、唇を塞いできた。

「貴方もずっと変わらない。本当に可愛いひと」
「可愛くない」
「可愛いです。もちもちだし」

頬を優しくつねられる。
歳上としてこういうところが少し不満で、だけどやっぱり、嬉しいと思ってしまった。

関わり方はあまり変わらないけど、関係性は音を立てて変わったのだ。

「宙さん、俺と付き合ってください。人生のパートナーとして」

俺達はこれから、どんな空模様でも二人並んで見上げることになる。

それは小さな光の粒と同じ。目に見えないほど極微で、それだけに手に入れるのに苦難する、尊い奇跡だ。

「……あぁ」

“幸せ”と言い換えて良いんだろう。
差し出された手を取り、その手にそっと口付けした。

「ずっと待ってくれてありがとう。改めて、これからよろしく」




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